神獣ヤクザ ~もふもふ神獣に転生した世話焼きヤクザと純粋お嬢の異世界のんびり旅~

和成ソウイチ

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49話 世界の物語

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 呆れる俺をよそに、お嬢は真剣な表情で巨大本を見つめていた。

「これ、何て書いてあるんだろう」
『世界の物語』

 お嬢のつぶやきに、ファンマがぼそりと返す。
 イティスがむつかしそうな顔をして首を傾げる。

「世界ってどういうこと? あたしには何にも読めないからわからないよ。もしかして兄貴様のことも書いてたりする?」
「俺のことがかいてあるわけないだろ」
「えー、だってわかんないじゃん。兄貴様って世界を創った神獣なんでしょ?」
「そんなこと」

 ――と言いかけて止まる。
 待てよ。確かに俺はこの世界を、生前にお嬢に読み聞かせたASMR物語の具現化だと考えていた。
 もし本当にこの本が世界について書かれているなら、俺の創った物語に沿っているかも。
 そうなれば、お嬢について、もっと具体的なことがわかるかもしれない。お嬢の『これから』がわかるかもしれない。
 この不自然なゴツさも、そう考えれば妙に納得がいく。俺がお嬢に読み聞かせてきた物語は、本一冊程度じゃ到底収まりきらない。

「おいファンマ。これを読み解けるようにするためにはどうしたらいい?」
『そこまでは知らない。母様なら知ってるかも』

 そこでファンマが訓練本をばたんと閉じる。俺は眉をひそめた。

「まだ話は終わってないぞ。お嬢だって読んでる途中――」
『そのお嬢様、眠そう』
「は?」

 言われて振り返る。
 お嬢はその場にひざまずき、がっくりと頭を垂れていた。
 俺としたことが、迂闊だった。そもそもこの部屋に案内させたのは、お嬢の気力体力が限界だったからじゃねえか。
 慌てて近くのベッドまでお嬢を促し、横にならせる。すぐに寝息を立て始めるお嬢。

「確かに、ここまで長かったものな。いかに見た目以上にタフだからって、限界はあるんだ。すみません、お嬢」
「ふわぁー。ねえ兄貴様。あたしも一緒に寝ていい? ケルアの寝顔見てたら、あたしも眠くなってきちゃった」

 言うが早いか、イティスの奴がもぞもぞとお嬢のベッドに潜り込む。こいつ、お嬢を抱き枕にしてさっさと眠りやがった。

『ふわわぁぁぁ……!』
『覆おう……この天使の寝顔! 何という眼福でしょう!』

 そして例によって変態2人が悶える。
 俺はため息をついた。

「シーカ。お前、その姿ならお嬢の見守りくらいはできるだろ? 少しここを頼む。ブロンテンが手を出してきたら容赦なく叩っ切れ」
『はい了解です』
『ひどいなあ』
『ご主人はどうされるんですか?』
「俺はこいつともう少し話をしたい」

 そう言ってファンマを振り返る。
 この霊体メイドは、どういう仕組みか巨大な訓練本をよいしょと背負った。なかなかシュールな姿だ。

「お前の母親とかいう奴のところへ案内してくれ」
『わかった』
『あ、あれ? なあわんちゃん。案内役はこの僕じゃなかったっけ?』
「てめぇはしばらく戦力外通告だ。まったくもって役に立たなかったくせに」
『ひ、ひどい』
「お嬢に何かあったらすぐに報せろ。お前も幽霊なんだから、走ってくるより速いだろ」

 俺は踵を返す。

「さあ、頼むぜファンマ」
『ん』
「さっそくだが、やってもらいたいことがある」
『ん』
「……手が届かねえ。扉開けてくれ」
『ん』
『役立たずはわんちゃんの方じゃないのかなぁ? ――わわっ!? 暴力反対!』

 俺の目配せを受けてシーカが牙を剥く。
 それを尻目に、俺は聖女の部屋を出た。
 隣を何食わぬ顔で歩くファンマを、俺はちらりと見上げた。

(あっさり扉を開けやがった。幽霊だけど問題なく物が触れるのか。他の連中とはやはりどこか違うようだ。お嬢にとって有用な奴かどうか……もっと見極めなければな)
 
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