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頭が痛い
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聖女が召喚されて来て2か月が過ぎた。
「まだ、魔は抑えられぬのか」
王が疲れたような顔で問うのに、皇太子が答えた。
「はい。異世界からこちらへ来て、色々と戸惑うことが多く、生活に慣れるのに必死なようです」
「わからなくはないが……そう悠長な事も言ってはおれんのだがな……」
それに皇太子は自信満々に、
「お任せください。私が徹底的にサポートしてみせます」
と言う。
「ところで、其方と側近候補の3人だが。揃いも揃って婚約を白紙に戻し、聖女にベッタリだと聞いているのだが?」
「聖女様がお力を遺憾なく発揮されるようにと尽くしているのです。そのような、ゲスな見方をする輩がいるのは残念です。
ですが、魔を抑えた暁には、この私が聖女を妻に迎え、一生協力し合って行けるものと考えております」
王は宰相とチラ、と視線を合わせ、
「わかった。取り敢えずは、魔を早く抑えられるように」
と言って、皇太子を下がらせた。
そして、言い合う。
「聖女と結婚する気だという事だろう?しかもほかの側近候補も。聖女は何と言っておるのだ?それとも異世界では、女1人が複数の男と結婚するのか?」
宰相は深く嘆息した。
「いえ、聖女様の国では、一夫一妻制と伺っております。しかし聖女様が言うには、聖女が召喚されれば聖女様お1人が複数の夫を持つと言われているとか」
それに王は首を捻った。
「異世界に聖女はいないのであろう?なのに、そういう決まりはあるのか?」
「さあ。私にもさっぱり……」
「とにかく、魔は濃くなるし、婚約解消は相次ぐし。早く魔を抑えてもらわぬことには、何もかもが不安定でかなわぬ」
渋い顔で王は言った。
聖女は、ふてくされて机に向かっていた。
いくら何でも、遊んでばかりで訓練ひとつしない状態に教会もしびれを切らし、強制的に訓練をしていたのだ。皇太子も、流石に何もしないままというのはまずいと思ったのか、聖女をなだめすかして、机に着かせた。
「――というわけですから、魔というのは」
説明も、エミリには子守唄だ。
それに気付き、教師は嘆息を堪えた。これで本当に大丈夫か、と心配にもなる。
「エミリ、少し休憩しよう」
すっかり、「殿下、聖女様」から「ジュリアーノ、エミリ」と呼び方が変わるほどに親しくなった彼らは、勉強の時間も、デートの時間と勘違いしているのかもしれない。
つい20分前にケーキとお茶で休憩したばかりだというのに、今度は「アイスクリーム」で休憩である。
エミリは欠伸をかみ殺し、言った。
「大丈夫よ。聖女だから、そのための力はあるはずよ。きっと、その場に行けばなんとかできるのよ」
それに、皇太子や取り巻き達は、
「流石だ」
「頼もしい」
「やはり聖女様として召喚された方は違うな」
と持ち上げた。
「では、行きましょうかね。魔の湧き出す中心地へ」
ほぼ投げやりな気分で教師が言うと、皇太子と取り巻きは顔色を変えた。
「危険ではないか。エミリに何かあったらどうするつもりだ!?」
と言い立てるが、そもそもそのための聖女だ。
彼らはどこまでもかみ合わないまま、焦りと苛立ちだけが積み重なって行った。
卒業式を来週に控え、ユリウスは荷物をまとめていた。
卒業後は家を出ると決まっていたので、コツコツと準備をしているのだ。
(聖女様の方も、これからはプロを雇ってカデンを作ればいいよな。僕を使えばタダだけど、プロだともっと性能がいいだろうし)
これまでいくつも色々な物を作って来たが、聖女にも家族にも、褒められた事は無い。せいぜい、「趣味だからこんなものか」「ま、仕方ない。これでいいか」であり、ユリウスは、半端者扱いだった。
そしてその評価を、ユリウスは信じ切っていた。
(本気で頑張らないとな)
決意も新たにユリウスはそう誓った。
その直後、血相を変えた皇太子とニコラスが飛び込んで来て、しんみりとした空気は霧散した。
「おい!魔の濃い地点に安全に行くためのものを今すぐ作れ!」
「そうだ!エミリにもしもの事があったら大変だ!」
ユリウスはキョトンとした。
「聖女様用にですか?」
「当然だろう!」
ユリウスは首を傾げた。
「あれ?聖女様はそれに対抗できるんですよね?それで、魔を抑えるんですよね?」
自信満々で皇太子と兄が言うので、ユリウスは常識であったはずの事だが、確認してみた。
「はあ!?お前は言う事を聞いていればいいんだ!どうせ来週には平民になるんだから、もう平民と一緒だろう!貴族に口ごたえするんじゃない!」
「そうだ!この私の命令が聞けないなら、お前なんか価値はない!この国から出て行け!追放だ!」
あっけにとられるユリウスの前から不機嫌そうに2人が去ると、取り巻き連中も顔を見せ、
「3日以内だ」
「エミリに何かあったら、貴様を殺す」
「さっさと取り掛かるんだな!」
と言って、立ち去った。
