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8章 星望むミオと眠れない夜
第60話 夜の違和感
しおりを挟む――長い、濃密な一日が終わった。
院長用として割り当てられた部屋で、ユウキはベッドに横になっていた。一階にある角部屋で、他の子たちの部屋よりも造りがしっかりしている。
最初は、こんな立派な部屋を使わせてもらっていいのかなと思ったが、もふもふ家族院の全員から「いいから」と言われて受け入れた。
少しカーテンを開けて、ベッドから夜空を見上げる。
窓越しにでも、澄み切った空気と溢れるばかりの星の燦めきがわかる。
ベッドは大きく、そして快適だった。
生前、慣れ親しんだ病室のベッドとはまた違う。全身をふんわりと受け止めてくれる。聖域ならではなのか、掛け布団も信じられないほど軽く、柔らかく、そして温かい。
ぴょこっと、視界にケセランが現れた。枕元や掛け布団の上に、何匹か集まっている。ふわふわな身体を撫でると、彼らは気持ちよさそうに目を細めた。お礼のつもりなのか、小さく小さくせせらぎの音を真似てくれる。入眠に最適な、ヒーリング音楽だ。
アオイが作ってくれた晩ご飯は美味しかった。生まれて初めて、何も気にせずお腹いっぱい食べられる。しかも、同じテーブルには賑やかで優しい仲間、家族たちが揃っているのだ。
幸せなこと、この上ない。
「ふふっ」
ユウキは思い出し笑いを漏らす。晩ご飯の後に『約束通り』、アオイから説教を受けたサキ。けれど、周りにレンやヒナタがいると、話があらぬ方向へと飛んでしまって、見ている側は面白かった。どうやらアオイもミオも、そのあたりは薄々予見していたようで、お説教はさほど間をかけずおしゃべりの時間に変わっていった。
賑やかで、ほのぼの。
こんな一日が過ごせるなんて、本当に、本当に夢のようだった。
小さく寝返りをうつ。もう一度。さらに、もう一度。
「……ふう」
それからユウキは、ベッドから起き上がった。
よく眠れるようにと、アオイからハーブティーをもらっていたが、あまり効果はなさそうだった。
不思議そうにユウキを見上げてくるふわもこケセランたち。ユウキは彼らに「ごめんね」と手を合わせた。
「けど、無理もないよね。あれだけ色んなことがあったんだから」
全部、『生まれて初めて』の枕詞がつきそうなほど、刺激的な出来事ばかり。
幸せな興奮は、まだ心の奥底で灯り続けている。そんな気がした。
しかし――。
ベッドに腰掛けながら夜空を見上げたり、ケセランたちと戯れたりしながら、眠気が来るまで待っていたユウキは、次第にかすかな違和感を覚えるようになっていた。
いっこうに、眠くならない。
それどころか、夜中のあの気だるい疲れや、頭のぼんやり感もない。ほとんど日中と変わらないほどスッキリしている。
かといって、「興奮して眠れない!」ともどこか違う。鼓動も呼吸も穏やかで、幸せな気持ちはあれど、心はとても凪いでいる。
ユウキは生前、看護師さんから教わったことを思い出した。
人は心が疲れると眠れないことがある。それは不安や悲しみといった負の感情だけでなく、すごく嬉しいときにも起こるのだそうだ。どちらの感情も、いつもと違いすぎて心が疲れてしまうらしい。
ユウキは胸に手を置いた。そこにいるであろう、善き転生者の魂たちを意識する。
「ごめんね。皆も眠りたいよね」
――気にするな、少年。
――むしろ私たちが謝らないとね。
日中よりもはっきりと聞こえるようになってきた、転生者たちの言葉。彼らかも気遣われていると感じ、ユウキは申し訳ない気持ちになった。
「よし。せっかくだから」
ユウキはベッドから立ち上がると、寝間着から着替えた。
上の階の皆を起こさないように、そっと部屋を出る。
灯りの落とされたエントランスとリビングは、しんと静まりかえっていた。窓から差し込む月の光が、幻想的な空間を演出している。
ケセランたちがついてきた。肩や頭の上に乗ってくる彼らに、ユウキは「しーっ」と指を立てた。
音を立てないよう、慎重に玄関を開ける。
――眠くならないのなら、それまで夜の散歩をしよう。
もふもふ家族院の外に出たユウキは、改めて夜空の星に圧倒された。
「こんなにはっきりと天の川が見られるなんて、初めてだよ……!」
思わずつぶやいてから、慌てて口元を押さえる。
家族院を振り返るが、誰かが起きてくる気配はなかった。ユウキはホッと息をつく。
どうやら聖域内は、一日中過ごしやすい気温で保たれているらしい。暑くもなく、寒くもない。でもちゃんと夜の澄み切った空気は感じられる。そんな中を、ユウキはゆっくりと歩き出した。
夜にベッドを抜け出す――そのワクワク感が、ユウキの違和感を塗りつぶしていた。
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