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第15章 ヒトメボレ

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 純子は一気に慶子に進一を託すようなことを言うと、ここで昼食をしただけのように、平然とドアを開けて出ていってしまった。慶子は渡されたハンカチで涙を拭いながら進一をにらんだ。
「係長、こんなことでいいんですか?」
「ごめん、ほんと、ごめん、彼女には逆らえないんだ」
 椅子に腰掛けていた進一は、ズボンを下げたまま慶子の前にいたことに気が付くと、あわてて服装を正した。その様子を見た慶子は進一のものをじっと見ていたことに初めて気が付いて顔を赤くした。
「さあ、僕らもここを出ようか……」
 進一は何事もなかったように平然と、慶子の両腕を抱え、立つことを促した。慶子は進一に支えられゆっくり立ち上がった。慶子は悲しいはずなのに、進一と2人だけの不思議な充足感を感じていた。
「えっ? もしかして食事をしただけだった? 今までの悪夢は、ヒトメボレアプリの作った仮想ゲームだった?」
 慶子は手のひらを広げて見た。奇麗な手のひらだった。慶子が奇麗になめてしまったからなのか、バーチャルだったのか、慶子の記憶が不確かになってきた。机の上を見つめると、弁当箱が乗っていた。慶子は弁当箱を持つと中身は食べてしまった後と見え、軽かった。
「え? お弁当はしっかり食べていた? あれは純子が言うように、単にデザートを食べたってことで、恥ずかしい行為ではないの? 」
 慶子は純子のき弁により、訳が分からなくなっていた。あまりにも日常的な場所で、昼の憩いの時間に、純子の言うところのデザートを食べていた行為が、現実だったのか、仮想だったのか。時間がたつにつれ、記憶が曖昧になっていく。慶子が記憶に残っているのは、今まで味わったことがない、忘れられない味覚が今も舌の上にあった。
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