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こじらせた人達
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エマはことあるごとに突っかかって来るが、それを迎え討つのはいつもカイだ。なのでカイとエマは、目が合えば言い合い、腕が当たれば張り合うのが日課だ。
それが当たり前になり過ぎて、誰も止めるどころか、気にも留めない。
今日も
「私と同じペンを使わないで」
「誰がお前のマネだ。これはオレが高等学校に入った頃から使ってるものだ」
「私は4年前ですぅ」
などとどうでもいい事で言い合い、フンと仲良くそっぽを向き合うといういつもの儀式を行った。
そんなカイに、ユーリとジンが呆れたような目を向ける。
「お疲れさん。
でも、カイ。これじゃ伝わらないと思うけどな」
「そうだよ。好きならそれなりにアプローチしないとねえ」
「バ!バカな事を!なな何で……何でわかった?」
カイは小声で、真っ赤になりながら訊いた。
「そりゃあなあ」
「うん。学校で、カイは気になった子ほどからかったり素っ気なくしてたもんねえ」
ユーリとジンが言い、カイは狼狽えた。
「バレてたのか?え、何で?」
「あれでバレてないと思う方がおかしいよねえ」
ジンが言うのにユーリが頷く。
「エマって、どんな時でも、ライラとユンをかばって立ち向かって行くだろ。いつも前向きだし」
カイはそう言うと顔を覆って、しゃがみ込んだ。
ライラとユンと一緒に離れてったエマは、
「はあ、全く」
と息をついた。
そんなエマに、ライラが言った。
「エマ。それじゃいつまでもあなたは独身よ」
エマは言葉も出ず、真っ赤になって口をパクパクさせた。
ユンはうんうんと頷く。
「子供レベル」
「嫌われてると、普通の人なら思うわね」
「エマ。素直になった方がいいわよ」
エマは顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「恥ずかしい」
「おお。エマが乙女になったわ、ユン」
「天変地異の前触れかも」
「あんた達ねえ!?」
エマはガバッと立ち上がって文句を言い、ライラとユンがキャアと笑って逃げた。
マシスは反省室でじっと座って、拳を握りしめていた。
何の不自由もなく、商会を継ぐのはお前だと言われて大事に育てられて来た。
それが突然、商会が立ち行かなくなり、借金取りが現れ、幸せは壊れた。父親は首をくくり、母親は気がふれて笑いながら高い建物の上から飛び、愛人とその娘はさっさと逃げ、マシスは借金のカタに銀花楼に売られた。
遊妓となる事に了承はしたが、どうせ大した仕事ではないだろうと思っていたので、想像と違っていたからやめたいと言ったらダメだと言われた。当然だが、甘やかされて来たマシスには受け入れられない事だった。
なので逃げ出そうとしたので、男衆に捕まらえ、反省室へ入れられた。
反省室は座るのがやっとの小さい部屋で、水と塩だけで、した事に応じた日数閉じ込められるのだ。
それで仕方なくどうにか我慢してやっていたが、知人が客として来た事で、我慢ができなくなった。いつもグズで頭が悪いと言ってバカにしていた男が、客としてマシスを買った事で、逃げ出したのだ。
当然すぐに男衆に捕まって、こうして反省室行きになっているのである。
(あんなヤツをご主人様と呼んで、笑って相手するなんて。絶対に嫌だ。
何で僕がこんな目に合わなくちゃいけないんだ)
我が身を嘆いても、どうにもならない。20年働くか、20年働いて得られるはずだった代金をどうにか作って自分で自分を解放するか。
しかしマシスには、そのどちらも無理なように思えた。
「マシス、反省したか」
男衆とカリムが鉄格子の前に立つ。
「……すみませんでした」
一応殊勝に頭を下げる。
「まあ、相手が知り合いで、以前のいじめの意趣返しをしたいと考えているような客だったからねえ。その点は考慮はした。でも、ここに来た以上は、お前はこれまでとは別人、遊妓なんだよ。切り替えてプロらしさを見せてもらうよ」
マシスは、ぎり、と唇を噛んだ。
「てて様。セレムの遊妓は、気に入らない客は断れると聞いた事がありますが」
それに、カリムは小さく頷いた。
「確かに。でもそれは、太夫格だけの事。それ以下の身分でそれは許されない」
マシスは憤懣をどうにか押し殺し、
「そうですか。以後、気を付けます」
とどうにか言った。
「いつまでもこういうことを繰り返すなら、もっと下級の店に転売する事になる。そうなれば、扱いはこんなもんじゃない。それを頭に入れておきなさい」
そう言って男衆に合図し、鍵が開けられて、マシスは反省室から出た。
座りっぱなしだったせいで、体中が痛いし、上手く歩けない。
マシスは、イライラする気持ちをどこにぶつければいいのかと思いながら自室へ向かい、途中でその光景を見た。
レイリとジルラとユーリとカイとジンが、笑いながら裏庭で何か魔道具の実験をしていた。
ユーリがこの銀花楼の子だというのは聞いていた。禿となる直前に魔術の才能に目覚め、魔術師として生きる事を許されている事も。
