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 伯の提案で俺たちは、新山駅近くのマ○クに移動した。
 店の中は満席に近かったが、ちょうど一番奥の席が空いていたので陣取った。
 俺は家に電話して、友達と一緒にマ○クでご飯を食べて帰ると告げ、皆の好意に甘えて相談させてもらうことにした。本当はハンバーガー代を奢りたかったが、笑いながら3人に却下された。

「それで、なんで先週の話を俺にしてないんだ春樹?」

座った途端に啓太は一気にコーラを半分くらい飲んで、俺を睨みながら訊いてきた。今日の啓太は本当に怒っていて怖い。

「ごめん啓太。先週、付き合えって言われて、俺は無理です付き合えませんと即答したんだ。それに、もしかしたら冗談で言われたのかもしれないと考えて、俺の中では終った話のつもりだったし……無駄な心配を掛けたくなかったから……」

俺の声は段々小さくなり、睨んでいる啓太が怖くて伏し目がちになっていく。

「その結果がこれか? なんでお前はそんなに自覚が無いんだ? 昔から人を疑わない、直ぐ人に付いて行こうとする、無自覚に女も男もたらす。原野の奴なんか、中学の時からヤる気満々だっただろうが! は~っ」

啓太はいつものように特大の溜め息をついて、本気で頭を抱える。
 何も言い返せないのが悔しいが、中学の時からやる気満々って……何を?って聴きそうになったが、ラルカンドの記憶で考えれば、男同士のあれやこれだと今なら分かる。

「蒼空先輩、アイツらのこと何か知ってますか?」
「う~ん、俺が去年入学した時は、原野先輩も久我先輩もサッカー部に在籍していた。でも、ゴールデンウィーク明けに停学になって退部した。噂だと、何か暴力事件を起こしたってことだったが……ちょっと待ってろ、3年の先輩に電話してみる」

伯の質問に答えていた蒼空先輩は、同じサッカー部の先輩から情報を貰うため、スマホを手に店の外に出ていった。

「伯、さっきはすまなかった。俺は、春樹のことだと過保護になり過ぎるようだ」

「気にするな啓太。俺は今まで、なんで啓太がそこまで俺を警戒するのか分からなくて、正直腹が立った。でも、俺は今日、お前の気持ちがよく分かったよ。確かに春樹はしっかり守らないと危ない。お前がずっと苦労してきたんだと理解できた」

「そうだろう! 理解者ができて嬉しいよ。それに……一人で何とかしようと考えなかったところを評価する。独占欲の強い男で苦労させたくないんだよ俺は」

伯を認めて褒めているのかと思ったら、何処か棘のある言い方で釘を刺している啓太は、きっとラルカンドの記憶で泣いていた俺を心配しているんだ。
 いつかエイブやガレイル王子の生まれ変わりに、きっと俺が出会うだろうと啓太は予言している。だから、俺の前に現れる男を全て警戒する。

「なんで男限定なんだよ。おかしいだろう啓太! 可愛い彼女で苦労するのかも知れないじゃないか!」
「ああぁ……まあ……そういうことも無いとは言えないが・・・春樹は……」
「何だよ! そこで黙るなよ! 酷いだろ伯? 啓太は俺を腐ってる男扱いするんだ」
「うっ……春樹はさあ……男は嫌なのか? 全く? 全然なしなのか?」

急に伯が真面目な顔をして、俺の瞳を覗き込むように質問してきた。

「えっ? え~っと……ど、どうなのかな……俺は未だ、恋愛経験がないか……」
「そこで否定しろよ春樹! これだからお前は。……っとにもう。伯! 俺にまた警戒されたいのか? そこで嬉しそうに微笑むな!」

啓太が伯を睨みながら立ち上がって、蒼空先輩にいつもヤられているように両手をグーにして、伯のこめかみをグリグリする。

「痛い、痛いって啓太。・・・俺はもう失敗はしない。守るために独占欲なんか出さないよ。だから警戒を解いてくれ」

伯が啓太の攻撃をかわそうと、俺とは反対方向に体を向けて痛いと文句を言う。その後に何か続けて言っていたが、小さい声だったので店内の音楽に消されて、俺には全然聞こえなかった。
 ふと啓太の手が止まり、伯の顔をまじまじと見る。
 そして凄く驚いたような顔をして目を見開くと、顔をしかめて「くそっ、やっぱりお前か!」と呟いた。

「何が? 何がやっぱり伯なんだよ?」
「なんでもない春樹。忘れろ。それより、これからのことを考えるぞ」

啓太は俺の質問には答えてくれず、話題を俺の問題に戻した。
 その時、ちょうど蒼空先輩が戻ってきた。なんだか顔の表情が暗い。

「「何か分かりましたか蒼空先輩?」」啓太と伯が仲良くハモった。
「ああ、事態はよくない・・・表向き学校は後輩への暴力行為として処分し、原野を停学とした。
 しかし、ことの真相は……1年の男子をレイプしたらしい。原野はその後輩と付き合っていたと主張し、ヤられた後輩は同意してなかったと主張した。
 双方の両親と学校が協議し、今後一切被害者の後輩に近付かないと誓約書を書かせ、停学プラス示談金で解決したらしい。原野の親は会社を経営していて、警察沙汰になるのを避けたかったようだ。
 だが被害者の後輩は、結局学校には登校できず、通信制に替えて在学している」

