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大人の夜遊び
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夏だ。最近はどうかしたらゴールデンウイークでも夏みたいだが、やっぱり、7月、8月が夏の本家だろう。
教科書を鞄に詰め込み、上機嫌で帰り支度をする僕に、林間学校以来仲良くなったやつらがニヤニヤと話しかけて来る。
「ご機嫌だなあ、里中」
「金曜だからな、念願の」
「やっぱりな。うん。夏だもんな」
「そうか、わかるか!」
「わかるとも!夏と言えば?」
「キス、タコ、タチウオ、イカ!」
上機嫌で答えたのに、あれ?反応がおかしい・・・。
「いやいや、デートだろ。恋だろ」
鈴木さんと別れたのは春だったなあ。遠い昔みたいな気がする。
「今晩、カラオケ行こうぜ。女子も来るってよ!」
「ああ・・・こんばんは先約があるし、僕はパスな。ありがとうな」
だって今夜は、美人なイカとデートなんだよ!
僕はウキウキと、帰途についた。
今回は、夕方出船して夜中に戻る、イカ釣りだ。北倉さん曰く、「大人の夜遊び」。
イカメタルというのは、スッテという、細長い葉巻みたいな形のものにたくさんの針が放射状に付いたようなものを使って、イカを狙う釣りだ。
「楽しみだなあ、イカ」
「昼間なら開いて干しとけば一夜干しになるけど、今回は夜だからこれはできないな。でも、生でも良し、焼いて良し、炊いて良し、何でもできる美味いヤツだからなあ。人気も上がりっぱなしだ」
「待ち遠しい!」
「そういや、イカ焼きって、普通は姿焼きを言うだろ。大阪では、ぺっちゃんこの生地にゲソ入れて焼いたチジミみたいなやつを言うんだぞ。阪神デパートで売ってて、いつも行列だったなあ」
「悠介さん、大阪に行った事あるんですか」
「おう。大阪で勤めてたからな。
見ろよ、航平。きれいな夕日だぞ」
「おお・・・!サンセットクルーズですね」
暮れていく海を、船は走る。
どのくらい走ったのか、船はスピードを緩め、錨を下ろし、集魚灯を点けた。真っ暗な海で、ライトの当たっているところだけが明るく照らされ、小魚が集まってきているのか海面がざわつく。そして、それを狙って鳥が集まって来る。
「さあ、行くぞ!」
「はい!」
戦闘開始だ。
まずはスッテをポチャンと落とし、海底まで落とす。着底したら軽く巻いて浮かし、待つ。そしてあたりがあったら合わせて、巻く。これだけだ。注意すべきとしたら、イカのスミがスッテに付いたら歯ブラシでこすってスミはこまめに落としておく事、糸がもつれないように気を付ける事、このくらいか。
初心者でもやり易い釣りなので、人気らしい。
「ん?何か海面に一杯・・・トビウオだ!」
無数のトビウオが、光の中をジャンプしている。
「ははは。これをやってると、色んなのが来るんだ。この前は、シイラが来たな。その前はエイだったなあ」
「へええ。
あ、船に当たって失神した!」
「タモですくえ!」
「はい!」
ラッキー。
次から次へとイカが釣れる。イカ祭りだ。
やはり皆が爆釣だと、船の雰囲気が明るい。
何か所かポイントを変えて釣り、納竿となった。
「いつの間にか、もう11時だ」
「釣れてる時は、時間の経つのが早いからなあ」
北倉さんは言って、ニヤリとした。
「どうだ、夜遊びの感想は」
僕も、ニヤリとして返す。
「病みつきになりそうですよ」
顔を合わせて、ニヤリ。
有意義な夜遊びだった。
刺身、沖漬け、塩焼き、照り焼き、フライ。
今日釣ったのはスルメイカとヤリイカで、このイカの骨は、正面真ん中に1本通った軟骨だ。胴体の下から軟骨に沿って指を入れながら軟骨を身から外し、足を掴んで引っ張れば、スルリと内蔵ごと抜ける。
「このスミ袋を破らないように取ったら、イカスミパスタとかに使えるぞ。栄養もあるしな。真っ黒になるけど」
小さな袋の中に、黒い液体が入っているのが見えた。
「意外と小さいなあ。あんなにスミを吐くのに」
「あれは、吸い込んだ海水と混ざってるからな」
イカの胴体からエンペラという耳みたいなやつを引っ張って取る。胴体は、筒を開いて1枚の平べったい形にする。
イカの繊維は横に走っている。だから、それを断つように包丁を入れると柔らかい。イカの大きさに合わせて、縦の長さを2つから3つにし、それを、短冊にしていく。
ゲソはしごくように洗って吸盤を洗うと、大きなものは勝手に取れる。それの半分は塩焼きに、半分はたれで照り焼きにする。
胴体を開かずに水溶き小麦粉、パン粉を付けて揚げると、イカリングフライだ。
「いただきます!--おわあ、なんだこれ。甘い。イカの味ってこんな味だったのか」
「仕出し弁当のイカは、味がないもんなあ。くうう!焼酎が、たまらんね!」
男2人の真夜中の宴は、しばらく続いた。
翌日、車で家の近くまで送ってもらった。お土産に、昨日はまだ早すぎて食べられなかった沖漬けもある。
「あれ?里中?何、朝帰り!?」
「あ、遠藤。うん。まあな」
「--!!」
「日曜の朝からバイト?」
「あ、うん。うん。なあ、昨日カラオケパスしたのって・・・」
「フッ。大人の夜遊びってやつ。
じゃあな、明日学校で」
僕はあっけにとられたような顔をした友人を残して、家に入った。
『沖漬け』
醤油、みりん、酒を混ぜたものをチャック付きの袋などに用意しておき、イカ
を釣ったら、生きたまま、そのまま袋に入れていく。調味液を吸って内臓まで
味が染み込み、トロンとするので、丸ごと輪切りにして食べる。
教科書を鞄に詰め込み、上機嫌で帰り支度をする僕に、林間学校以来仲良くなったやつらがニヤニヤと話しかけて来る。
「ご機嫌だなあ、里中」
「金曜だからな、念願の」
「やっぱりな。うん。夏だもんな」
「そうか、わかるか!」
「わかるとも!夏と言えば?」
「キス、タコ、タチウオ、イカ!」
上機嫌で答えたのに、あれ?反応がおかしい・・・。
「いやいや、デートだろ。恋だろ」
鈴木さんと別れたのは春だったなあ。遠い昔みたいな気がする。
「今晩、カラオケ行こうぜ。女子も来るってよ!」
「ああ・・・こんばんは先約があるし、僕はパスな。ありがとうな」
だって今夜は、美人なイカとデートなんだよ!