(同じ囚われた身の上のはずなのに、何であいつは。何で僕は魔術士じゃないんだ。
あいつも、同じになればいいのに)
マシスは昏い目を向けながら、そう祈った。
それが当たり前になり過ぎて、誰も止めるどころか、気にも留めない。
今日も
「私と同じペンを使わないで」
「誰がお前のマネだ。これはオレが高等学校に入った頃から使ってるものだ」
「私は4年前ですぅ」
などとどうでもいい事で言い合い、フンと仲良くそっぽを向き合うといういつもの儀式を行った。
そんなカイに、ユーリとジンが呆れたような目を向ける。
「お疲れさん。
でも、カイ。これじゃ伝わらないと思うけどな」
「そうだよ。好きならそれなりにアプローチしないとねえ」
「バ!バカな事を!なな何で……何でわかった?」
カイは小声で、真っ赤になりながら訊いた。
「そりゃあなあ」
「うん。学校で、カイは気になった子ほどからかったり素っ気なくしてたもんねえ」
ユーリとジンが言い、カイは狼狽えた。
「バレてたのか?え、何で?」
「あれでバレてないと思う方がおかしいよねえ」
ジンが言うのにユーリが頷く。
「エマって、どんな時でも、ライラとユンをかばって立ち向かって行くだろ。いつも前向きだし」
カイはそう言うと顔を覆って、しゃがみ込んだ。
ライラとユンと一緒に離れてったエマは、
「はあ、全く」
と息をついた。
そんなエマに、ライラが言った。
「エマ。それじゃいつまでもあなたは独身よ」
エマは言葉も出ず、真っ赤になって口をパクパクさせた。
ユンはうんうんと頷く。
「子供レベル」
「嫌われてると、普通の人なら思うわね」
「エマ。素直になった方がいいわよ」
エマは顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「恥ずかしい」
「おお。エマが乙女になったわ、ユン」
「天変地異の前触れかも」
「あんた達ねえ!?」
エマはガバッと立ち上がって文句を言い、ライラとユンがキャアと笑って逃げた。
マシスは反省室でじっと座って、拳を握りしめていた。
何の不自由もなく、商会を継ぐのはお前だと言われて大事に育てられて来た。
それが突然、商会が立ち行かなくなり、借金取りが現れ、幸せは壊れた。父親は首をくくり、母親は気がふれて笑いながら高い建物の上から飛び、愛人とその娘はさっさと逃げ、マシスは借金のカタに銀花楼に売られた。
遊妓となる事に了承はしたが、どうせ大した仕事ではないだろうと思っていたので、想像と違っていたからやめたいと言ったらダメだと言われた。当然だが、甘やかされて来たマシスには受け入れられない事だった。
なので逃げ出そうとしたので、男衆に捕まらえ、反省室へ入れられた。
反省室は座るのがやっとの小さい部屋で、水と塩だけで、した事に応じた日数閉じ込められるのだ。
それで仕方なくどうにか我慢してやっていたが、知人が客として来た事で、我慢ができなくなった。いつもグズで頭が悪いと言ってバカにしていた男が、客としてマシスを買った事で、逃げ出したのだ。
当然すぐに男衆に捕まって、こうして反省室行きになっているのである。
(あんなヤツをご主人様と呼んで、笑って相手するなんて。絶対に嫌だ。
何で僕がこんな目に合わなくちゃいけないんだ)
我が身を嘆いても、どうにもならない。20年働くか、20年働いて得られるはずだった代金をどうにか作って自分で自分を解放するか。
しかしマシスには、そのどちらも無理なように思えた。
「マシス、反省したか」
男衆とカリムが鉄格子の前に立つ。
「……すみませんでした」
一応殊勝に頭を下げる。
「まあ、相手が知り合いで、以前のいじめの意趣返しをしたいと考えているような客だったからねえ。その点は考慮はした。でも、ここに来た以上は、お前はこれまでとは別人、遊妓なんだよ。切り替えてプロらしさを見せてもらうよ」
マシスは、ぎり、と唇を噛んだ。
「てて様。セレムの遊妓は、気に入らない客は断れると聞いた事がありますが」
それに、カリムは小さく頷いた。
「確かに。でもそれは、太夫格だけの事。それ以下の身分でそれは許されない」
マシスは憤懣をどうにか押し殺し、
「そうですか。以後、気を付けます」
とどうにか言った。
「いつまでもこういうことを繰り返すなら、もっと下級の店に転売する事になる。そうなれば、扱いはこんなもんじゃない。それを頭に入れておきなさい」
そう言って男衆に合図し、鍵が開けられて、マシスは反省室から出た。
座りっぱなしだったせいで、体中が痛いし、上手く歩けない。
マシスは、イライラする気持ちをどこにぶつければいいのかと思いながら自室へ向かい、途中でその光景を見た。
レイリとジルラとユーリとカイとジンが、笑いながら裏庭で何か魔道具の実験をしていた。
ユーリがこの銀花楼の子だというのは聞いていた。禿となる直前に魔術の才能に目覚め、魔術師として生きる事を許されている事も。
(同じ囚われた身の上のはずなのに、何であいつは。何で僕は魔術士じゃないんだ。
あいつも、同じになればいいのに)
マシスは昏い目を向けながら、そう祈った。
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