13 / 48
水色のアメ玉
しおりを挟む
篁文達がモールの入り口に着くとほぼ同時に、課の車が到着した。トラックのような見かけで、コンテナの後ろの扉を開けると、両側に向かい合うように長椅子がついていて、その2列の椅子の真ん中にテーブルのような物がある。
しかしこれはテーブルではない。中に各人の装備品が収まっているロッカーである。
コンテナに入ると、各々自分のロッカーに顔を向け、スイッチを押す。それで網膜がスキャンされ、本人と認定された後、ロッカーが開く。
ホルスターを着け、銃を突っ込み、スティックを差し込み、ヘッドセットをつける。
そして表へ出、揃っている事を一瞥して確認すると、走り出した。
先程のレストランの前辺りが、中心地点らしい。
次元の裂け目が店の扉の真ん前にでき、レストランの客は店から退避できないでいるようだった。そしてその裂け目は揺れ、歪み、広がり、やがてサル型が亀裂を潜ってこちら側に現れた。
「周囲の避難は大体済んでるな。あとはレストランの中にいた人だけか」
「注意を引いて引き離すである」
「わかった。その間に紗希とセレエは客の避難誘導を」
ざっと打ち合わせて、飛び込んで行く。
出て来たばかりのサル型は、一瞬戸惑うようなそぶりを見せるものの、気にせず、目の前の「エサ」であるヒトに注意を移す。
「グオオオ!」
大きく腕を振りかぶり、叩きつけるが、ドルメはスイッと避けて店の前から引き離していく。
「ははは!吾輩はここである!」
「お前はこっちだ」
篁文も、次の1体を引き剥がして離れていく。
虫がわらわらと出て来たものの、パセが大方を切り、紗希もモグラたたきの如くスティックを虫型に振り下ろしていく。
「今のうちに避難を――」
セレエが客達を促した時、サル型が雄叫びを上げた。
「しまった!」
ラクシー人達がヘナヘナと、しゃがみ込んだり倒れたりしていく。
「クソッ。異世界生物め!」
誰かが吐き捨てる。
「こうなったら店の中に戻せ!」
慌ててセレエと紗希で、どうにかこうにかラクシー人達を店内に戻して、ドアを閉める。
「サル型は即始末しよう」
「そうであるな」
篁文とドルメは銃でサル型を始末し、次元の裂け目に戻って来た。
「虫型が多いわ!」
「逃がすな!」
逃げようとすり抜けたものを、片っ端から始末していく。
やがて、裂け目が閉じて行き、空間は元に戻った。
「終わった?もういない?」
「いないと、思う」
「はああ……」
紗希とセレエとパセが座り込む。
「ケガはないか?」
「ん、大丈夫」
「あとはラクシー人であるな」
ドルメが言いながら、ドアを開ける。
ガラスのドア越しに倒れながら戦いを見ていたラクシー人達は、体液にまみれたドルメに引き攣ったような声を上げる者もいた。
「ああ、うっかりしておった」
「後は警官に任せて撤収しよう」
篁文はそう言って紗希に手を貸して立ち上がらせながら、皆を促した。
ラクシー人達もケガはないようで、マヒから立ち直ってきている。
「そうであるな」
「やれやれだね。異世界人に助けられた感想を聞きたいところだね」
「いいじゃないの、もう」
パセは、自分の耳を恐ろし気に見つめる老婦人の目から逃げるように、大きなドルメの陰に隠れて言った。
セレエは肩を竦め、皆で揃って歩き出す。
その背中に子供の声がかり、パタパタという足音と、焦ったように名前を呼ぶ母親らしき声がした。
振り返る皆の前で、その子供が転ぶ。
「ああ。気を付けて」
パセが、顔面を床に打ち付けそうになる寸前で子供を受け止めた。
「お姉ちゃん、ありがとう。お礼にあげる」
子供は、握りしめていた手を差し出して広げた。青いセロファンに包まれたアメ玉が5つ、小さな掌の上に乗っていた。
「あ……」
「嫌い?」
パセは耳をピクピクさせて、子供の心配そうな顔を見た。
そして、笑う。
「ううん。大好き。ありがとう」
通じなくて、子供が首を傾げる。
篁文はパセに、アクシル語を教えてやった。
子供は嬉しそうに笑った。
「良かった」
それで、1人1つずつ、手のひらからアメ玉を貰う。
「ありがとう」
子供は笑って、恥ずかしそうに母親の所に走って戻った。
「さあ、行くぞ」
篁文達は歩き出し、車に乗って、装備を戻して椅子に座った。
そして、アメ玉を眺めた。
「ありがとう、か。いい言葉であるな」
パクッと、ドルメがアメ玉を口に入れる。
「シュワッとするぞ」
セレエが、アメ玉を舐めながら目を丸くした。
「篁文、サイダーだよ」
「そうだな」
水色の丸いアメ玉を、口に入れる。
パセはアメ玉を光に翳してみた。
「きれーい」
透き通った水色で、キラキラとしている。そして、丁寧にそれを口に含んで、舌の上で転がす。
「ん。爽やかで、甘あい」
皆無言で、アメ玉を味わった。
しかしこれはテーブルではない。中に各人の装備品が収まっているロッカーである。
コンテナに入ると、各々自分のロッカーに顔を向け、スイッチを押す。それで網膜がスキャンされ、本人と認定された後、ロッカーが開く。
