追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ

文字の大きさ
57 / 77

第57話 森を抜けると

しおりを挟む

 書記官キリオが言っていたことは――残念ながら――マジだった。

 あの野郎、ご丁寧に国王の御璽ぎょじ入りの招待状まで持参していた。国賓こくひんであることを示す記章きしょうを俺に手渡し、「謁見の手順は自分が把握しておりますので、ご心配なく」とのたまう。
 そこまで言われたら、さすがに冗談でないことはわかる。

 ちくしょうめ。こっちに来るのが遅れたのは、もしかしてこのせいなんじゃねえか?

「……国賓扱い。まったく……はあ」
「ラクターさん。私の父が無理を言ってすみません」
「いや、まあ……な。国のトップ同士が会談すること自体はおかしなことじゃない」

 おかしなことじゃないんだが……その当事者に自分がなってるってのが釈然としない。こんな立場にまでなるつもり、なかったんだがなあ。

 ――俺たちは今、カリファ聖王国の王樹を出て、スクードへ向かっていた。

 一国の主に会いに行くのだ。こちらも、それなりに形を整える必要がある。
 カリファ聖王国側からはリーニャ、ルウ、それと神鳥も連れていく。『見目が重要』とはキリオの弁だ。
 王樹の留守は森の動物たちと、レオンさん親子に任せた。

 アリアも同行している。本人は渋っていたが、イリス姫に促され、迷った末についてくることに決めたようだ。

 で、俺の方はというと。イリス姫から賜った礼服をぴっちり着こなし、パテルルの背中に乗っている。目の前には、同じくホワイトウルフの背に横座りになった姫がいた。
 イリス姫も、従者たちの手でばっちり身支度を調えていた。
 繰り返すが、『見目が重要』とはキリオの弁である。
 もちろん、姫の従者たちもずらり勢揃いだ。

 ……何が悲しくてこの格好で森の中を闊歩かっぽしなければならんのか。

「あ、ラクターさん。襟が少しズレています。じっとしていてくださいね。あ、こちらには葉っぱが。ふふ、こうしていると悪戯いたずらした後みたいですね」

 ……おまけにイリス姫はやけに機嫌がいいし。まあ楽しそうならいいけど。

する人間の心理は、このようなものなのでしょうか?』

 違う。この女神、学ぶべき用語のチョイスがぜったいに間違っている。

 とにかく!

 ルマトゥーラ王国の王から直々のお誘い。王都に行きたくないと我が儘言っている場合ではない。
 それに、だ。
 キリオの報告にあったように、エリスがもたらした瓶のことがある。
 一度、王都を訪れる必要があるとは思っていたところだ。
 何事もなければいいが……そう都合良くはいかないだろうな。
 もし王都で召喚獣騒ぎが起こった場合、俺たちだけで対処するのは難しいかもしれない。

 俺は心の中でアルマディアに声をかけた。万が一のときに備え、頼みごとをする。

『承りました。リーニャとルウにもその旨伝えておきましょう』

 女神はうなずいた。
 彼女の声を聞くことができる者は限られている。イリス姫やその従者たちに、余計な心配をさせずに済むのはありがたい。あとでそれとなく、アリアにも頼んでおこう。

 ――カリファ聖王国の境界、森の出入口が見えてきた。

「…………は?」

 俺は思わず口をぽかんと開けて呆けてしまった。
 森を出てすぐ、街道沿いにずらりと騎士が並んでいたからだ。
 立派な馬に乗った、ひときわ強そうな騎士がやってきて、馬上で敬礼する。

「お待ちしておりました。ラクター・パディントン陛下、イリス姫殿下。ここからは我らが先導いたします」
「先導……?」
「おふたりはどうぞ、あちらの馬車にお移りください」

 恭しく示された先には、細かな彫刻が施されたっかそうな馬車があった。しかも屋根なし。俺が転生する前の世界で言えば、純白のオープンカーといったところか。

 俺は生まれる前も後もれっきとした庶民である。思わず聞いた。

「靴のまま上がっていいのか?」
「は?」
「なんでもありません」

 さびだらけのブリキ人形のように無理矢理笑うと、俺は書記官野郎を振り返った。

「どういうことだ、これは」

 小声、低音で聞く。キリオはいつものように眼鏡のブリッジを上げた。

「舞台は整いました」
「頼んでぇって言ってる」
「すでに王都の目抜き通りでは、王城の者たちが人寄せと交通整理を行っていることでしょう。何事かと集まってきた人々のところへ、颯爽と我々が現れ、行進する。これ以上ない凱旋パレードです」
「それヤラセって言わないか書記官」
「インパクトが大事なのです。我らが国王陛下もおっしゃっていました」

 あ、りぃ。

「ラクター陛下がどうしてもとおっしゃるなら別の方法も考えますが……此度のパレードのために市中しちゅうを駆けずり回った者たちの苦労が水泡に帰しますし、なにより、ほら。お隣の姫様が非常に悲しそうなお顔をされているではないですか。『私と一緒ではやっぱり駄目なんですね……』と」

 ず、りぃぃぃぃっ!!

 書記官の言葉通りの表情を浮かべたイリス姫をなだめ、馬車の席に着く。隣には着飾った一国の姫。なんだこれ。

 馬車の昇降口にキリオとスティアの双子従者が張り付いてこちらを見上げていた。俺は心を込めて言う。

「後で覚えてろよ貴様ら」
「ぜひそうしてください。我々はラクター陛下からのご報告を心待ちにしております」
「陛下の方から覚えていただけるとは、筆頭騎士として願ってもないこと。ぜひ姫様の一挙手一投足を私たちにお示し下さい。それが何よりのご褒美です」
「……やっぱ覚えてなくていい」

 双子従者が敬礼して後方に下がる。
 がっくりとうつむく俺。気遣って肩をさすってくれる姫。

 一頭の馬が隣に来る。馬上にはアリアがいた。

「あんたも大変ね」
「……マジでこの精神状態で王都に乗り込めと?」
「同情するわ。その上で言うけど」

 アリアが辺りを見回す。つられて俺も辺りを見回す。
 王都に続く主要街道のひとつを、物々しい騎士や派手な見た目の男女やデカい鳥が列をなして占拠している。
 はるか後方では、商隊らしき一行が行く手を遮られ、何事かとこちらを見ていた。

 大賢者サマは言った。

「さっさと進め」
「わあったよ!! ――出発だ!」

 俺の一言に安堵したように、騎士隊長が王都へ向けて凱旋を指示した。
 凱旋? なんの?
 俺が知るか!


  
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな ・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー! 【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】  付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。  だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。  なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!  《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。  そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!  ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!  一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!  彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。  アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。  アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。 カクヨムにも掲載 なろう 日間2位 月間6位 なろうブクマ6500 カクヨム3000 ★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...