柳内警備保障秘書課別室

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オシリスの呼び声(3)思惑

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 どうやら、輸送に使われていたフェリーらしい。
 船内案内図を見付けたので、それで出入口を探すと、1カ所しかなかった。
「絶対に罠が仕掛けてあるけど、出入り口はここしかないみたいだな」
 頭が痛くなるが、仕方がない。時間をかけたら、船ごと沈められかねない。
 湊は走り出した。
 足を踏み下ろしたら外れて落下する階段や、ワイヤートラップなどという罠をカンを頼りに回避していく。
 それを、船内に仕掛けられたカメラから、オシリス達は見ていた。
「あれに気付くかぁ」
「相変わらず、いいカンしてるなあ」
 感心しながら、見物している。
「警察がそろそろ来るんじゃないのか、オシリス」
 言われ、オシリスは頷いた。
「ああ。もう、出るか」
「あらあ。勝手に時間を繰り上げて、カナリアもかわいそうに」
「文句は公安に言って欲しいなあ」
 それに、幹部の1人が苦笑した。
「本当に、オシリスはカナリアを可愛がってるのかどうかわからないな」
「かわいいさ。俺は、俺の役に立ってくれる子がかわいいんだよ」
 オシリスはそう言って、にっこりと笑った。
 飛び越え、回り道をし、飛び降りる。
 とんだ障害物競争だと、湊は閉口していた。
「ふんぞり返って見物してるんだろ。いい趣味だな」
 カメラに向かって悪態をつく。
 見ていたオシリスは、笑って、冷たいコーラのビンを掲げた。

 湊は、カンと記憶した案内図に沿って出入り口を目指していた。
 と、足元からゴオンと振動が伝わる。エンジンが動き出したらしい。
「急げって事か」
 一層、スピードを上げなくてはならないらしい。
 しかし、傷が入って曇った強化ガラスの窓から外を見た時、湊は間に合わないかも知れないと思った。公安らしき人達が、船に近付いて来ている。
 どうやら出航は、彼らから逃げ出すためか、彼らをここへ誘い込んで、沖合で船ごと沈めるかするためだろう。
 走りながらそう考えた湊だが、出入り口の前に最後の障害がある事がわかった。
 しかし、どのルートを通ろうとも、ここは避けられない。
 せめて面倒臭くないものがいいと思いながら近付いた湊は、溜め息をついた。
「そんな優しくないよな」
 そこには、オシリスの幹部の1人がにこにことしながら立っていた。
「ハイ、カナリア」
 彼は近接戦闘のスペシャリストだ。素手がすでに凶器である。
 昔、遊び半分に色んな訓練をさせられた時、彼の訓練も受けた。勿論、手も足も出なかった。
「やろうか。おいで」
 当時と同じように、片手で、来い、と手招きする。
 湊は溜め息をついた。

 湊がそのフェリーに連れ込まれた事もわかっているが、それよりも重要なのは、そこにオシリスとその側近がいるという事実だった。
 神出鬼没で、逃げるのも鮮やか。昔1度だけバリ島で軍によって追い詰めた事があったが、湊を爆弾に括りつけるという時間稼ぎで逃げ切られた。
 時限爆弾に括りつけられ、逃げられない子供だ。それを放って、避難する事もオシリスを追う事もできるわけがない。
「今度は逃がさない」
 西條は、ぎらつく目で呟いた。
 公安部員だけを急行させているし、船の中という密室だ。もしもの場合、優先するのはオシリスの確保だと命令している。
 湊が不幸な事になったら、「長年警護を続けて来た我々としても非常に残念です」と、しゃあしゃあと言うつもりだ。
「終わりだ」
 成功を確信した時、現場から知らせが入った。
『船のエンジンがかかりました』
「逃がすな」
『はい――あ。
 拉致された篠杜 湊が、オシリスの仲間と向かい合っているのが見えました』
「やっぱり仲間か」
『いえ、脱出しようとするのを、捕獲しようと――』
「篠杜 湊は、オシリスの協力者だった」
『……』
「生死はどうでもいい。オシリスさえ逮捕できれば」
『……了解しました』

 錦織以下別室のメンバーは、難しい顔で集まっていた。
 田中に、盗聴機を取り付けていたのだ。
 まあ、錦織に言わせれば、毎日部屋に仕掛けられているのだから、たまにはこちらがやっても文句を言われる筋合いはない、という事だ。
「どうしましょう、室長」
 悠花がオロオロとするのに、雅美が据わった目で言った。
「私が乗り込みます」
「待って、雅美さん。どこからどうやって?」
 涼真が訊くと、
「正面突破です」
「無理です」
 清々しい答えだが、無理そうだ。
「まあ、皆さん落ち着いて」
 錦織は、柔和な顔で言う。
「公安を船内に入れる前に出航してしまおうという考えでしょう。そして、湊君の下船を阻止するための手が打たれているのかと。出航そのものは阻止できそうにありません」
「そんな、湊を助けられないんですか」
 涼真が困ったように言う。
「それは困りますね」
 錦織は、どこかに電話をかけ始めた。

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