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69話 お嬢組練り歩く
しおりを挟む俺、シーカ、ブロンテンが静かに笑い合う。自分でもわかるぜ。目が戦うモノのそれだ。
「ふわぁ。よく寝た」
さっきから寝ててばかりだった半人前舎弟のイティスが背伸びしながら目を覚ます。
とりあえずこいつは放っておこうと思っていると、イティスは意外なことを口にした。
「ケルア。兄貴様と一緒に図書館に行こうよ。幽霊の人、探すんでしょ?」
「あ、あれ? イティス、寝てたんじゃ……」
「んー。なんだろ。ぼんやりと聞こえてたんだよねえ。感じてたっていうか。ケルアの声と、何か嫌がってる幽霊がいるってことと。あと、兄貴様たちの怒気。これはよくわかった」
睡眠学習じゃねえんだぞと俺は呆れた。
が、これもまた大図書館の環境がもたらした変化なのかもしれない。
どちらにしろ、お嬢をこのステージにおひとりで放置しておくわけにはいかない。
気を取り直した俺は、お嬢の軍団を作ることにした。
お嬢を中心に、俺とポン刀聖女、ブロンテンの奴が周囲を囲み、図書館内を練り歩くのだ。
そしてふてえ幽霊どもを見つけ出してシバく。
これしかない。
「ぐ、軍団って」
「人数増えて、賑やかだからいいんじゃないかな」
どことなくヒキ気味のお嬢に、イティスがぽやんと感想を漏らす。こいつ、まだ頭が半分寝てるんじゃないか。元々ボケボケだったが、今はそのボケボケの方向が違う気がする。
ま、これは示威行為だ。
お嬢がどれほど凄い人物か、図書館内の奴らに示す必要がある。
建物内に入る。あのお嬢を小馬鹿にした幽霊がいた2階部分を目指す。
本当は戌モードで練り歩きたかったところだが、差し迫った危機じゃないためか身体が反応しない。室内でデカくなったら、最悪お嬢におすわり待機を命じられるかもしれなかったし。何とももどかしい。
殺気立った俺たち3人を前、お嬢を真ん中、やる気があるのかないのかわからないイティスとファンマを後ろにして歩く。
お嬢のコンサートの影響か、最初に図書館に入ったときより、姿を現す幽霊司書たちの数がぐっと増えていた。
その多くはお嬢に好意的だった。パチパチと拍手をする奴らも多かった。
お嬢は満更でもなさそうだ。
これだけでも、図書館内練り歩きは成功だと言えるだろう。
俺はこちらに興味がありそうな幽霊司書数人に言った。
「またお嬢の歌声が聞きたいのなら、てめぇの本を持って来い」
大図書館の幽霊たちは、本と密接にリンクしている。ファンマを見ていて思った。
なら、各々自分にもっともリンクした本を所持しているはずだ。
それを活性化させることができれば、より確実に、よりスムーズに、奴らの脳に活を入れることができるだろう。
コンサート代にタマを差し出せという話だな。要は。
問題の場所にやってきた。
あのふてぇ連中の姿はなかったが、すぐ近くに作業所らしい広い部屋があった。
「見つけたぞこんちくしょう」
室内を見た俺は唸った。
部屋の片隅に、あの幽霊どもの姿を見つけたのだ。
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