前世ラスボスの陰陽師は正体を隠したい ~元大妖怪、陰陽寮に仕官する~

蘆屋炭治郎

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2章 陰陽寮

18話 陰陽師、歓迎を受ける

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(なんだこの至れり尽くせりは……!?)

 安倍邸、西の対屋たいのや北廂きたびさし

 用意されていたその客間に戻り、そこに広がっていた光景に唖然とする清士郎。

 あまりに豪勢な夕餉ゆうげが並んでいた。

 まず目につくのが、山のように――いや、それ以上に天高く盛られた白米。これだけで清士郎にとっては夢にまで見た晩餐である。

 だが、もちろんそれだけではない。

(これは夢か……夢なのか)

 色鮮やかな三種の菜、汁物まではそれなりの貴族の夕餉としてありがちだが、清士郎が一度も口にしたことがない鯛やウニといった海鮮、鴨だか猪だかの干し肉、選りどりみどりの調味料、果物や菓子までずらりと並んでいるのだ。

 今からここで大々的な宴でも始まるかと思ってしまうほどの驚愕の品揃えであった。

 そしてそれらすべてが清士郎ひとりのためだけに用意されたものというのだから開いた口が塞がらないし、あふれだす涎もとまらない。

「いやしかし……いくらなんでも、僕のためだけにここまで準備してくれるものか?」
「もしや毒を盛られているのでは……?」

 そんなふうに凍砂と警戒するものの――


「う……うまい、うますぎる! こっちも……こっちもこっちも、全部うまいぞ!」


 それも一瞬のことだった。

 毒に耐性のある凍砂が毒見と言い、好物の鮎をうまそうに頬張るのを見るや、清士郎は我慢ならずに白米を口内へと掻きこんでいた。

 一度口にいれたら、もうとまらなかった。次から次へと料理を口の中に放りこむ。

「ううっ……僕さ……こんなにうまいもの食べたの……ひぐっ……初めてかもしれない」

 しまいには号泣した。

 刀伎家では祝いの席でも、清士郎は働き蟻のごとく働かされていた。だからまともに豪勢な料理にありつけた試しがなかったのだ。

 腹いっぱいに白米を食べるというのは、清士郎にとってひとつの夢だったわけだが、それは意図せぬ状況で叶ってしまったのだった。

 ちなみに凍砂はというと、「まずいまずい」と酷評しながらも、身を食いつくした魚の骨にいつまでもかじりついていたり、清士郎が雑に空けた皿に顔を沈め、ふがふがと夢中になって残飯を漁っていた。まったく素直じゃない。

 そんなこんなで一人と一匹が、大量の料理をがんがん平らげていたときだ。


「……?」


 足音が、聞こえた。

 殺気はない。下働きか誰かだろう。

 凍砂に目配せすると、凍砂は清士郎の体をよじのぼり、胸元から小袖こそでの中に隠れる。

 直後、衣冠姿いかんすがた美丈夫びじょうぶが部屋に入ってきた。

 歳は清士郎よりも少し上ぐらいか。
 初対面の若い男だった。

 しかし初対面という気はあまりしない。
 なぜなら一見して安倍家のものとわかるぐらいに叡明に雰囲気が似ていたからだ。


「お前か……刀伎清士郎というのは」


 ぶっきらぼうに訊ねてくる男。

「そう……ですけど?」

 うなずくと、男はふふっと鼻で笑う。

 それから見下すような嘲笑を浮かべ、清士郎を舐め回すように見てきた。凍砂が散らかした膳を見つけると、小馬鹿にする笑みを深める。

「そうかそうか……兄上が加冠役かかんやくを務めたというからどんな傑物けつぶつかと思えば、このような尻の青そうな童だとはな。赤子のようにぜんを汚しておるが、鳴松なりまつでは獣のように皿に顔を埋めて食事でもするのか? 程度が知れるな?」

 叡明の弟と思しき男は、清士郎に好き勝手言い捨てたあと、くつくつと笑った。

「兄上……? 叡明さまの……弟?」
「なるほど、田舎者はこの安倍あべの義比良よしひらの名も知らぬのか。覚えておけ。いずれは陰陽寮の頂点に昇りつめ、最高の陰陽師として名を馳せる男だ」

 義比良は自信満々に言いはなつ。

 そう言うだけあり、確かに霊圧からは並々ならぬ才能を感じた。さすが叡明の弟か。もちろん、清士郎からすればまだまだ発展途上だが。

「にしても……こんな童に目をかけるとは、兄上の目も節穴になったものだな」
「ですね、自分もそう思います」

 特に何も考えずに即答すると、義比良はその切れ長の瞳をすっと鋭く細める。

「皮肉も通じないとは……救えない。まあいい。お前がやっていけるほど陰陽寮は甘くない。すぐに現実を思い知るだろう。せいぜい明日の模範訓練もはんくんれんで指名されて、皆の前で赤っ恥をかかないように“装”の鍛錬でもしておくことだな」
「模範訓練?」

 なんだそれは、と首をかしげる清士郎。
 義比良は忌々しげに舌打ちし、

「兄上ふくめた四名の特等陰陽師が、朝礼で一人の陰陽師を指名し、皆の前で直々に稽古をつけてくださるのだ。そこで実力を見せられれば除目にも影響が出る。もっとも……指名されるのは特等の方々に認められた優秀な陰陽師だけ。お前は指名の選択肢にも入らないだろうがな」

 目いっぱいの嘲笑で丁寧に説明してくれる。

「なるほどなるほど……」

 そういうものがあるらしい。

 清士郎には関係なさそうだが。

 そして義比良は散々言って満足したのか、嘲笑とともに清士郎に背を向ける。

「お前がいつまで保つか楽しみだ」

 言い残して立ち去った。

 気配が消えたのを確認すると、清士郎はすぐに白米に手を伸ばして食事を再開する。

「叡明……あんなかわいい弟がいたんだな」

 もぐもぐと口を動かしてそんなことをつぶやくと、隠れていた凍砂が胸元から顔を出す。

 その形相はすさまじかった。

「清士郎さま……今の愚かな下等生物を血祭りにあげる許可をいただきたいのですが」
「却下」

 即答する。

 途端。あああああああ!!! と凍砂は畳に引っくりかえり、転がってじたばたした。

「お……おのれ、あの下等生物ぅうう! 清士郎さまをあろうことか尻の青そうな童だとぉ!? それは貴様のことであろう! 貴様など清士郎さまの手にかかれば、一瞬で肉片すら残らずに灼きつくして冥府送りだというのにぃいい!」
「落ちつけ、かわいいものじゃないか」

 なぜあそこまで敵視してくるか理解できないが、なんのことはない。叡明や東満に比べれば、清士郎はまったく気にならなかった。

 だが凍砂は清士郎が愚弄されたのが我慢ならないようで、永遠に転がっていた。

(湯殿の視線は……あの義比良か?)

 嫌な感じのする視線だったので気にしていたが、そういうことだったのだろうか。


 とにもかくにも――

 そんなこんなで安倍邸でのもてなしを受け、京での一日目が終わっていく。

(とにかく明日からは注目されないように……地味に地味にしていれば問題ないだろう)

 床についた清士郎はまだ知らない。
 陰陽寮初日から、自分が望んでいた地味な一日とは対極の一日を送ることになるとは。









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