ユリウスは呆然として乱暴に閉じられたドアを見ていた。
「まだ、魔は抑えられぬのか」
王が疲れたような顔で問うのに、皇太子が答えた。
「はい。異世界からこちらへ来て、色々と戸惑うことが多く、生活に慣れるのに必死なようです」
「わからなくはないが……そう悠長な事も言ってはおれんのだがな……」
それに皇太子は自信満々に、
「お任せください。私が徹底的にサポートしてみせます」
と言う。
「ところで、其方と側近候補の3人だが。揃いも揃って婚約を白紙に戻し、聖女にベッタリだと聞いているのだが?」
「聖女様がお力を遺憾なく発揮されるようにと尽くしているのです。そのような、ゲスな見方をする輩がいるのは残念です。
ですが、魔を抑えた暁には、この私が聖女を妻に迎え、一生協力し合って行けるものと考えております」
王は宰相とチラ、と視線を合わせ、
「わかった。取り敢えずは、魔を早く抑えられるように」
と言って、皇太子を下がらせた。
そして、言い合う。
「聖女と結婚する気だという事だろう?しかもほかの側近候補も。聖女は何と言っておるのだ?それとも異世界では、女1人が複数の男と結婚するのか?」
宰相は深く嘆息した。
「いえ、聖女様の国では、一夫一妻制と伺っております。しかし聖女様が言うには、聖女が召喚されれば聖女様お1人が複数の夫を持つと言われているとか」
それに王は首を捻った。
「異世界に聖女はいないのであろう?なのに、そういう決まりはあるのか?」
「さあ。私にもさっぱり……」
「とにかく、魔は濃くなるし、婚約解消は相次ぐし。早く魔を抑えてもらわぬことには、何もかもが不安定でかなわぬ」
渋い顔で王は言った。
聖女は、ふてくされて机に向かっていた。
いくら何でも、遊んでばかりで訓練ひとつしない状態に教会もしびれを切らし、強制的に訓練をしていたのだ。皇太子も、流石に何もしないままというのはまずいと思ったのか、聖女をなだめすかして、机に着かせた。
「――というわけですから、魔というのは」
説明も、エミリには子守唄だ。
それに気付き、教師は嘆息を堪えた。これで本当に大丈夫か、と心配にもなる。
「エミリ、少し休憩しよう」
すっかり、「殿下、聖女様」から「ジュリアーノ、エミリ」と呼び方が変わるほどに親しくなった彼らは、勉強の時間も、デートの時間と勘違いしているのかもしれない。
つい20分前にケーキとお茶で休憩したばかりだというのに、今度は「アイスクリーム」で休憩である。
エミリは欠伸をかみ殺し、言った。
「大丈夫よ。聖女だから、そのための力はあるはずよ。きっと、その場に行けばなんとかできるのよ」
それに、皇太子や取り巻き達は、
「流石だ」
「頼もしい」
「やはり聖女様として召喚された方は違うな」
と持ち上げた。
「では、行きましょうかね。魔の湧き出す中心地へ」
ほぼ投げやりな気分で教師が言うと、皇太子と取り巻きは顔色を変えた。
「危険ではないか。エミリに何かあったらどうするつもりだ!?」
と言い立てるが、そもそもそのための聖女だ。
彼らはどこまでもかみ合わないまま、焦りと苛立ちだけが積み重なって行った。
卒業式を来週に控え、ユリウスは荷物をまとめていた。
卒業後は家を出ると決まっていたので、コツコツと準備をしているのだ。
(聖女様の方も、これからはプロを雇ってカデンを作ればいいよな。僕を使えばタダだけど、プロだともっと性能がいいだろうし)
これまでいくつも色々な物を作って来たが、聖女にも家族にも、褒められた事は無い。せいぜい、「趣味だからこんなものか」「ま、仕方ない。これでいいか」であり、ユリウスは、半端者扱いだった。
そしてその評価を、ユリウスは信じ切っていた。
(本気で頑張らないとな)
決意も新たにユリウスはそう誓った。
その直後、血相を変えた皇太子とニコラスが飛び込んで来て、しんみりとした空気は霧散した。
「おい!魔の濃い地点に安全に行くためのものを今すぐ作れ!」
「そうだ!エミリにもしもの事があったら大変だ!」
ユリウスはキョトンとした。
「聖女様用にですか?」
「当然だろう!」
ユリウスは首を傾げた。
「あれ?聖女様はそれに対抗できるんですよね?それで、魔を抑えるんですよね?」
自信満々で皇太子と兄が言うので、ユリウスは常識であったはずの事だが、確認してみた。
「はあ!?お前は言う事を聞いていればいいんだ!どうせ来週には平民になるんだから、もう平民と一緒だろう!貴族に口ごたえするんじゃない!」
「そうだ!この私の命令が聞けないなら、お前なんか価値はない!この国から出て行け!追放だ!」
あっけにとられるユリウスの前から不機嫌そうに2人が去ると、取り巻き連中も顔を見せ、
「3日以内だ」
「エミリに何かあったら、貴様を殺す」
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ユリウスは呆然として乱暴に閉じられたドアを見ていた。
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