僕はウキウキと、帰途についた。
今回は、夕方出船して夜中に戻る、イカ釣りだ。北倉さん曰く、「大人の夜遊び」。
イカメタルというのは、スッテという、細長い葉巻みたいな形のものにたくさんの針が放射状に付いたようなものを使って、イカを狙う釣りだ。
「楽しみだなあ、イカ」
「昼間なら開いて干しとけば一夜干しになるけど、今回は夜だからこれはできないな。でも、生でも良し、焼いて良し、炊いて良し、何でもできる美味いヤツだからなあ。人気も上がりっぱなしだ」
「待ち遠しい!」
「そういや、イカ焼きって、普通は姿焼きを言うだろ。大阪では、ぺっちゃんこの生地にゲソ入れて焼いたチジミみたいなやつを言うんだぞ。阪神デパートで売ってて、いつも行列だったなあ」
「悠介さん、大阪に行った事あるんですか」
「おう。大阪で勤めてたからな。
見ろよ、航平。きれいな夕日だぞ」
「おお・・・!サンセットクルーズですね」
暮れていく海を、船は走る。
どのくらい走ったのか、船はスピードを緩め、錨を下ろし、集魚灯を点けた。真っ暗な海で、ライトの当たっているところだけが明るく照らされ、小魚が集まってきているのか海面がざわつく。そして、それを狙って鳥が集まって来る。
「さあ、行くぞ!」
「はい!」
戦闘開始だ。
まずはスッテをポチャンと落とし、海底まで落とす。着底したら軽く巻いて浮かし、待つ。そしてあたりがあったら合わせて、巻く。これだけだ。注意すべきとしたら、イカのスミがスッテに付いたら歯ブラシでこすってスミはこまめに落としておく事、糸がもつれないように気を付ける事、このくらいか。
初心者でもやり易い釣りなので、人気らしい。
「ん?何か海面に一杯・・・トビウオだ!」
無数のトビウオが、光の中をジャンプしている。
「ははは。これをやってると、色んなのが来るんだ。この前は、シイラが来たな。その前はエイだったなあ」
「へええ。
あ、船に当たって失神した!」
「タモですくえ!」
「はい!」
ラッキー。
次から次へとイカが釣れる。イカ祭りだ。
やはり皆が爆釣だと、船の雰囲気が明るい。
何か所かポイントを変えて釣り、納竿となった。
「いつの間にか、もう11時だ」
「釣れてる時は、時間の経つのが早いからなあ」
北倉さんは言って、ニヤリとした。
「どうだ、夜遊びの感想は」
僕も、ニヤリとして返す。
「病みつきになりそうですよ」
顔を合わせて、ニヤリ。
有意義な夜遊びだった。
刺身、沖漬け、塩焼き、照り焼き、フライ。
今日釣ったのはスルメイカとヤリイカで、このイカの骨は、正面真ん中に1本通った軟骨だ。胴体の下から軟骨に沿って指を入れながら軟骨を身から外し、足を掴んで引っ張れば、スルリと内蔵ごと抜ける。
「このスミ袋を破らないように取ったら、イカスミパスタとかに使えるぞ。栄養もあるしな。真っ黒になるけど」
小さな袋の中に、黒い液体が入っているのが見えた。
「意外と小さいなあ。あんなにスミを吐くのに」
「あれは、吸い込んだ海水と混ざってるからな」
イカの胴体からエンペラという耳みたいなやつを引っ張って取る。胴体は、筒を開いて1枚の平べったい形にする。
イカの繊維は横に走っている。だから、それを断つように包丁を入れると柔らかい。イカの大きさに合わせて、縦の長さを2つから3つにし、それを、短冊にしていく。
ゲソはしごくように洗って吸盤を洗うと、大きなものは勝手に取れる。それの半分は塩焼きに、半分はたれで照り焼きにする。
胴体を開かずに水溶き小麦粉、パン粉を付けて揚げると、イカリングフライだ。
「いただきます!--おわあ、なんだこれ。甘い。イカの味ってこんな味だったのか」
「仕出し弁当のイカは、味がないもんなあ。くうう!焼酎が、たまらんね!」
男2人の真夜中の宴は、しばらく続いた。
翌日、車で家の近くまで送ってもらった。お土産に、昨日はまだ早すぎて食べられなかった沖漬けもある。
「あれ?里中?何、朝帰り!?」
「あ、遠藤。うん。まあな」
「--!!」
「日曜の朝からバイト?」
「あ、うん。うん。なあ、昨日カラオケパスしたのって・・・」
「フッ。大人の夜遊びってやつ。
じゃあな、明日学校で」
僕はあっけにとられたような顔をした友人を残して、家に入った。
『沖漬け』
醤油、みりん、酒を混ぜたものをチャック付きの袋などに用意しておき、イカ
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