僕はもふもふ家族院の院長先生!!

和成ソウイチ

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2章 元気で踊り好きなヒナタともふもふフェンリル

第8話 踊る元気っ子、ヒナタ

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 赤髪ツインテールの少女――ヒナタに満面の笑みで迫られ、ユウキは少したじろいだ。
 改めて思い返すと、同年代の子とこれほど近くで話すことはほとんどなかったのだ。周りに子どもが少なかったし、そもそも、それができる体調ではなかった。
 でも。

 ――あなたの名前、教えてほしいな!

 そう声をかけられることの喜び。ユウキはすぐに、嬉しさが顔に表れた。

「はじめまして。僕の名前はユウキといいます。えっと、よろしくお願いします」
「あははっ。ユウキってわたしとそんなに年、変わらないよね。そんなに丁寧に喋らなくて大丈夫だよっ」

 バンバンと肩を叩かれる。結構痛い。ずいぶん、元気のいい子のようだ。キラキラした表情のとおりだなとユウキは思った。

『おい。余の腹の上で暴れるな』
「あっ、ごめんね。チロロ」

 ユウキが慌てて下がる。ところが、ヒナタの方はきょとんとしていた。

「ユウキ? どうしてチロロに謝るの?」
「それは、お腹の上で暴れるなってチロロが言ってたから――」
「えっ!? ユウキ、チロロとおしゃべりできるの!?」

 再びヒナタが身を乗り出す。その下でチロロが『おい……』と不満げな声を出していた。
 ユウキは言う。

「あの、ヒナタちゃん」
「ヒナタでいいよ」
「じゃあ、ヒナタ。チロロが苦しそうだから、ちょっとどいてあげよう」
「わあ!? またわたしったら。チロロ、ごめんね! よしよし」

 ふかふかの毛並みを撫でるヒナタ。元気が余りすぎて暴走することもあるが、根はとても優しくて気配りできる女の子のようだ。
 チロロもチロロで、これが日常茶飯事なのか、それとも神の眷属としての器の大きさなのか、特に叱ることも嫌がることもなくどっしりと構えている。

 すごいなとユウキは思った。
 そして、ユウキとまったく同じ印象をヒナタも抱いたようだ。

「ユウキってすごいね!」
「え?」
「だって、チロロと意思疎通ができるんだもの。もふもふ家族院の誰もできないんだよ。あ、サキやソラはちょっと違うかも。でも、ユウキほどはっきり会話はできないと思う」

 ヒナタは手を握ってきた。

「すごいよ!」
「そう、なのかな。ありがとう」

 ユウキははにかむ。

「僕にとってはこうして生きていることや、ヒナタたちとお話できただけでもじゅうぶん幸せだからさ。すごいって言われると、なんだかムズムズする」
「そうなの?」
「うん。僕、ちょっと前まで身体が弱くて、ずっと寝たきりだったから」

 すると、ヒナタは途端に表情を曇らせた。「そっか。大変だったんだね、ユウキ」と彼女はつぶやく。
 ユウキの境遇を思い、我がことのように気にかけるヒナタ。初めての経験に、ユウキはうろたえる。

 不意に、ヒナタが立ち上がった。

「わたしね、踊るのが好きなんだ」
「えっ?」
「すごく明るい気持ちになれるんだよ。だからねユウキ、一緒に踊ろ? そうすれば、少しはつらい気持ちを忘れられるよ。きっと」

 満面の笑みで手を差し伸べられる。
 ユウキは手を取った。

「じゃあ、いくよ。それっ」
「うわわっ!?」

 ヒナタがステップを踏み始める。踊るのが好きという言葉通り、彼女は本当に楽しそうにクルクルと踊った。ユウキはあたふたしながらも、彼女に合わせて身体を動かす。

「あはは。上手い上手い!」
「おっと、と。あはっ、ははは」

 ――ああ。僕の身体、こんなに動けるんだ。
 生前は歩くことも楽ではなかった。ましてや運動なんてもってのほか。
 ヒナタのリードに合わせて踊る。視界が目まぐるしく動いていく。空や、大地や、建物が一緒になってクルクルと踊っているような感覚になった。

 気がつけば、ユウキもまた笑顔になっていた。

「ユウキ、楽しい?」
「うん。楽しい。こんなの初めてだ」
「よかった。ユウキが楽しいなら、わたしも楽しい」

 白い歯を見せて、ヒナタが笑う。
 パンッとお互いの手を合わせた。

「これからよろしくね、ユウキ!」
「こちらこそ、よろしくね。ヒナタ!」

 
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