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6章 やんちゃ少年レンといたずらスライム

第36話 いたずらスライムがみょんみょん

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「みょんみょん! みょん!」
「うるせえっ! オレはまだ許したワケじゃないぞ!」

 言い争いを続けるレンとスライム。
 ユウキはヒナタを見た。

「レンはスライムの喋っていることがわかるの?」
「さあ……そういう話は聞いたことないけど。けどレンのことだから、意味がわからなくてもなんとなく感覚で喋ってるんじゃないかな?」

 ヒナタは茶化しているわけではなさそうだ。言葉が通じない相手と言い争うなんてすごいなと、ユウキは思う。
 ヒナタがじっとこちらを見てきた。

「ユウキは、スライムの言ってること、わかるんだよね? チロロの喋っていることがわかるくらいだもの」
「うーん」

 今のところ、ユウキの耳にも「みょんみょん」しか聞こえない。
 ユウキは胸に手を当て、息を整えた。心の中に住む善き転生者たちに寄り添うイメージを持ちながら、スライムたちのやり取りに意識を集中させた。

「みょんみょーん!(オマエなんか怖くないもん!)」
「勝負だ勝負! 勝負しろって言ってるんだ!」
「みょみょーん!(ぜったい負けないもんね!)」

 おお……と思わずつぶやいてしまう。ヒナタが目を輝かせた。

「ユウキ、また目が光ってたね。どう? なんて言ってるかわかった?」
「ちゃんと会話になってることに驚いてる……」
「そっか同じレベルなのか」

 納得した表情をするヒナタ。

 すると、業を煮やした様子のレンが振り返る。今まで大人しく会話を聞いていたソラに、彼は言った。

「ソラ! こいつなんて言ってるんだ。勝負するって、ちゃんと伝わってんだろうな!?」
「う、うん。レン、ちゃんと会話できてるよ……びっくりするぐらいに」

 ソラは遠慮がちに答えた。
 この言葉に驚いたのがユウキである。

 ――もしかして、ソラも他の種族の言葉を理解できるのだろうか。

 再びスライムも不毛な言い争いに突入するレンを尻目に、ソラの元へ駆け寄る。

「ねえソラ。君はスライムがなにを喋っているか、わかるの?」
「え……いや、その」
「実は僕もなんだ。レンが勝負しようって言って、すごく乗り気になってるよね。あのスライムの子」
「え!? ユ、ユウキも?」

 目を見開くソラ。ヒナタが自慢げに胸を張った。

「ユウキは転生者だからね。たくさんの特別な力を持ってるんだよ」
「ふわぁ……さすが院長先生だ……」

 やめてよ、とユウキは言った。自分の力は、他の人々あっての力、後付けで転がり込んできた力だ。最初から能力を持っているソラの方がすごいとユウキは思う。

 とはいえ。

 いくら話の内容が理解できたとしても、今まさに進行中のいさかいを収められなければ意味がない。
 レンの方はソラと違い、スライムの言語を理解できないままフィーリングだけでやり取りしている。相手がなにを言ってるのかわからない分、言葉の矛を収めるタイミングも見えていないようだ。
 ソラは、両者の間に割って入るほど気を強く持てないようだった。

 ユウキはひとつうなずくと、レンたちに歩み寄る。

「ほら。そこまでだよ」
「ああ!? なんだよユウキ。邪魔すんなって!」
「これ以上、言い争っても仕方ないだろう。レン、君はこのスライム君がなにを話しているか、わかってないんだし」
「む……!」

 レンが不満も露わに口を閉ざす。
 するとスライムの子が、これみよがしにその場で跳びはねた。

「みょんみょーん!(やーい、怒られた!)」
「君もだよスライム君。元はといえば、君がハーブをいたずらで取っちゃったからって聞いてるよ。悪いことをしちゃダメだ」
「みょ……」

 スライムも不満そうに口を閉ざす。目と口はすごいシンプルな見た目をしているのに、感情がありありと伝わってくるから不思議だ。
 このふたり、どことなく似たもの同士である。

 ひとりと一匹からじとりと睨まれる。ユウキは彼らの視線を受け流した。
 ダメなものはダメである。
 それにユウキにしてみれば、レンたちに睨まれても可愛く感じるだけだ。切羽詰まったときの大人の顔は、もっと怖ろしくて不安にさせる。それに比べればなんということはない。

 ふと、池の水面にさざなみが立った。父親スライムがほとりまで進み出てきたのだ。
 子スライムよりも低く間延びする声を出す。

「みょーぉん、みょん、みょーん……(我が子がご迷惑をかけて申し訳ない。いつも言って聞かせているのだが、どうも君たちが気になってしかたない様子なのだ)」

 目を伏せ、謝るお父さんスライム。子スライムが抗議の声を出すと、「みょ!」と鋭い叱責が飛んで、子スライムが大人しくなった。
 お父さんスライムはやれやれといった様子で我が子を促す。

「みょぉーん(ほら、彼らに謝りなさい。そして家で大人しくしていなさい)」
「みょ、みょ!(やだ! 勝負するって言ったら勝負するんだもん!)」

 聞き分けがないことを言う子スライム。お父さんスライムが困ったようにユウキを見た。どうやら先ほどまでのやり取りで、ユウキが自分たちの言葉をわかってくれていると理解したようだ。

 ユウキは腰に手を当てる。いまだ頬を膨らませたままのレンたちに、たずねた。

「勝負って、なにをするの?」
「それはもちろん――」

 レンとスライムの声が重なる。

「かけっこだ!」
「みょみょ!(かけっこだよ!)」

 やっぱり仲は良いんじゃないかなとユウキはいぶかしんだ。

 
 
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