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3章 好奇心旺盛なサキは院長先生に興味津々
第10話 好奇心のサキ
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ヒナタが駆け寄り、「ユウキ、大丈夫?」と声をかけてくる。
尻餅をついてしまったユウキは、お尻をさすりながら身体を起こした。
目の前には、同じような仕草で顔をしかめる女の子がいる。
「あー、痛ったたぁー」
「もう、サキ! いきなり飛び出したら危ないでしょ」
サキと呼ばれた少女は、「いやあ、ついつい」と答える。あんまり気にしていないようだった。
鮮やかな黄色い髪が印象的な子だった。あっちこっちで寝癖が跳ねており、どんな姿勢で眠ったらああなるんだと不思議に思わせるほどである。よく見ると、服もヨレヨレだ。
猫のような大きな瞳に、ヒナタとはまた違ったキラキラした輝きを秘めている。
ユウキは立ち上がると、少女に手を伸ばした。きっとこの子も家族院の一員なのだろうと、努めて穏やかに声をかける。
「だいじょうぶ?」
「……」
「えっと。僕はユウキ。今日からこのもふもふ家族院で院長としてお世話になります。よろしくね」
「……」
差し出された手を取ることなく、ただじーっとユウキの顔を見返してくる少女、サキ。
なにか気に障ることでしただろうかと、ユウキが不安を覚え始めた頃。
「……おー」
「おー?」
「おー、おおおおーっ!!」
がばり、とすごい勢いで飛びつかれた。
左右の二の腕をがっしりとホールドされ、ユウキは目を白黒させる。
すぐ目の前にサキの顔が迫ってきた。
「君がっ! 君があの転生者君かねっ!?」
「え? あ、はい。そうだと」
「おおおっ、素晴らしい。素晴らしいですよぉ!」
遠慮なく揺さぶられた。地味に痛いしクラクラする。
さっきまでぼんやりしてなにを考えているのかわからない表情のサキだったが、今は顔面そのものが照明になったかのように全力で生き生きキラキラ輝いている。
サキはさらに、ユウキの身体をペタペタと触り始めた。腕、胸、腰、足、頭。彼の周りをグルグルしながら、あっちこっちを触りまくる。
なにがなんだかわからず、ユウキはヒナタを見る。元気っ子の少女は、どことなく羨ましそうに見ていた。
「ちょっと楽しそう……」
「ヒ、ヒナタ? これはいったい、どういうこと?」
「サキはね、好奇心旺盛なの。きっとユウキが外から来た珍しい人だから、興奮してるんだと思う」
えええ、とユウキはつぶやいた。
身体をあちこち触られるのは、生前、色々な検査で体験してきた。正直に言うと、あまり気持ちの良いものじゃない。
あのとき検査に携わった大人たちは、皆優しく声をかけてくれたけれど、表情は真剣――というか、重苦しかった。
だけど、今のサキは――。
「うわあ、うおー、ほえー!」
全身から「楽しい!」を溢れさせている。
とても、病院の先生たちと同じには見えない。
ユウキは同世代の友人とじゃれ合った経験がない。これはもふもふ家族院の院長としての試練だと自らに言い聞かせ、ユウキは耐えた。
ヒナタがサキの袖を引く。
「そろそろやめてあげなよ、サキ。ユウキがかわいそう」
「ん? ヒナタ君はさっき『ちょっと楽しそう』と言っていたと記憶しているけど」
「言ったけど……びっくり。聞いてなかったと思った」
「ふふん。ウチの状況観察力と情報収集能力を甘く見ないでもらいたいなっ!」
サキが胸を張った。ユウキを撫でまくっていた手がようやく止まる。
恐る恐る、ユウキはたずねた。
「……終わり?」
「もっと調べたいと言ったら触らせてくれるのかい?」
「……そ、それが院長先生としての役割なら……!」
「おおっ、素晴らしい覚悟よ。ではさっそく」
「サキ」
さすがにヒナタが止める。サキは頬を膨らませながら、一歩下がった。大きく息を吐くユウキ。
ふと、サキが上目遣いにこちらを見ていることに気づく。
「ユウキ君、といったね」
「うん。そうだよ」
「えっと、申し訳ない。ウチはこういう性格だから、夢中になるとつい止まらなくなって……その、怒ったかい?」
ユウキは目を瞬かせた。
言葉通り申し訳なさそうに眉を下げているサキが意外だった。もしかしたら、自分の言動で周りを振り回しがちになっていることを、本人は心の底では気にしているのかもしれない。
ユウキは何度か瞬きして、それから笑った。首を横に振る。
「ううん、気にしてないよ。ちょっとびっくりしただけ。あと……面白かった」
「面白い?」
「僕の周りに、サキみたいな子はいなかったから。なにかに夢中になる子って、こんな感じなんだね」
そして改めて、ユウキは手を差し出す。
「もふもふ家族院の院長、ユウキです。これからよろしくお願いします」
サキはユウキの手と顔を交互に見た。やおら、両手でがっしりと握手する。
