1 / 77
第1話 追放? 俺にとっては解放だ!
しおりを挟む
「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」
金髪ツンツン頭の勇者スカルが、いかにも見下した口調で言った。
ラクターとは、俺――ラクター・パディントンのことだ。
ここは馴染みの酒場。スカルは特等席に座り、俺は立たされたままである。
スカルの取り巻き少女たちが俺を見てクスクスと笑っている。スカルの右隣が聖女エリス、左隣が賢者アリア。二人とも、スカル好みの美少女である。
俺の、仲間だった人たち。
「それだけの理由で、俺を追放するのか」
自分でも驚くほど無感情な声が出た。
しかしスカルはまったく気にも留めない。
「当たり前だろ。たいして強くもない、魔法が使えるわけでもない、頭がいいわけでもない。ただ俺たちの後をコソコソコソコソ付いてくるだけの無能じゃないか。その点、俺はお前にないものをすべて持ってる。ラクター、お前を仲間にしておく意味がどこにある?」
「そーそー」
取り巻きたちがうなずいた。
――スカルたちにとって俺は、体の良い荷物運び。
そして憂さ晴らしの相手だった。
たぶん、今このときもそうだ。
俺は知ってる。
スカルは昨日、王様に内緒で違法な賭博場で遊んで、大金をスッていた。
エリスは画家に描かせた自分の肖像画が気に入らなかったと話していた。
アリアは無茶な実験で研究所を損壊させて、所長から叱られてむくれていた。
俺は知ってる。尻拭いをしたのは、全部俺だから。
それなのに、こいつらはもう俺をいらないと言っている。
俺はスカルの表情を見た。
――ほら、謝るなら今のうちだぞ? お前が土下座して頼み込むなら、クビを撤回してやらんこともないぜ?
奴の微笑みは、そう語っている。
力もコネもないお前が勇者パーティから抜けられるはずがない。だからみっともない姿を見せて、俺たちを喜ばせろ――そう考えている顔だ。他の皆も。
確かに俺には勇者ほど圧倒的な力がない。
顔は十人並みだし、身長もこの世界じゃ平均くらい。
必死こいて習得した数々のスカウトスキルと、地道なコミュニケーションによる人脈。
あとはそう……子どもじみた信念があるだけだ。
「そうだな」
俺のつぶやきに、スカル、エリス、アリアが怪訝そうな表情をした。
俺は懐から一通の手紙を取り出し、スカルに手渡した。
「あん? なんだこれは」
「イリス姫殿下からの親書だよ。さっき親衛隊の人から預かった」
「なにお前が持ってんだよ。早く寄越せ」
手紙をひったくり、食い入るように中を見る。ちなみに、俺は中身をすでに読んでいた。
差出人名代わりのサインに、そう書いてあったから。
読み終えたスカルは上機嫌になっていた。
「ハッ! 見ろよラクター。姫様が俺たちを英雄として扱うと言ってる。だが残念だったな、お前の名前はどこにもねえよ」
「……」
「お前を用済みだと思っているのは俺たちだけじゃないってことだな! ハッハッハ!」
高笑いするスカルを俺は冷めた目で見ていた。
……やっぱり気付かなかったか。
姫様は手紙に簡単な暗号を仕込んでいた。『この暗号に気付けたのなら、それはラクター・パディントンのおかげです。もっと彼を大事にしてあげてください』――と。
あの純粋な姫様のことだ。暗号を仕込むなんて真似、本意でなかったに違いない。
だが、ストレートに叱責すれば、この勇者は何をするかわからない。
震える筆跡に、俺は姫様の葛藤を感じた。
――ありがとう、姫様。俺の名前を書かないでいてくれて。
おかげで踏ん切りがついた。
これまでずっと我慢してきた。
けど駄目だ。この勇者に、俺は付いていきたくない。
愛想が尽きた。完全に。
スカルは手紙を俺の前でヒラヒラさせながら、舐めるように言った。
「用済み扱いされたお前を連れてたら俺まで馬鹿にされる。お前、ホントにクビな? 可哀想なラクターくん?」
――その言葉を待ってたよ、勇者スカル。じゃあな。
俺は踵を返した。
背中から勇者パーティの高笑いが聞こえてくる。
酒場の扉を開け、大通りに出た俺は、その場で深呼吸した。
腹の底から湧き上がってくる感情がある。頬がムズムズした。
俺は思わず、その場でガッツポーズを取った。
