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10章 僕はもふもふ家族院の院長先生!!
最終話 僕はもふもふ家族院の院長先生!!
しおりを挟む――もふもふ家族院の子どもたちが元気を取り戻して、しばらくが経った。
聖域を見守る天界では、今日もまた天使マリアが推し活に励んでいる。
「じゃあルアーネ、そろそろ行ってくるわね」
お洒落な手提げカバンを手に、マリアはウキウキと親友天使に言った。
カバンの中身は、もふもふ家族院の子どもたちから頼まれた品々が入っている。中には手提げカバンではとても収まりきらないような物もあったが、そこはそれ、異世界に結界を作るほどの力をもってすれば多少の空間圧縮など造作もないことだった。
子どもたちの病気の件があってから、天使マリアはこれまで以上に下界に降りる機会を増やしていた。危機を乗り越え、推しへの愛がより深まったと言える。
そしてそれは、この顔芸天使だけではなかった。
「あー、その。なんだ」
いつもなら呆れ混じりにサッパリとした態度で送り出してくれる天使ルアーネが、今日はどこか歯切れが悪い。
聖域に繋がる水晶に片手を突っ込みながら、天使マリアが怪訝そうに首を傾げる。
ルアーネは頭をかきながら、視線を外した。
「なあマリア。下に降りるの、アタシも付いてっていいか?」
「え? ル、ルアーネが?」
「な、なんだよ。そんなにおかしいかよ」
本当に珍しく、若干顔を赤くしながら天使ルアーネが言う。
「お前がユウキと一緒に聖域の外に行ってる間、アタシがあの子たちの様子を見てただろ。まあ、それでさ。ちょっと情が湧いた、というか。やっぱり可愛いし、放っておけないよな、あいつら」
照れくさそうに笑う。
すると天使マリアは、おもむろに親友の元に歩み寄った。そして、彼女の身体を強く抱きしめる。
「そう言ってくれて、私も嬉しいわ。ルアーネ」
「マリア……」
「あなたもついに『箱推し』に目覚めたのね」
「……ん?」
天使マリアが親友と視線を合わせる。
「それでさっそくだけどあなたの最推しは誰ああごめんなさい無粋な質問だったわね私としたことが迂闊だったわもふもふ家族院の子たちは全員が推し全員が至宝全員が神に等しい存在だものね天使だけにわかるわかるわさあ一緒に至高の時間を堪能しにいきましょう今なら息をするだけで昇天確実な完璧シチュエーションが拝め」
「やっぱやめとく」
「なんで!?」
「おめーみたいにはなりたくないからだよ」
「ひどい!?」
「うるさい。さっさとその鼻から魔力垂れ流すの止めやがれ、この顔芸天使!」
「ひどい!!!」
半泣きで訴える天使マリアと、どこまでも冷めた目で親友に突っ込みを入れる天使ルアーネ。
やがてどちらともなく笑声を上げる。
彼女らはいつも通りのやり取りをしながら、ほんの少し、以前とは違う微笑ましさを感じるのであった。
◆◇◆
――1ヶ月後。
もふもふ家族院の前庭は、ここしばらくなかったほど賑やかだった。
家族院の子どもたちだけでなく、チロロや彼の眷属、聖域の動物たち、そして池のスライム一家までもが集まっていたからである。
「よーし、ゆっくり、ゆっくり――ストップ! おっしゃ、バッチリだぜ!」
スライムたちと協力して作業を終わらせたレンが、満足げな表情で脚立を降りる。
皆の視線の先。家族院の建物の玄関上に、大きな看板が新しく据え付けられた。
看板には『もふもふ家族院』という丸っこい文字と合わせ、余白に7人の子どもたちや森の生き物たちの似顔絵が描かれている。
皆で協力して作り上げた、お手製の逸品だ。
子どもたちが歓声を上げる。
「やったー! ついに完成だよー。かわいい!」
「ふはははっ。これで名実ともにここがウチらの拠点になったな! 超カッコいいぞ!」
