怪獣が啼く日

JUN

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スーツアクターになれない人

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 スーツアクターは辛い。体力的にも大変だし、重いし、暑いし、臭い。
 それから、場合によっては、どうしても無理な人もいる。
「大丈夫か?」
 ガタガタと青い顔で震える新人に佐原は声をかけた。ガタイが良く、体力自慢という事なので期待したのだが、これでは無理だ。
「徐々に慣れて行く場合もあるけど、まあ、難しいなあ」
 彼はガックリと項垂れた。
「閉所恐怖症にはちょっと無理かなあ」
 そう。たまに、そういう心因的な理由でスーツアクターをあきらめざるを得ない人もいるのだ。
「無理、ですか……」
 彼は強面なのだが子供が好きで、ゆるキャラに入っていれば子供が怖がらないで近付いてくれるはずだと新見プロへバイトの面接に来たのだ。
「スタントとかアクション系のエキストラなんかなら行けそうだけど」
「そう、ですね……」
 彼は考え、
「では、少しずつ慣れるように練習して、出来るようになったらゆるキャラで。それまではエキストラでお願いします」
「わかった」
 新見が頷き、佐原が彼の肩を力づけるように叩いた。

 新人バイトが事務所から帰って行くと、佐原はふうと溜め息をついた。
「体力と体格は申し分がなかったのになあ。惜しい」
「閉所恐怖症はなあ。カウンセリンングでも受けて克服しないと、パニックになったりするからな」
 2人は期せずして、同じ事件を思い出していた。
 この事務所を立ち上げる前、佐原と新見ともう1人、田島という仲間がいた。
 ある日、怪獣に入って撮影をしていたのだが、海に沈んで行くというシーンがあった。そこで、スタジオのプールに着ぐるみを着て沈んで行ったのだが、なかなか上がって来ない。
 慌ててスタッフが引き上げ、どうにか溺死は免れたのだが、それ以来閉所恐怖症になって、スーツに入る事ができなくなり、事務所を退職して田舎に帰った。
 その後何の仕事をしても上手く行かなくて、3年後、自殺した。
 彼の事故を契機に、新見はこの事務所を立ち上げる事を決めた。スーツアクターになれなくても、エキストラやスタントの仕事でやっていけるように。そうしながら、復帰を目指せるように。
 田島には間に合わせてやれなかった。それが新見の最大の後悔だ。
「意外と海賊とか、強面でも行ける上に子供にも人気だしな」
「そうだな。そういう仕事が回って来たら、声をかけよう」
 新見と佐原はそう言い合って、ファイルにそう書き込んだ。






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