「よぉっし、これで奴らから解放された! 俺は――自由だ!」
金髪ツンツン頭の勇者スカルが、いかにも見下した口調で言った。
ラクターとは、俺――ラクター・パディントンのことだ。
ここは馴染みの酒場。スカルは特等席に座り、俺は立たされたままである。
スカルの取り巻き少女たちが俺を見てクスクスと笑っている。スカルの右隣が聖女エリス、左隣が賢者アリア。二人とも、スカル好みの美少女である。
俺の、仲間だった人たち。
「それだけの理由で、俺を追放するのか」
自分でも驚くほど無感情な声が出た。
しかしスカルはまったく気にも留めない。
「当たり前だろ。たいして強くもない、魔法が使えるわけでもない、頭がいいわけでもない。ただ俺たちの後をコソコソコソコソ付いてくるだけの無能じゃないか。その点、俺はお前にないものをすべて持ってる。ラクター、お前を仲間にしておく意味がどこにある?」
「そーそー」
取り巻きたちがうなずいた。
――スカルたちにとって俺は、体の良い荷物運び。
そして憂さ晴らしの相手だった。
たぶん、今このときもそうだ。
俺は知ってる。
スカルは昨日、王様に内緒で違法な賭博場で遊んで、大金をスッていた。
エリスは画家に描かせた自分の肖像画が気に入らなかったと話していた。
アリアは無茶な実験で研究所を損壊させて、所長から叱られてむくれていた。
俺は知ってる。尻拭いをしたのは、全部俺だから。
それなのに、こいつらはもう俺をいらないと言っている。
俺はスカルの表情を見た。
――ほら、謝るなら今のうちだぞ? お前が土下座して頼み込むなら、クビを撤回してやらんこともないぜ?
奴の微笑みは、そう語っている。
力もコネもないお前が勇者パーティから抜けられるはずがない。だからみっともない姿を見せて、俺たちを喜ばせろ――そう考えている顔だ。他の皆も。
確かに俺には勇者ほど圧倒的な力がない。
顔は十人並みだし、身長もこの世界じゃ平均くらい。
必死こいて習得した数々のスカウトスキルと、地道なコミュニケーションによる人脈。
あとはそう……子どもじみた信念があるだけだ。
「そうだな」
俺のつぶやきに、スカル、エリス、アリアが怪訝そうな表情をした。
俺は懐から一通の手紙を取り出し、スカルに手渡した。
「あん? なんだこれは」
「イリス姫殿下からの親書だよ。さっき親衛隊の人から預かった」
「なにお前が持ってんだよ。早く寄越せ」
手紙をひったくり、食い入るように中を見る。ちなみに、俺は中身をすでに読んでいた。
差出人名代わりのサインに、そう書いてあったから。
読み終えたスカルは上機嫌になっていた。
「ハッ! 見ろよラクター。姫様が俺たちを英雄として扱うと言ってる。だが残念だったな、お前の名前はどこにもねえよ」
「……」
「お前を用済みだと思っているのは俺たちだけじゃないってことだな! ハッハッハ!」
高笑いするスカルを俺は冷めた目で見ていた。
……やっぱり気付かなかったか。
姫様は手紙に簡単な暗号を仕込んでいた。『この暗号に気付けたのなら、それはラクター・パディントンのおかげです。もっと彼を大事にしてあげてください』――と。
あの純粋な姫様のことだ。暗号を仕込むなんて真似、本意でなかったに違いない。
だが、ストレートに叱責すれば、この勇者は何をするかわからない。
震える筆跡に、俺は姫様の葛藤を感じた。
――ありがとう、姫様。俺の名前を書かないでいてくれて。
おかげで踏ん切りがついた。
これまでずっと我慢してきた。
けど駄目だ。この勇者に、俺は付いていきたくない。
愛想が尽きた。完全に。
スカルは手紙を俺の前でヒラヒラさせながら、舐めるように言った。
「用済み扱いされたお前を連れてたら俺まで馬鹿にされる。お前、ホントにクビな? 可哀想なラクターくん?」
――その言葉を待ってたよ、勇者スカル。じゃあな。
俺は踵を返した。
背中から勇者パーティの高笑いが聞こえてくる。
酒場の扉を開け、大通りに出た俺は、その場で深呼吸した。
腹の底から湧き上がってくる感情がある。頬がムズムズした。
俺は思わず、その場でガッツポーズを取った。
「よぉっし、これで奴らから解放された! 俺は――自由だ!」
6
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる