僕はもふもふ家族院の院長先生!!

和成ソウイチ

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2章 元気で踊り好きなヒナタともふもふフェンリル

第9話 院長として新しい暮らしを

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「へえ。それじゃあユウキが、もふもふ家族院の新しい院長先生だったんだ」

 驚くヒナタに、ユウキはうなずきを返す。
 ひととおり踊って満足したヒナタが、今度は詳しい事情を聞いてきたのだ。
 ちなみに、ふたりは保護者フェンリルのもふもふを背もたれにして、並んで座っている。どこまでも面倒見のよい眷属であった。

「やっぱりすごいね。天使様から直接お願いされるなんて」
「家族院には大人の人がいないって聞いたけど……」
「うん。わたしと同い年の子たちだけだよ。でも、皆それぞれ得意なことがあるし、チロロもいるし」

 ヒナタが毛並みを撫でる。『余は人間の大人代わりだな』とフェンリルは言った。元気少女に言葉は伝わらない。けれど、互いの信頼感はユウキにも確かに感じ取れた。
 ユウキは拳を握った。

「今の僕になにができるかわからないけど、院長先生の仕事、頑張りたいんだ。ずっと夢だった。これまでたくさんの人に迷惑をかけてきた分、誰かの役に立ちたいって」
「大丈夫だよ、ユウキなら。あ、でも院長先生なら、これからユウキのこと『先生』って呼んだほうがいいかな?」
「そ、それはやめてほしいな」

 ヒナタは笑った。立ち上がる。

「もうわたしたち、友達で、家族だよ。ようこそ、もふもふ家族院へ! ――あ、違う違う。そうじゃなくて、えっと……おかえり、ユウキ」
「た、ただいま」

 少女の手を握って、ユウキも立ち上がる。はにかんだ。

「なんだか、まだ慣れないね」
「これから慣れていけばいいよ。じゃ、中に入ろ」

 ヒナタとともに歩き出す。

 ふと、後ろを振り返る。チロロは建物に背を向けていた。

「チロロは入らないの?」
『余は別の用がある。どもの様子を見に行かねばな』
「大変なことなら僕も――」
『そなたはヒナタとともに家族院へ向かえ。院長として顔見せが済んでいないであろう』
「でも」
『顔と名前を覚えるのも長の仕事ぞ。こちらは余に任せよ。どうせ遅かれ早かれ、やんちゃ坊主どもとも顔を合わせることになるのだ。気にするでない』

 そう言って、チロロは森の一角へ歩いていった。大きな尻尾が左右に揺れる。その後ろ姿をユウキは見送った。

「ユウキは本当にチロロとお話ができるんだね」
「転生者としての力……って聞いた」
「さすが院長先生だね。ちょっと羨ましいな」

 立派な建物の前に来る。

 ――一瞬だけ、生前の記憶が蘇った。
 病室の扉。
 あるいは手術室の扉。
 出ることの叶わなかった、病院の正面玄関。
 それらの光景がフラッシュバックした。

 けれど、今目の前にある扉は違う。
 まったく違う異世界の、新しい居場所へ続く扉だ。
 明るく優しい陽光で、過去の記憶が鮮やかに塗り替えられていった。

「さ、入ろう。皆にもユウキのことを紹介しなきゃ」
「うん」

 ユウキは胸の高鳴りを覚える。

 ――ここから、僕の新しい暮らしが始まるんだ。
 天使さまから与えられた役目。院長先生の仕事……これから僕は、皆のリーダーとして頑張らないといけないんだ。

「やるぞぉー」

 気合いを込めて、玄関に手を伸ばす。

 そのとき、扉の向こうからほのかに良い匂いが漂ってきた。
 同時に、なにやら騒がしい足音が。
 なにかに気づき、ヒナタが声を上げる。

「ユウキ、あぶない。扉から離れて!」
「え?」

 首を傾げた瞬間、家族院の玄関扉が内側から勢いよく開かれた。
 建物の中から飛び出してきた人影と、勢いよくぶつかる。

「うわああっ!?」
「わきゃああっ!」

 ユウキの驚きの声と、誰かの甲高い声が重なった。
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