神獣ヤクザ ~もふもふ神獣に転生した世話焼きヤクザと純粋お嬢の異世界のんびり旅~

和成ソウイチ

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70話 見つけた奴らに気合いを入れろ

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 幽霊どもは皆、女だ。お嬢よりも少し上、シーカと同じくらいの年代か。
 奴らがいるのは長机が並ぶ作業部屋。本棚がないところを見ると、ここで本の整理以外の雑務をするところらしい。
 その隅っこに固まった3人の幽霊司書は、俺たちを見ても反応が薄かった。

 反省しているようには見えないな。
 良い度胸だ。

『ちょっとちょっとちょっと!』
『オイオイオイオイ!』

 俺が何か言う前に、怒り顔のポン刀聖女と変態前館長が彼女らに詰め寄った。
 表情が完全にチンピラ因縁付けのソレである。
 ほう。良いツラできるじゃないか。イティスなんかよりコイツラの方がよっぽど舎弟らしい。

『あなたたち、さっきの態度は何ですかぁ? さっきの態度は! ええ!?』
『君ら、あんなすっばらしい歌声を聞いて何も思わないのかな!? ん!? あまつさえケルアお嬢ちゃんを小馬鹿にする態度を取ったよね? ねえ取ったよね!? どういうことか、おじさんたちに説明してもらえるかなぁ!?』

 絶妙にウゼェ。
 これは俺の出番はないかと思っていると、おもむろにお嬢がシーカたちの元に歩み寄った。
 後ろから袖を引くと、頬を膨らませ柳眉を逆立てて言う。

「そんなこと言っちゃだめ」
『はい。すみませんでした』

 即座に引き下がるポン刀聖女と変態前館長。
 さすが。さすがですお嬢。
 いよいよご当主としての威厳が出てきましたね。大変喜ばしいことです。あとさすが可愛い。

 するとお嬢はくるりと振り返った。

「ヒスキさんも。ちゃんと止めて」
『はい。すみませんでした』

 その場に平身低頭、尻尾もくるりと丸める姿勢を取る。
 ふふ……さすがお嬢。口調は穏やかなのに効くぜ。
 隣でイティスが大あくびをしているのがクソムカつく。

 気を取り直した。

 3人組のクソガ……もとい、幽霊司書は、俺たちのやり取りを見ても相変わらず反応に乏しかった。
 お嬢の歌を聴いていたときとはまた違った様子である。

 事情を聞くにしても、これではどうしようもない。
 ここは活を入れてやる必要がありそうだ。

「ファンマ。本を貸せ」
『はい。ちょっと過激な奴』
「……なんでそんな本を取ってきた?」
『ダメ? 焚書候補だったやつ』
「そっちの意味で過激だったのか」

 本を開く。イッヌ状態でもだんだんコツがわかってきた。

 びっしりと文字が並んでいる。相変わらず何が書かれているのかさっぱりだが、焚書候補だってことは納得できた。

 そこかしこにあるこの赤黒い染みは何なんだ。そこはかとなく懐かしい香りがするじゃねえか。こんなもん寄越すな、お嬢の前で。

 焚書のイメージが影響したのか、本から聞こえてきたのは火が爆ぜる音。しかもそんじょそこらの勢いではなく、溶鉱炉を覗き込んだみたいな気合いの入った音がする。
 どこからか金属を打ち鳴らす音も重なっていた。

「燃えたぎる炎と溶けた金属。今まさに、魔法金属が生まれようとしている瞬間だ」

 俺は3人組幽霊を睨みながら、『物語る』。
 ページが細かく震え始めた。俺の言葉に呼応している。
 触れれば死同然の作業に、命を賭して向かい合う者たちの物語。

 こいつで、その寝ぼけた頭を叩き起こしてやる。
 熱いのは好きか、てめえら。
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