「でもよぅ、似顔絵はやり過ぎじゃね? もうちょっとキレキレの柄が良かったぜオレ」
「ま、まあまあ。ボクは好きだな。温かみがあっていいじゃない」
「あらー? ミオちゃん、どうしたのー?」
「話しかけないで。恥ずかしさで死にそうだから。こんなのクラウディアさんに見せたらなんて言われるか……」
家族それぞれの反応を、ユウキは微笑ましく見ていた。
――今まで以上に絆を強めるため、家族院の象徴になるものを皆で作ろう。
そう話し合ったのが1ヶ月前。紆余曲折ありながらもこうして皆の前で披露できたのは感慨深かった。
やっぱり、皆で力を合わせてなにかを成し遂げるのは素敵だな。
ユウキは満足げにうなずく。
素材や道具の提供は天使様にも協力してもらった。天界から見てくれているかなとユウキは空を見上げ、ふと、視線を感じて振り返った。
少し離れた木の陰で、件の天使マリア様がハンカチ片手にこちらを見ていた。前が見えてないんじゃないかというぐらい、さめざめと泣いている。
その隣では、最近よく姿を見るようになった別の天使様――たしかルアーネ様といった――が、ため息をつきながら天使マリア様を小突いている。彼女はユウキに気づくと、『こっちは気にしなくていいから』と言わんばかりに手を振っていた。
本当に、これまで関わってきた皆が集まってくれたんだとユウキは思った。
看板に視線を戻す。
すると、不意に肩をトントンと叩かれた。ヒナタがニコニコ顔で立っている。
「どうしたの? ヒナタ」
「んふふー。実はね、皆からユウキにサプライズプレゼントがあるんだ。看板ができたら渡そうと思ってたやつ!」
首を傾げるユウキに、ヒナタは後ろ手に隠していた袋を差し出した。可愛らしくラッピングされているが、思ったよりも大きく、そして軽い。
「あけてみて」
「う、うん」
紐を解き、袋を開く。ユウキは目を見開いた。
「これは……帽子?」
頭頂部がふんわりとボリュームのある、いわゆるキャスケットタイプの帽子。
だが、明らかに売り物とは違うオリジナルの工夫がいくつも施されていた。
「帽子はウチの発案だぞ!」とサキが元気よく手を挙げながら、ひとつひとつ説明してくれる。
帽子全体を明るい空色で染めたのはソラの提案。
つばの部分に小さな星形の飾りを付けたのはミオのアイディア。
側面には、鮮やかな虹色のストライプが施されている。ヒナタ曰く、それぞれの色が家族院のメンバーを表しているらしい。
帽子の前面にはユウキの名前が刺繍されていた。これはアオイが発案し作業したという。
そして、帽子の後ろ部分には、パッと見でとても目立つ長い紐。風になびく様子がカッコいいからと、レンが言った。
これは、もふもふ家族院の仲間たちがユウキのために作った、絆を表す贈り物――。
「その名も『家族の帽子』だよ! この帽子を被ったユウキが、私たちのリーダー、もふもふ家族院の院長先生って証!」
「みんな……ありがとう!」
「お礼はいいから。さあさあ、被ってみせてよ!」
ヒナタに急かされ、ゆっくりと『家族の帽子』を被る。
いつの間にサイズを測ったのか、ユウキの頭にピッタリと収まった。
拍手が起こる。家族院の子どもたちだ。ケセランは自然の音楽を奏で、森の動物たちはそれぞれの鳴き声で祝福する。
――おめでとう、少年。これまでの努力が報われたな。
――あなたが院長として頑張ってきたことを、皆が認めてくれたのよ。私たちも嬉しい。本当におめでとう。
良き転生者の魂たちの声を聞いたとき、ユウキは思わず涙が出そうになった。
大きく息を吸い、天を仰ぎ、それから皆に向き直る。
胸を張った。
「僕はもふもふ家族院の院長先生、ユウキ! 皆、これからもどうかよろしくね!」
《僕はもふもふ家族院の院長先生!! 終わり》
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