Re:crossWORLD 異界探訪ユミルギガース

LA note (ら のおと)

文字の大きさ
22 / 48
2章 Queen ANT (アリの女王編)

23.anima

しおりを挟む
「いい加減、魔法を「のうりょく」って呼ぶのを辞めませんか?」

 移動するバスの車内でかじ 大作だいさくがみんなに意見を求めていた。

「いや、そもそも魔法って最初に言ったのお前だろ?」

 ハンドボール部顧問で物理教師の堂島どうじま海里かいりが反論する。

「そうですけど!いや、ハッキリ言ってこの世界が異世界で転移して来たんなら異世界転移モノ!と言うカテゴリーじゃないですか!だったら魔法っていうのが当たり前じゃ無いですか⁉︎」

「当たり前じゃ無いですか?って言われても知らんし!でもここって異世界っちゃあ、異世界じゃね?」

「いや、違うんですよね!何か、魔法ぽいのは月斗げっと先輩の火球ファイアボールぐらいじゃ無いですか!」

「月斗の魔法のうりょくは魔法っぽいよな!」

「ほらまた!魔法をのうりょくって呼ぶ!」

「そもそも、使える魔法がショボすぎませんか?」

 梶が更に続ける。

「堂島先生は、指から塩水を出すとか、陸先輩は、ちょっと地面が盛り上がるって!まぁ、割と便利なのは1年の伏見のスマホを充電したり、電波を生み出して通信が出来るってのはいいんすけど…地味って言うか…、普通、異世界で雷属性の魔法って電撃とかじゃ無いですか?しかも、電波の飛ばせる範囲が恐ろしく狭くてせいぜいバスの車内だけって!…LANか!ローカルエリアネットワークか!しかもそれを誰がネーミングしたか知らないですけど、「異次元いじげんパケット」って!呼んでるでしょ!」

「ああ、それ私です!」

 と言って三原みはら蔵人くろうどがバスの運転をしながら手をあげる。

「三原さんは、運転に集中して下さい!」
 
「大体、三原さんの青い制服の左右にある白いポケットの形もすごい気になってるんですよ!その体型とその制服で「異次元パケット」って言ったらダメですよ!」

「異次元パケット~!」

「その言い方!すごい寄せてきてるし!」

 やや、ずんぐりとした体型の三原に対して

 梶がすごい勢いでまくしたてていると後ろの席から

「…アニマ…」

 とボソボソっとした小さな声が聞こえてくる。

 梶が振り返ると長い前髪で片目を隠した淡路あわじ駿しゅんが聞こえるか聞こえないかの様な声で呟いている。

「えっ?」梶が聞き返すと

「アニマ…」とまた小さく呟いた。

駿しゅんが言うには、子どもたちが魔法の事を「アニマ」って呼んでたらしい。」

 淡路 駿の隣の席に座っている道修どしょう空太くうたが声を掛けて来た。

 淡路 駿と道修 空太は、月斗や陸、同様、応徳学園中等部からの同じハンドボール部出身のメンバーだ。

 鋭い洞察力どうさつりょくを活かして相手チームや、自チームの動きを観察し抜群のパス回しと自らも点を取りに行けるプレースタイルで中学時代にもCBセンターで活躍をした。

 一方、淡路 駿はその俊足を活かし電光石火の如く点を取りに行くRW逆サイドとしてチームの中枢を担っている。

 ただ淡路 駿は、控えめな性格ゆえに余り人と会話をしない。

 その性格がプレースタイルにもあらわれていて、チームのエースとしてRBライトバックを張れる実力を持ちながら決して自分からは前へ出ようとしなかった。

「淡路先輩!子どもたちってマイクロバスの園児たちのことですか?」

 梶が淡路 駿に質問をすると、彼は無言のままコクンとうなずいた。

「駿が言うには子どもたちは、魔法をアニマと呼んでいたらしい。」

「アニマ…アニマか!何か、その方が良いですね!」

 元々細い目をした梶は更に目を細めて笑う。

「先生!コレからは魔法の事を『アニマ』って呼びましょう!」

「あ、ああ、それで良いんじゃね!それよりも子どもたちがそんな呼び方で呼んでた方が気になるけどな!」

「それについては、やっぱり6の園児が関与してるんじゃ?」

 バスは、南 千里達を乗せ先行するマイクロバスの後ろを一定の車間距離を保ちながら走行している。

 赤いクーペの車輪の跡が地面に全く残っていなかった為、どの方向に移動したのかわからなかったが南 千里の千里眼によって残された2台以外の気配を頼りにその方角へと向かう事にした。

