僕はもふもふ家族院の院長先生!!

和成ソウイチ

文字の大きさ
24 / 92
5章 箱推し天使様の日常

第24話 親友とのひととき

しおりを挟む
 ウキウキと中央の水晶玉に魔力を注ぎ始める天使マリア。
 彼女の友人であるルアーネは、深く深くため息をついた。

「おいマリア」
「なぁに? ルアーネ」
「とりあえずいくつか訂正させろ。アタシがここに来たのは鑑賞会とやらに参加するためじゃない」

 そう告げた途端、まるでマリアがこの世の終わりかのような表情をした。

「まさか……ルアーネあなた、私に地獄の焦燥感を味わえと……? 私、あなたにそれほど激烈な恨みを買っていたなんて……天使失格ね……」
「まあそこそこうんざりしてるのは確かだな」

 マリアが泣きそうな顔をする。この表情を見たら大勢の天使たちが卒倒するだろうなあとルアーネは思った。

 赤髪の天使は、持参した荷物から書類の束を取り出した。

「ほら。頼まれていた転生者の資料。あのユウキとかいう坊主に押し込められた奴らのリストだ」
「ルアーネ……こんなときまでお仕事なんて」
「では帰る。じゃあな」
「ああっ! ごめんなさい! 行かないで、お話ししましょう。ありがとう、本当に助かったわ!」

 天使マリアがすがりつく。この慌て顔を見たら、さらに多くの天使たちが我を失うだろうなあとルアーネは思った。

 ルアーネから資料を受け取ると、マリアはその場でめくり始める。つい数秒前まで情けなく崩れていた表情が、一瞬で仕事人のそれに変わる。書類を読むスピードも尋常じゃない。
 基本的に、天使マリアは有能なのだ。
 そして、彼女と長い付き合いを続ける天使ルアーネもまた、双璧をなすほど優秀な人材であった。

「さすがね、ルアーネ。素晴らしいわ。すごくよくわかった」

 端的に親友を称えるマリア。

 ――不遇な一生を終え、さらに通常とは違う処理をされて転生した少年、ユウキ。
 彼の中に複数の魂が押し込まれたことは知っていたが、マリアの手元にはそれら魂の詳しい情報がなかった。怠惰でいい加減な上司神が、よその管轄だった魂も無責任に引っ張ってきてしまったためだ。

 天使ルアーネは、マリアでは接触できなかった情報を手に入れてきてくれたのである。それはルアーネに権限と能力がある証左であった。

 転生者ユウキ少年の身体に埋め込まれた複数の魂。いかにそれが善なるものだと事前に聞いていたとしても、それがユウキの肉体と魂にどれほどの影響を与えるかはわからない。もしもの事態に備え、それぞれの魂の持ち主がどういう生を送り、どういう力を持つ人物だったかは把握しておきたかった。

 資料を見た結果、マリアは「とりあえず静観しても問題はない」と判断した。少なくとも、魂として相性が悪い相手はいない。

「それにしても……錚々そうそうたる傑物たちね。それぞれの世界で、歴史の書に記載されてもおかしくないんじゃないかしら」
「アタシも同感だ。お前んとこのおっさん上司、転生者の質で点数稼ぎしようとしてるのが見え見えだぜ」
「……はぁ。これで徹頭徹尾能力がないなら、まだやりようはあるのだけれど。あれで豪腕の持ち主なのだから始末に負えないわ……」

 マリアは額を押さえた。そもそも管理神が本当に無能であれば、これほど善い魂を引っ張ってくること自体不可能だっただろう。
 怠惰で傲慢。しかし、こと人間の魂に関することは、類い希な目と決断力を見せる。
 自らが管理する世界で、どれほど多くの善き魂を転生させ、輪廻させるか。それが神々にとってひとつの評価基準なのだ。

 そして、他の神たちからの評価が高いからこそ、その直属の部下であるマリアにも大きな権限が与えられている、と言えた。この一戸建ての部屋しかり、管理下の異世界に不可侵の結界を張ることしかり、『もふもふ家族院』なる完璧な拠点を造ることしかり。
 天使マリアが、愚痴をこぼしつつ上司の横暴に耐え続けている理由である。

「憎まれっ子世にはばかる……神様だろうが同じってわけかい。同情するよ、マリア」
「まったくよ。あのクソ上司め」
「……いつも忠告してるが、他の奴らの前で言うなよ? それ」
「言わないわよ。ルアーネに対してだけ。私が愚痴を言えるのは、あなたくらいだもの」

 肩をすくめながら、天使マリアが言う。赤髪の天使は「そうかい」とつぶやいて茶をすすった。少し、まんざらでもなさそうな表情だった。

 大事な資料を机にしまい、天使マリアは言った。

「いつもありがとう、ルアーネ。あなたがいてくれて本当に助かるわ」
「おう」
「お礼に、今日は特別映像を特等席で見せてあげるね」
「……やっぱ諦めてなかったか」
「諦める? なにを言ってるの」

 天使マリアは、この部屋に入って一番イイ笑顔で言った。

の姿を愛でるのは、私にとって生きがいであり生命力の補充だもの」
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...