「レイプ・・・信じられない」(伯)
「アイツならヤりかねない」(啓太)
「…………」(春樹)

「まだ続きがある。原野は、付き合っていた男と最近別れたらしい」

「クソッ! マジでヤバイじゃないか!」(啓太)
「一番安全なのはスクールバスだな。会えなくなるのは残念だけど、安全を考えると、自宅近くのバス停から学校の校舎の中まで直通だから、奴等に会うことはない」

伯は絶対に安全なのはスクールバスだと言い、少し寂しそうに微笑んだ。

「そ、そうだね……それなら皆にも迷惑掛けなくて済むね」
「春樹、迷惑とかそういうことじゃない。俺はお前が傷つけられることが嫌なんだ。春樹を守るためなら何だって協力するけど、バスなら安心していられる」

申し訳なくて言った俺の言葉に、伯はそうじゃない、俺が守られることが大事なのだと、俺の目を見て真剣に説得しようとする。

「そうだな。相手を普通の人間だと思わない方がいいだろう。俺に情報を教えてくれた先輩は、原野はド変態だって言ってたし、いつも一緒にいる久我は、原野の言いなりに動く部下みたいな存在らしい。敵は1人じゃない。春樹、3年は1月の中旬までしか学校に来ない。だから4ヶ月だけでもバスにして身を守れ」

蒼空先輩は冷静に物事を考えて、俺に最善の方法はバスだと結論を出した。
 伯も啓太も頷きながら、それがベストだと同意する。

「お前がバスにしないなら、俺は1月まで部活を休部する。そして毎日家までお前を連れて帰る。それに、俺たちは土曜は休みだけど、野上学園は休みじゃない。明日だって安全じゃないんだ」
「はあ? な、何言ってんだよ! サッカー部はこれからが本番だろう?」

俺は啓太の発言に驚いて、思わず抗議するように立ち上がる。

「座れ春樹。どのみち、お前が電車で帰るなら、俺は心配で部活に集中できない。アレは、アイツは普通じゃない。お前には言ってなかったが、入学して直ぐ、俺はアイツに……春樹ともう寝たのか? と聴かれた。まだなら俺に寄越せとも言われた。だから朝の電車の時間を遅くしたんだ」

「はっ? 何それ……何それ……嫌だ……なんで俺に執着するんだよ」

俺はつい先程の原野のにやけた顔を思い出し、急に怖くなり体が震え始めた。

「アイツは、春樹に恋愛感情なんて抱いていない。あの目は、獲物を狙う獣の目だった。だから俺は強引に電車を降りたんだ。アイツの手がお前を触るのを見て、怒りが込み上げた。もう一度頼む。春樹、バスにしてくれ。それから、俺とラインを繋げてくれ。グループラインでも構わない。お前が元気で、安全に暮らしているか知らせてくれ。ダメか?」

 自分の膝の上で震えている俺の手を、伯は隣からそっと握り、とても辛そうな顔をしてバスにしてくれと頼んでくる。そしてグループラインで連絡をしてくれと……

……啓太も伯も蒼空先輩も、本当に俺のことを心配してくれているんだ。確かに啓太は部活を休んででも俺を守ろうとするだろう。これ以上、皆に心配かけちゃいけない。

「分かった。明日学校に行って申請してくる。もしもダメだったら、啓太が帰る電車まで待つ。きっと、悠希先輩に事情を話せば協力してくれる」

俺は顔を上げて真っ直ぐ啓太を見る。伯が言った通り俺は強くならなくちゃいけない。

……そうだ、自分の身は自分で守らなきゃ。どんな手段を使ってでも抗ってやる。ラルカンドが戦ったように、俺も負けない。 

「そうだな、悠希先輩はお前を最大限に守ってくれるだろう。むしろ今回の話を聞いたら、自分で春樹の家まで送迎しそうな気がするぞ」

啓太はそう言いながら伯に視線を向け、ニヤニヤと意味あり気に微笑んだ。

「それは、なんだかちょっと嫌だな……悠希先輩って、学校の近くに家が在るのか?」
「うん。悠希先輩の家は学校と駅の間にある。ちょっと住む世界が違うけど、凄くいい人だよ伯」
「住む世界が違うってなんだ?」
「悠希先輩は大学を卒業したら、うちの学校の理事長になる予定で、学校の創業者一族なんです蒼空先輩。悠希先輩は自分の部屋を2つも持ってるんです」
「そうそう、春樹は悠希先輩を悠希って呼んでるくらいだから」
「「なんだそれ、凄いな!」」

伯と蒼空先輩が驚いた顔でハモったところで、全員が笑顔になった。
 伯はどこか不満そうな不安そうな顔を一瞬したけど、力強い味方がいることに安心し、残りのハンバーガーを勢いよく食べ始める。
 食後は伯の提案通り、4人でグループラインを作った。
 何かあれば直ぐに連絡すると約束して、俺は皆に深く頭を下げお礼を言った。
 自分のために力になってくれる親友や友人や先輩がいるって、本当に心強いことだと改めて思う。
 俺は夜空を見上げて、よい出会いを与えてくださったことを神様に感謝した。
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