 幼稚園児たち以外に南 千里を含むAチームがマイクロバスに乗り込んだ。

 舗装などされていない地面は、前日の雨でぬかるんでいて水溜りを避けながら走行する2台は、スピードを控えて走り続ける。

 出発から20分程経過した頃、進行方向の斜め右手に前日に月斗が火球ファイアボールで倒したトリが群れを作ってバスと逆方向に走っている。

 ダチョウを大きくした様な姿で鎌首を持ち上げた蛇のような長い首と退化した羽を持つ、前日に倒した個体よりも倍ほどの大きさの巨体をしたが10頭程の群れをなして猛スピードで移動していた。

「まずい!あんなのに襲われたら一溜りも無い!」

 いち早く気付いた堂島がハンドルを握る三原に声を掛けると三原は前を走るマイクロバスにパッシングをしてアクセルを踏み込みスピードを上げてマイクロバスの右側に並走した。

 廻りこんだバスの窓を開けて堂島がマイクロバスの運転手に声を掛ける。

「出来るだけスピードを上げてから離れて!」

 マイクロバスを完全に追い越してバスはスピードをあげる。

 同様にマイクロバスもスピードをあげるが、前日の豪雨で溜まった水溜まりがぬかるみとなってタイヤが空回りを始めた。

 マイクロバスは、バランスを崩しかけて何とか車体を維持しながらぬかるみを抜け出そうと試みるがかえってタイヤが柔らかくなった大地に沈んでいく。

 の群勢が、2台に気付き方向を変えた。

「まずい、気付かれた!スピードをあげろ!早く!」

「マイクロバスが取り残されています!」

「間に合わん!」

 の群勢が猛スピードで、ぬかるみにハマってタイヤを空転させているマイクロバスに迫って来る!

 堂島達の乗るバスの後方に取り残されたマイクロバスに向かっての群勢が勢いを増して迫って来る。

 マイクロバスの車外に2つの人影が現れたかと思うとの群勢に向かって火の玉が飛び交い炎が激しく燃え上がった!

 先頭を走るが目の前に広がる炎の柱に驚いて速度を緩めると後続のがぶつかって激しく将棋倒しの様に転倒する。

 衝突を避けたが左右から抜けて来ると勢いを増した炎の柱に飛び込み、炎は退化した羽や羽毛に燃え移り、耳をつんざく様な金切り声をあげながら、次々と倒れ込んでいった。

 の10m以上はある巨体が倒れ込んでは折り重なり激しい炎がの身体を焼く。

 転倒と炎を避けた数頭が方向を変えて逃げ去ろうとした時、地面から突如、巨大なアリの様な形状をしたが姿を現した。は一瞬にして逃げ出す数頭のの周りを取り囲み、の先端から突き出している薙刀(なぎなた)の様なモノでの足をなぎ払うと両脚を失ったが突っ伏して倒れ込んだ。

 一瞬の出来事に戸惑いながらも、ぬかるみから抜け出たマイクロバスはその場から走り去ろうとするが、そのアリに似た乗り物に瞬く間に取り囲まれてしまう。

 更に数十メートル離れて止まっていた堂島(どうじま)達の乗ったバスも黒いアリの様な乗り物に包囲され先端の尖った薙刀(なぎなた)の様なモノを向けられて四方をグルリと取り囲まれた。

「取り囲まれた!まずいな!」
バスの車内に緊張感が増す。

「月斗先輩達の乗ったマイクロバスも包囲されてます!」

「梶!これってお前が言うところのイベント!って言うやつか?」

 堂島が異世界に詳しい梶に尋ねたが無言のまま、額から汗を流している梶の姿を見て異常を感じ取った。

「非常にマズイ状況…て事だな…」

 静まりかえったバス車内から外を見渡すと、に似た乗り物から人間サイズの人影が降りて来る。

 人間サイズの…と言う表現通りその人影の姿がまるで二足歩行をしているそのものだった。

 いかにも固そうな外皮に覆われ、頭はまるで特撮映画の様なマスク…アリの怪物の様な姿をしていた。

 手には先端の尖った槍の様なモノを持ち背中には透明な羽の様なモノが見える。

 アリ…と言うよりもハチ…に近いのか?生態系の分類上、アリはハチ科に属する。いずれにしても言葉が通じる様な相手では無さそうだ。

 その姿を目の当たりにして車内に一層の緊張感が走った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...