上 下
52 / 92
8章 星望むミオと眠れない夜

第52話 帰宅時のほのぼの

しおりを挟む

 日が沈む前に、もふもふ家族院へと戻ってくる。

「あ……」

 ユウキは目を見開いた。
 家族院の前ではヒナタを始め、四人の子どもたちがユウキたちの帰りを待っていたのだ。
 真っ先にヒナタが気づいて、手を振ってくる。

「おーい、ユウキ! ソラ! おかえりー!」
「ただいまー!」

 手を振り返しながら応える。ユウキは思わず、頬が緩んだ。
 こんな風に外から帰ってきて、「ただいま」「おかえり」と言えるなんて、これまでなら考えられなかった。
 背中がこそばゆくなるほどの嬉しさ、楽しさ、安心があった。

 家族院の皆と合流するのと入れ替わりに、チロロが踵を返す。

『では、余は森へ向かう。むやみに歩き回るでないぞ』
「あれ、チロロは建物の中に入らないの?」
『寝床を作ってもらっているのはありがたいが、どうも落ち着かぬ』

 ちらとサキやヒナタを見て、小さくため息をつく保護者フェンリル。
 ユウキは眉を下げた。

「そうなんだ。残念」
『余はそう遠くに行くわけではない。安心せよ』
「チロロのふわふわな身体で眠れたら、気持ちいいだろうなあ」
『おい。余をクッション代わりにするでない。変なことで呼ぶでないぞ』

 チロロが尻尾を一振り。『変なことで呼ぶでないぞ』ともう一度繰り返してから、彼は森の方へ消えていった。
 見送っていると、後ろから誰かに抱きつかれた。ヒナタだ。

「ユウキっ、さっきはチロロとどんな話をしていたの?」
「あはは。怒られちゃった。自分をクッション代わりにするなって」
「あー。確かにすごく気持ちいいもんね。でもチロロのことだから、本気で頼めばお願い聞いてくれると思うよ」

 そういえば初めてヒナタたちに出会ったときも、クッション代わりにして昼寝してたなと思い出す。「そこまではしないよ」とユウキは答えた。

 背後からは「遅かったな!」とレンの声が聞こえた。相変わらず張りがあって、元気だ。話し相手はソラである。

「ソラ。お前の分のクッキー、オレが確保してやったからな。ありがたく食べろよ」
「ソラちゃーん。クッキーは、ちゃんと手を洗ってからですよー」

 アオイが横から会話に入る。彼女の穏やかな瞳が、ちろっとレンを見遣る。彼はすぐにそっぽを向いて、咳払いした。
 たぶん、レンは帰るなりダイニングへ直行して、アオイに咎められたのだろう。目に浮かぶようで、ユウキは小さく笑った。

 サキが目を丸くしながら、首を左右に傾けている。視線の先はソラ。

「おやおや? ソラ君よ、なんだか少し……雰囲気が変わったかい?」
「そう見える?」
「おっと、その受け答えからして驚きだぞ。なんというか、ちょっと自信がついたみたいに見える」
「ユウキの――ボクたちの院長先生のおかげだよ」

 ソラは臆せず言った。どうやら、魔法に関して胸を張れるようになったことで、普段の言動にも少し変化が出てきたようだ。
 サキの目が輝いた。

「それは非常に興味深い! なにがあった? なにがあったんだい? ほらほら、ウチに教えてごらんよ。ウチとソラの仲じゃあないか、ほらほらほら!」
「えっ、ええっ……?」

 いつかユウキがされたように、ペタペタとソラの細い身体を触りまくる寝癖少女。ソラの態度が途端に前に戻った。
 ユウキが、この困った研究者気質少女の肩をつかむ。ほぼ同時に、反対側の肩をアオイがつかんだ。

「はいそこまで」

 期せずして、まったく同じ声かけをした。ユウキとアオイはきょとんと顔を見合わせ、どちらともなく「ふふっ」と笑った。彼らの間に挟まったサキは、とりあえず両手を挙げて降参のポーズをする。
 ヒナタが言った。

「そういえば、ユウキとソラはなにをしてたの?」
「ソラのお友達と話してたんだ。それと、歌を歌ってもらってた」
「え!? ソラに? いいなあ、ユウキ!」
「また歌ってもらおうよ。今度は、皆も一緒にさ。ソラ、いいでしょ?」

 たずねる。アオイが遠慮がちに「あまり無理強いさせなくてもお……」とつぶやく一方で、当の本人ははにかみながらうなずいた。

「うん。ボクでよければ」
「わあい、やった!」

 ヒナタが喜びを全身で表す。
 アオイは「あらまあー」と驚き半分、安堵半分の表情を浮かべた。
 レンが、ユウキを肘でつつく。

「おいユウキ。お前、ソラになにをしたんだよ。今朝とぜんぜん違うじゃん、あいつ」
「特別なことはなにも。ただ、僕がソラから大事なことを教わって、それでソラはすごいねって言っただけさ」
「なんだよそれ。気になるじゃんよ、弟分のくせに」
「僕はもふもふ家族院の院長先生だよ。上も下もないから」

 澄ました顔で言うと、レンは「チッ、わかってるっての」と舌打ちした。ちょっとだけ寂しそうだった。
 ユウキは苦笑し、それから辺りを見回す。

「そういえば――」

 今ここには、ユウキを含めて六人の子どもたちがいる。
 もふもふ家族院は、全部で七人のはずだ。
 ユウキはたずねた。

「ミオはどこ?」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,426pt お気に入り:210

乙女ゲーム関連 短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,427pt お気に入り:156

ASMRの囁き

青春 / 連載中 24h.ポイント:9,570pt お気に入り:1

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:202,006pt お気に入り:12,079

【完結】私がいなくなれば、あなたにも わかるでしょう

nao
恋愛 / 完結 24h.ポイント:13,504pt お気に入り:933

飯が出る。ただそれだけのスキルが強すぎる件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,197pt お気に入り:406

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:169,123pt お気に入り:7,830

処理中です...