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第7話 ぴたりと合う
しおりを挟む「え…………?」
差しだされたクラウスの手。
エミリアはそれを夢でも見るような顔で、しばしぼんやりとながめる。
「やはり俺では……役不足、かな?」
そんなエミリアをどう勘違いしたか、クラウスが不安げに訊ねてきた。
クラウスの麗しい面差しが憂いを帯びるのを見て、エミリアはひどい罪悪感に襲われ、慌ててぶんぶんと首を振る。
「い、いえ……光栄でございます! ただ、驚いてしまっただけで」
「ならば問題ないな」
エミリアが答えた瞬間だ。
クラウスは一転して悪戯な微笑を浮かべ、それを待っていたようにエミリアの手をとる。
(あ、あれ……?)
そしてあれよあれよといううちに、エミリアはダンスホールの中央へと導かれてしまった。
なにか嵌められた気がしないでもなかったが、それはともかくとクラウスへと向きなおる。
「お相手がわたしで……本当によろしいのですか? 殿下のお名前に傷をつけてしまうやも……」
心配するエミリアだが、クラウスはしばし首をかしげてから、
「……ああ、あの根も葉もないうわさのことか。きみが不義を働いたとか令嬢を虐げたとか……あれは真実なのか?」
「いえ……神に誓って、そのようなことはしておりません!」
「ならば気にすることはあるまい」
クラウスはあっけらかんと言う。
「だが……このクラウス・トラフォードの名が、その程度で傷つくと思われているとは心外だな?」
「あ……申し訳ございません!」
クラウスは約束された名君と言われる完璧な王太子だ。確かにエミリアと踊った程度で信頼はなにもゆらぐまい。
エミリアが慌てて頭をさげると、クラウスはくすりと笑みをこぼす。
「すまぬ、冗談だ。きみが当惑している姿は初めて見たから、ついもっとからかいたくなってしまった。そもそもそのようなことを気にするぐらいならば、招待状など送らぬよ」
「え……まさか殿下が!?」
驚愕に目を見開くエミリアに、クラウスはこくりとうなずいた。
招待状の主が誰なのかずっと疑問だったが、まさかクラウスとは。
ということは、このドレスも――
「ああ、俺だ。俺の趣味ですまないが、きみにならば似合うと思った」
「い、いえ……素敵なものをありがとうございます。似合っているはともかく、着たことがないタイプで新鮮でした」
それならよかった、とクラウスははにかむような優しい笑みをこぼし、
「……そして、とても似合っている。きみを見かけるたび美しいと思っていたが、今日はひときわ輝いているようだ」
「あ、え……ありがとうございます」
クラウスに賞賛され、食いいるように見つめられ、エミリアは当惑して頬をそめてしまう。
だがいつもとギャップのある王太子に心かき乱されていると、次曲の演奏がついに始まる。
二人は無言で見つめあい――
「……」
まるで示しあわせたかのように、同じタイミングで動きだした。
エミリアにとって初動がぴたりと合うその感覚は、過去のダンス教師との練習以来だった。
その感覚がとても心地よく、エミリアはつい調子に乗って余計なステップを刻んでしまう。
「……」
だがクラウスはそのエミリアのステップに見事に合わせきり、完璧な動きで応えてみせる。
エミリアはさらに高難度の動きを次々と繰りだすが、それにすら完璧に対応してみせた。
(すごい……)
エミリアはエドワードと踊るとき、彼の乱暴なダンスに合わせて常に彼をフォローするように踊っていた。それは正直、ダンス本来の楽しさを感じられないものだったのだ。
だがクラウスとのそれは違う。
(……楽しい)
素直にそう思った。
お互いに実力が拮抗しているからだろう。エミリアが動けばクラウスも動き、クラウスが動けばエミリアも動く。そこにはなんの無理もなく、これ以上ないぐらいに自然だった。
「……」
言葉はない。
だがダンスで通じあっているという確信めいた感覚があった。
エミリアはその感覚に高揚感を覚えつつ、クラウスとしばし至福のときを楽しむのだった。
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