僕はもふもふ家族院の院長先生!!

和成ソウイチ

文字の大きさ
49 / 92
7章 謳う魔法使いソラ

第49話 森の生き物たちの称賛

しおりを挟む

 透き通るような、澄み渡るような、極上の歌が緩やかに終わった。
 やや紅潮した顔でひとつ息を吐き、ソラが目を開けた。

「えと……聞いてもらって、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。ソラ!」

 ユウキは力いっぱい拍手をした。銀髪少年は目を丸くする。

「そんな……大げさだよ、ユウキ……」
「ちっとも大げさじゃないよ。ほら、周りを見て」

 ユウキが指し示した先で、大勢の動物たち、そしてケセランたちが並んでいた。彼らはソラの元に近づき、もみくちゃにする。

「わ、わ、わわっ……!」
「あはは。僕までもみくちゃ……! けど、それだけ皆、ソラの歌声に感動したってことだよ」

 ケセランのふわふわを撫でながら、ユウキは笑顔で請け合う。ソラははにかんだ。

「いつもこんな感じなの、ソラ?」
「いや、その……さすがにここまで集まってくれるのは、初めてで……」

 ボクもちょっと驚いてる、とソラは言った。
 胸元のスライム、ルルは先ほどからずっと黙っている。両目を閉じ、歌声の余韻を噛みしめているようだ。……周囲を強面の獣に囲まれて、萎縮しているようにも見えるが。

 保護者フェンリルが言葉を添える。

『とても良かったのは間違いないが、今日の歌は特別に響いたと言えるだろう。魔力の雪まで降らせるのだから』
「あ、えっと」

 ソラは言いにくそうに眉を下げた。

「たぶん、それはボクの力じゃないよ」
「え? そうなの?」
「確かにボクは魔法を使えるけど、これほど広範囲のものは使えないもの。きっと、天使様が偶然、歌を聴いて下さったんだよ……」

 ユウキはソラとともに青空を見上げる。
 家族院の少年院長はうなずいた。

「そっか。じゃあ、あの魔力の雪は、天使様が『よくやったよ』って褒めてくれたものなんだね」
「そうだと、いいな」
「きっとそうだよ。天使様は、僕たちのことをちゃんと見てくださっているんだ。きっと」

 ソラは恥ずかしそうにうつむいた。
 そこへリスが一匹駆け寄り、銀髪少年の肩に登った。ふさふさな尻尾を押しつけるように、頭をソラの頬にこすりつけてくる。負けじと、ルルもソラの胸元に身体を押しつけてくる。
 再び満ち足りた笑みを浮かべるソラを、ユウキは優しげに見つめた。

「ソラは、森の生き物たちと一緒にいるのが好きなんだね。とても楽しそう」
「あはは……うん、そうかも。家族院の皆のことも好きだけど、こうしてルルや、森の子たちと一緒にいるのも、好き。でも、それはユウキも同じじゃないかな……?」

 そう言われ、目を瞬かせるユウキ。そんな彼の周りにも、動物やケセランたちが集まって、まったりしていた。実にリラックスしている。
 しばらくふたりは、もふもふたちとの触れ合いを満喫した。

「あのね、ユウキ」

 ふと、ソラが言う。

「ボク、今日のことで、ちょっとだけ自信がついたかも。その……自分の魔法について」
「うん」
「これまでずっと、魔法は隠さなきゃいけない、むやみに使っちゃいけない、なぜなら皆の迷惑になる力だから――って、ずっと思ってた。実際は、そんなことないのにね」

 ルルを撫でる。

「ボクの魔法も、ボクの歌も、こんなにもたくさんの子が喜んでくれる。この子たちのためにも、ボク、もう少し自分に、自信を持ってみたい」
「そうだよ。ソラはすごいんだから。自信持っていいんだよ」
「ユウキだったすごいとボクは思うけど……でも、ありがとう」

 ユウキはうなずいた。

 それから、折を見てチロロが小さく鳴き声をあげる。そろそろ解散だと、周囲の動物たちを促していた。保護者フェンリルは森の動物たちにとっても上位存在なのか、大人しく彼らは帰っていく。
 ユウキとソラは、彼らの後ろ姿へ向けて、手を振って見送った。

「ルルちゃんも、じゃあね」
「みょ……」

 ソラの膝上から降りたスライムに声をかける。ルルはためらいがちに振り返り、それから意を決したように言った。

「みょんみょん(またきてね)」
「うん。必ずまた来るよ。他の子たちにもよろしくね」
「みょ、みょみょ(ん。じゃあね)」

 ユウキは手を振る。応えるように一回、二回と跳びはねた後、ルルは池の中に入っていく。ほとりから静かに水中へと消えていく様子は、とてもルルらしいと思った。
 少しだけ物寂しい空気が流れる。

『さて、帰るとするか』

 チロロが言う。
 そこでユウキは「ちょっと待って」と呼び止めた。ソラを見る。

「ねえ、ソラ。ひとつお願いがあるんだけど」
「なに?」
「僕にさ、魔法について教えてくれないかな」

 ソラは目を丸くした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...