一時間の約束【完結】

moa

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第七章

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自動ドアが開いた。



ひんやりとした空気が頬に触れる。



中は、静かだった。



床は白くて、足音がやけに響く。



受付に立っていた人が、こちらを見る。



「どうしましたか?」



喉がうまく動かない。



「……りん、って子、いますか。」



自分でも驚くくらい小さな声だった。



「名字はわかる?」



……止まる。



「……わかりません。」



受付の人が少し困った顔をする。



「下の名前だけだと、探すのが難しくて。」



「……りん、です。ひらがなで。」



受付の人は少し困った顔をして、パソコンを見た。



しばらく、カタカタと音がする。



「少しお待ちください。」



受付の人はそう言うと奥へ行ってしまった。



待つ時間が、長い。



ポケットの中の箱が、やけに重く感じる。
 


やがて、白い服の看護師さんが出てきた。



「君が……れおくん?」



心臓が跳ねた。



「……なんで、知ってるんですか。」



看護師さんは、少しだけ目を伏せた。



「りんちゃんから、聞いていたの。」



嫌な予感が、ゆっくり広がる。



「りんちゃんは……」



そこで一度、言葉が止まる。



ほんの一瞬。  



それだけで、十分だった。



「昨日、亡くなりました。」



音が消えた。



廊下の白さが、にじむ。



「え?」



うまく、理解できない。



「重い心臓の病気でね……ずっと、ここに入院していたの。」



入院。



その言葉が、胸に刺さる。



四時から五時。



借りものの時間。



少し息が荒かったこと。



すぐベンチに座っていたこと。



全部が、今さら繋がる。



「……うそだ。」



声が、かすれた。



看護師さんは、首を振らない。



ただ、静かに立っている。



「これを。」



差し出されたのは、白い封筒だった。



少しだけ、角が折れている。



「れおくんが来たら、渡してほしいって。」



手が震える。



封筒には、ひらがなで書いてあった。



“れおへ”



その字を見ただけで、指が震える。



開けられない。



ここで読んだら、本当にいなくなる気がして。



気づいたら、僕は封筒を握りしめたまま走っていた。



信号も、車も、覚えていない。



足は勝手に、公園へ向かっていた。



公園は、いつもどおりそこにあった。



ブランコが、風で揺れている。



りんが座っていたベンチ。



砂場。



鉄棒。



全部、変わらない。



変わっていないのに。



僕は、何もできなかった。



ベンチに座り、封筒を取り出す。



“れおへ”



その文字を見つめる。



開ければいいのに。



指が動かない。



夕方の光が少しずつ薄れていく。



四時から五時。



あの一時間は、もう来ない。



その日、僕は何もできなかった。



手紙を開くことも。



泣くことも。



ただ、そこに座っていることしかできなかった。
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