ホルスターを着け、銃を突っ込み、スティックを差し込み、ヘッドセットをつける。
そして表へ出、揃っている事を一瞥して確認すると、走り出した。
先程のレストランの前辺りが、中心地点らしい。
次元の裂け目が店の扉の真ん前にでき、レストランの客は店から退避できないでいるようだった。そしてその裂け目は揺れ、歪み、広がり、やがてサル型が亀裂を潜ってこちら側に現れた。
「周囲の避難は大体済んでるな。あとはレストランの中にいた人だけか」
「注意を引いて引き離すである」
「わかった。その間に紗希とセレエは客の避難誘導を」
ざっと打ち合わせて、飛び込んで行く。
出て来たばかりのサル型は、一瞬戸惑うようなそぶりを見せるものの、気にせず、目の前の「エサ」であるヒトに注意を移す。
「グオオオ!」
大きく腕を振りかぶり、叩きつけるが、ドルメはスイッと避けて店の前から引き離していく。
「ははは!吾輩はここである!」
「お前はこっちだ」
篁文も、次の1体を引き剥がして離れていく。
虫がわらわらと出て来たものの、パセが大方を切り、紗希もモグラたたきの如くスティックを虫型に振り下ろしていく。
「今のうちに避難を――」
セレエが客達を促した時、サル型が雄叫びを上げた。
「しまった!」
ラクシー人達がヘナヘナと、しゃがみ込んだり倒れたりしていく。
「クソッ。異世界生物め!」
誰かが吐き捨てる。
「こうなったら店の中に戻せ!」
慌ててセレエと紗希で、どうにかこうにかラクシー人達を店内に戻して、ドアを閉める。
「サル型は即始末しよう」
「そうであるな」
篁文とドルメは銃でサル型を始末し、次元の裂け目に戻って来た。
「虫型が多いわ!」
「逃がすな!」
逃げようとすり抜けたものを、片っ端から始末していく。
やがて、裂け目が閉じて行き、空間は元に戻った。
「終わった?もういない?」
「いないと、思う」
「はああ……」
紗希とセレエとパセが座り込む。
「ケガはないか?」
「ん、大丈夫」
「あとはラクシー人であるな」
ドルメが言いながら、ドアを開ける。
ガラスのドア越しに倒れながら戦いを見ていたラクシー人達は、体液にまみれたドルメに引き攣ったような声を上げる者もいた。
「ああ、うっかりしておった」
「後は警官に任せて撤収しよう」
篁文はそう言って紗希に手を貸して立ち上がらせながら、皆を促した。
ラクシー人達もケガはないようで、マヒから立ち直ってきている。
「そうであるな」
「やれやれだね。異世界人に助けられた感想を聞きたいところだね」
「いいじゃないの、もう」
パセは、自分の耳を恐ろし気に見つめる老婦人の目から逃げるように、大きなドルメの陰に隠れて言った。
セレエは肩を竦め、皆で揃って歩き出す。
その背中に子供の声がかり、パタパタという足音と、焦ったように名前を呼ぶ母親らしき声がした。
振り返る皆の前で、その子供が転ぶ。
「ああ。気を付けて」
パセが、顔面を床に打ち付けそうになる寸前で子供を受け止めた。
「お姉ちゃん、ありがとう。お礼にあげる」
子供は、握りしめていた手を差し出して広げた。青いセロファンに包まれたアメ玉が5つ、小さな掌の上に乗っていた。
「あ……」
「嫌い?」
パセは耳をピクピクさせて、子供の心配そうな顔を見た。
そして、笑う。
「ううん。大好き。ありがとう」
通じなくて、子供が首を傾げる。
篁文はパセに、アクシル語を教えてやった。
子供は嬉しそうに笑った。
「良かった」
それで、1人1つずつ、手のひらからアメ玉を貰う。
「ありがとう」
子供は笑って、恥ずかしそうに母親の所に走って戻った。
「さあ、行くぞ」
篁文達は歩き出し、車に乗って、装備を戻して椅子に座った。
そして、アメ玉を眺めた。
「ありがとう、か。いい言葉であるな」
パクッと、ドルメがアメ玉を口に入れる。
「シュワッとするぞ」
セレエが、アメ玉を舐めながら目を丸くした。
「篁文、サイダーだよ」
「そうだな」
水色の丸いアメ玉を、口に入れる。
パセはアメ玉を光に翳してみた。
「きれーい」
透き通った水色で、キラキラとしている。そして、丁寧にそれを口に含んで、舌の上で転がす。
「ん。爽やかで、甘あい」
皆無言で、アメ玉を味わった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、そして政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に行動する勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、そして試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、
魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※「小説家になろう」にも掲載。(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる