僕はもふもふ家族院の院長先生!!

和成ソウイチ

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9章 聖域外からのピクニック

第75話 他の子と違う理由

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 洗い物がひととおり終わろうとしたころ。

「改めて思うけど、君は他の子とどこか違うね。ユウキ」

 ヴァスリオの言葉に、少年院長は首を傾げる。勇者は微笑んだ。

「純粋で子どもらしいのに、大人のように達観している。ちょっと興味があるな。君がどうしてそのような気持ちになれたのか」

 兄のように褒めてくれた青年からそのように聞かれ、ユウキは少しの間、口を閉ざした。
 やがて意を決し、告げる。

「実は僕……別の世界から来たんです」
「ほう、別の世界」
「はい。ここではない、まったく違う世界。このレフセロスよりも、色々な新しいものが溢れているところから。けど、僕はその世界でほとんど寝たきりの病気で。まったくと言って良いほど、外に出られなかったんです」
「しかし、今の君はどう見ても健康そのものだ」
「生まれ変わったんです。神様と天使様のおかげで」

 ヴァスリオは衝撃を受けていた。普通に考えれば荒唐無稽な話なのに、ヴァスリオは真面目に受け止めてくれている。
 ユウキは微笑んだ。
 この人になら、自分の気持ちを伝えられる。

「僕はずっと、誰かに迷惑をかけて生きてきました。だからベッドの上で考えていたんです。誰かの役に立ちたいって。けどそのときは結局なにもできなくて、そのまま……死んじゃいました」
「……」
「でも、そんな僕を天使様が迎えにきてくださったんです。そして、この聖域で新しく生まれ変わることができた。すごく、すごく感謝しています。ここでなら、僕のずっと考えていたことができる。誰かの役に立てるって」
「それで、院長先生――皆のリーダーを引き受けたんだね」
「はい」

 ユウキは小川をのぞき込む。水面には、健康的で穏やかな自分の顔が映り込んでいた。

「ずっと病気で苦しかったから、もうたいていのことは『なんとかなる』って思える感じで……生きてるだけでも幸せって心から思えるから。もし、僕が大人びて見えるのなら、『生きてるだけで幸せ』って気持ちが出ちゃってるんじゃないかなって思います」

 こんな答えで大丈夫ですか?とユウキはたずねた。勇者は深く、神妙にうなずく。

「よくわかったよ。君は、僕たち以上に大変な苦労を乗り越えてきたんだね。納得した」
「そんな、苦労だなんて」

 眉を下げ手を振るユウキ。
 そのとき、ふと思いついたことがあった。苦労と言えば、あのことを聞いてみてもいいかもしれない。

「あの、ヴァスリオさん。僕からもひとつ、聞いてもいいですか?」
「なんだい」
「眠れなくなる病気――って、ご存じですか?」

 眉をひそめる勇者。ユウキはかいつまんで説明した。

 どうやらこの世界に転生した影響で、夜に眠らなくても平気な身体になってしまったこと。
 自分の心の中には、同じように転生してきた複数の魂が同居していること。
 説明するうち、ヴァスリオの表情が真剣なものになってきたので、ユウキは慌てて言い繕った。

「病気っていうのはちょっと違くて、僕自身はぜんぜん心配してないし、納得してるんですが、その……冒険者であるヴァスリオさんなら、同じ症状についてなにか知っていることがあるのかなって」
「それは、また眠れるようになりたい、ということかい?」
「いいえ。これはこれで便利ですし。平気です」

 あっさりと答え、またも年上勇者を呆れさせる。
 ユウキは言った。

「ただ、もしこの先、なにか不都合が待っているなら、先に知っておきたいなって。そうすれば、もし僕の身体になにかあっても皆に迷惑をかけずに済むかなって」
「君はつくづく、家族優先なんだね」
「いけませんか?」
「いいや。改めて尊敬に値すると、その思いが強くなったよ」

 ヴァスリオは答え、それから考え込んだ。
 しばらく水面を見つめていた彼は、ゆっくりと自らの考えを告げた。

「正直に言うと、僕はその方面の専門家でないから断言はできないよ。非常に珍しいケースだろうから、この先なにが起こるか、予測は難しいだろうね」

 ただね、と続ける。

「個人的には、問題ないんじゃないかと考えてる。もう少し正確に言えば、『なにかあっても乗り越えられる』かな」
「どういうことですか?」
「君の中には良き転生者の魂が集まっていると聞いた。君とともにいて支えてくれる存在だと。彼らの加護があれば、ユウキはきっと大丈夫だと僕は思う」

 勇者はそう言って、自らの剣に手をやった。柄頭をゆっくりと撫でる。

「僕もこれまで何度も危ない目に遭ってきた。命の危険を感じたことも一度や二度じゃない。けど、そのたびにこの剣と、仲間たちの存在に支えられたんだ」

 剣があれば。仲間がいれば。
 どんな疲れも乗り越えられる。
 限界すらも超えられる。

「ユウキは、僕よりもさらに先にいるんじゃないかと思うよ。もっと大いなる存在から生きる力を得ている、と言った方がいいかな。なにせ魂に隣人がいるのだから。それに加えて、たくさんの家族もいる」

 だからきっと大丈夫さ、とヴァスリオは言った。

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