「ウチはサキ! 君みたいに言ってくれる子は、ウチもはじめてだ! 大歓迎だよ、よろしく! ユウキ君!」
尻餅をついてしまったユウキは、お尻をさすりながら身体を起こした。
目の前には、同じような仕草で顔をしかめる女の子がいる。
「あー、痛ったたぁー」
「もう、サキ! いきなり飛び出したら危ないでしょ」
サキと呼ばれた少女は、「いやあ、ついつい」と答える。あんまり気にしていないようだった。
鮮やかな黄色い髪が印象的な子だった。あっちこっちで寝癖が跳ねており、どんな姿勢で眠ったらああなるんだと不思議に思わせるほどである。よく見ると、服もヨレヨレだ。
猫のような大きな瞳に、ヒナタとはまた違ったキラキラした輝きを秘めている。
ユウキは立ち上がると、少女に手を伸ばした。きっとこの子も家族院の一員なのだろうと、努めて穏やかに声をかける。
「だいじょうぶ?」
「……」
「えっと。僕はユウキ。今日からこのもふもふ家族院で院長としてお世話になります。よろしくね」
「……」
差し出された手を取ることなく、ただじーっとユウキの顔を見返してくる少女、サキ。
なにか気に障ることでしただろうかと、ユウキが不安を覚え始めた頃。
「……おー」
「おー?」
「おー、おおおおーっ!!」
がばり、とすごい勢いで飛びつかれた。
左右の二の腕をがっしりとホールドされ、ユウキは目を白黒させる。
すぐ目の前にサキの顔が迫ってきた。
「君がっ! 君があの転生者君かねっ!?」
「え? あ、はい。そうだと」
「おおおっ、素晴らしい。素晴らしいですよぉ!」
遠慮なく揺さぶられた。地味に痛いしクラクラする。
さっきまでぼんやりしてなにを考えているのかわからない表情のサキだったが、今は顔面そのものが照明になったかのように全力で生き生きキラキラ輝いている。
サキはさらに、ユウキの身体をペタペタと触り始めた。腕、胸、腰、足、頭。彼の周りをグルグルしながら、あっちこっちを触りまくる。
なにがなんだかわからず、ユウキはヒナタを見る。元気っ子の少女は、どことなく羨ましそうに見ていた。
「ちょっと楽しそう……」
「ヒ、ヒナタ? これはいったい、どういうこと?」
「サキはね、好奇心旺盛なの。きっとユウキが外から来た珍しい人だから、興奮してるんだと思う」
えええ、とユウキはつぶやいた。
身体をあちこち触られるのは、生前、色々な検査で体験してきた。正直に言うと、あまり気持ちの良いものじゃない。
あのとき検査に携わった大人たちは、皆優しく声をかけてくれたけれど、表情は真剣――というか、重苦しかった。
だけど、今のサキは――。
「うわあ、うおー、ほえー!」
全身から「楽しい!」を溢れさせている。
とても、病院の先生たちと同じには見えない。
ユウキは同世代の友人とじゃれ合った経験がない。これはもふもふ家族院の院長としての試練だと自らに言い聞かせ、ユウキは耐えた。
ヒナタがサキの袖を引く。
「そろそろやめてあげなよ、サキ。ユウキがかわいそう」
「ん? ヒナタ君はさっき『ちょっと楽しそう』と言っていたと記憶しているけど」
「言ったけど……びっくり。聞いてなかったと思った」
「ふふん。ウチの状況観察力と情報収集能力を甘く見ないでもらいたいなっ!」
サキが胸を張った。ユウキを撫でまくっていた手がようやく止まる。
恐る恐る、ユウキはたずねた。
「……終わり?」
「もっと調べたいと言ったら触らせてくれるのかい?」
「……そ、それが院長先生としての役割なら……!」
「おおっ、素晴らしい覚悟よ。ではさっそく」
「サキ」
さすがにヒナタが止める。サキは頬を膨らませながら、一歩下がった。大きく息を吐くユウキ。
ふと、サキが上目遣いにこちらを見ていることに気づく。
「ユウキ君、といったね」
「うん。そうだよ」
「えっと、申し訳ない。ウチはこういう性格だから、夢中になるとつい止まらなくなって……その、怒ったかい?」
ユウキは目を瞬かせた。
言葉通り申し訳なさそうに眉を下げているサキが意外だった。もしかしたら、自分の言動で周りを振り回しがちになっていることを、本人は心の底では気にしているのかもしれない。
ユウキは何度か瞬きして、それから笑った。首を横に振る。
「ううん、気にしてないよ。ちょっとびっくりしただけ。あと……面白かった」
「面白い?」
「僕の周りに、サキみたいな子はいなかったから。なにかに夢中になる子って、こんな感じなんだね」
そして改めて、ユウキは手を差し出す。
「もふもふ家族院の院長、ユウキです。これからよろしくお願いします」
サキはユウキの手と顔を交互に見た。やおら、両手でがっしりと握手する。
「ウチはサキ! 君みたいに言ってくれる子は、ウチもはじめてだ! 大歓迎だよ、よろしく! ユウキ君!」
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