49 / 94
49話 世界の物語
しおりを挟む呆れる俺をよそに、お嬢は真剣な表情で巨大本を見つめていた。
「これ、何て書いてあるんだろう」
『世界の物語』
お嬢のつぶやきに、ファンマがぼそりと返す。
イティスがむつかしそうな顔をして首を傾げる。
「世界ってどういうこと? あたしには何にも読めないからわからないよ。もしかして兄貴様のことも書いてたりする?」
「俺のことがかいてあるわけないだろ」
「えー、だってわかんないじゃん。兄貴様って世界を創った神獣なんでしょ?」
「そんなこと」
――と言いかけて止まる。
待てよ。確かに俺はこの世界を、生前にお嬢に読み聞かせたASMR物語の具現化だと考えていた。
もし本当にこの本が世界について書かれているなら、俺の創った物語に沿っているかも。
そうなれば、お嬢について、もっと具体的なことがわかるかもしれない。お嬢の『これから』がわかるかもしれない。
この不自然なゴツさも、そう考えれば妙に納得がいく。俺がお嬢に読み聞かせてきた物語は、本一冊程度じゃ到底収まりきらない。
「おいファンマ。これを読み解けるようにするためにはどうしたらいい?」
『そこまでは知らない。母様なら知ってるかも』
そこでファンマが訓練本をばたんと閉じる。俺は眉をひそめた。
「まだ話は終わってないぞ。お嬢だって読んでる途中――」
『そのお嬢様、眠そう』
「は?」
言われて振り返る。
お嬢はその場にひざまずき、がっくりと頭を垂れていた。
俺としたことが、迂闊だった。そもそもこの部屋に案内させたのは、お嬢の気力体力が限界だったからじゃねえか。
慌てて近くのベッドまでお嬢を促し、横にならせる。すぐに寝息を立て始めるお嬢。
「確かに、ここまで長かったものな。いかに見た目以上にタフだからって、限界はあるんだ。すみません、お嬢」
「ふわぁー。ねえ兄貴様。あたしも一緒に寝ていい? ケルアの寝顔見てたら、あたしも眠くなってきちゃった」
言うが早いか、イティスの奴がもぞもぞとお嬢のベッドに潜り込む。こいつ、お嬢を抱き枕にしてさっさと眠りやがった。
『ふわわぁぁぁ……!』
『覆おう……この天使の寝顔! 何という眼福でしょう!』
そして例によって変態2人が悶える。
俺はため息をついた。
「シーカ。お前、その姿ならお嬢の見守りくらいはできるだろ? 少しここを頼む。ブロンテンが手を出してきたら容赦なく叩っ切れ」
『はい了解です』
『ひどいなあ』
『ご主人はどうされるんですか?』
「俺はこいつともう少し話をしたい」
そう言ってファンマを振り返る。
この霊体メイドは、どういう仕組みか巨大な訓練本をよいしょと背負った。なかなかシュールな姿だ。
「お前の母親とかいう奴のところへ案内してくれ」
『わかった』
『あ、あれ? なあわんちゃん。案内役はこの僕じゃなかったっけ?』
「てめぇはしばらく戦力外通告だ。まったくもって役に立たなかったくせに」
『ひ、ひどい』
「お嬢に何かあったらすぐに報せろ。お前も幽霊なんだから、走ってくるより速いだろ」
俺は踵を返す。
「さあ、頼むぜファンマ」
『ん』
「さっそくだが、やってもらいたいことがある」
『ん』
「……手が届かねえ。扉開けてくれ」
『ん』
『役立たずはわんちゃんの方じゃないのかなぁ? ――わわっ!? 暴力反対!』
俺の目配せを受けてシーカが牙を剥く。
それを尻目に、俺は聖女の部屋を出た。
隣を何食わぬ顔で歩くファンマを、俺はちらりと見上げた。
(あっさり扉を開けやがった。幽霊だけど問題なく物が触れるのか。他の連中とはやはりどこか違うようだ。お嬢にとって有用な奴かどうか……もっと見極めなければな)
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる