33 / 90
イリーナ・セエトの子
しおりを挟む
テーブルを囲んでユーリとカイとジンが自己紹介すると、ルルシャは
「銀月さんですか!お話は先輩から伺いました。よろしくお願いします」
とにこやかに言って、上品な仕草で紅茶を飲んだ。
そこで、魔物の話や銀花楼の話、この間の騒動の話などをしていたが、やはりイリーナの話になった。
「知らなかったよ、ニキータさんがイリーナの弟だったなんて」
ユーリはそう言い、ニキータはぎこちなく笑った。
「まあ、宣伝するような事ではないからな」
「でも、あのイリーナ様の杖を拝見できて、感激しました。やっぱりイリーナ様は、女性、いえ全国民の憧れですもの。ましてや、たとえわずかにしろ魔術に関わる者なら、崇拝の対象です」
ルルシャがどこか危ない目付きで言い、ユーリ、カイ、ジンはやや後ろに下がって小声でかわした。
「この人大丈夫か?」
「色んな人が世の中にはいるんだよ、カイ」
「暖かく見守ってあげようね、ボクらに被害がないなら」
するとルルシャは、突然真顔になって、言い出した。
「イリーナ教の信者である私です。関係する事は調べ上げました」
「この人イリーナ教って言ったぜ。信者って認めたぜ」
「お腹のお子の父親は誰なのか」
カイの言葉を無視してルルシャが言うと、ミリアが息を詰めた。
「イリーナ様の子お子はどこへ行ってしまったのか。そして、イリーナ様は本当に心臓発作だったのか」
ニキータのカップを持つ手に力が入った。
「当時、父親の予想としましては、同僚、団長、辺境伯の息子などが上がっておりましたが、皇帝陛下というのがございました。
だからイリーナ様は、おいそれと父親の名を明かさなかったのではないか。私もそう思います。
そうなると、イリーナ様は皇妃の誰かの命を受けた者に殺された可能性がありますし、お子も殺されたのかも知れない――いえ、皇帝陛下のお血を引かれるなら、殺すのはためらわれる。そうなれば、ご落胤です。不文律に従い、このセレムで遊妓として過ごすように、送られたのかも知れません」
誰もが、言葉もなく聞いていた。
セレムという、まさにここの話だ。そしてその通りなら、
「現在は18歳かな」
「いえ、命日が過ぎたので、19歳でしょう」
ニキータとミリアは言葉を発する事無く、無表情を保っていた。その横で、ユーリ達はああだこうだと考える。
「ユーリ、該当するやつっているのか?」
カイが勢い込んで聞けばルルシャも身を乗り出すようにして返事を待つ。
「18や19と言えば、俺と同じくらいだからなあ。銀花楼だとジルラ、フルイエ。ほかの見世に、ナナセとゲイリーがいるな」
ユーリが思い出しながら言うと、ジンがううんと唸る。
「フルイエは目の色が陛下と同じ緑だね。ジルラは、言われてみれば鼻と口許がイリーナに似てるかな?」
「そんなにじっくりと、比べる気になって見た事ないからなあ」
ユーリも当惑気に言うと、ミリアが笑いながら割って入った。
「はいはい。そうと決まったわけじゃないし、もしそうなら、ご落胤が誰か詮索するのはまずいんじゃないの?」
それで全員が、
(そうだった。隠すためにセレムにやるのに、探してどうするんだ)
と思い至った。
ルルシャは咳払いをして、切り替えた。
「それはそうと、ニキータさんは皇都でも名高い武具職人だったのに、どうしてセレムへ?」
「セレムは迷宮に一番近い街だからな。皇都よりもここの方が何かといんじゃないかと思ったんだ。私自身の向上のためにも」
「そうなんですか」
柔らかくニキータがそう言って返すと、ルルシャは笑い返して、
「やっぱり、魔物の最前線って感じですか」
と言う。
「俺達としても、ニキータさんが近くにいてくれるのは、凄くありがたいよな」
ユーリが言い、カイとジンが頷く。
「ああ。研ぎひとつにしても、違うからな」
「このトゥヤルザ帝国の最前線と言えば迷宮と魔の森だけど、ニキータさんがセレムに来てくれたのはラッキーだったよね」
「ははは。だからって、無茶な戦い方をするんじゃないぞ。武具は修理できても、人間はそうはいかないんだからな」
ニキータに笑って言われ、ユーリ達は素直に
「はあい」
と返事した。
そしてそろそろとユーリ達とルルシャが一緒に帰って行くと、ニキータとミリアはそれを見送り、見えなくなったところで微笑みを陰らせた。
「あのルルシャって子、悪い子ではないんでしょうけど……」
「ああ。でも、要注意だな」
この平穏が続く事。それだけをニキータとミリアは祈った。
「銀月さんですか!お話は先輩から伺いました。よろしくお願いします」
とにこやかに言って、上品な仕草で紅茶を飲んだ。
そこで、魔物の話や銀花楼の話、この間の騒動の話などをしていたが、やはりイリーナの話になった。
「知らなかったよ、ニキータさんがイリーナの弟だったなんて」
ユーリはそう言い、ニキータはぎこちなく笑った。
「まあ、宣伝するような事ではないからな」
「でも、あのイリーナ様の杖を拝見できて、感激しました。やっぱりイリーナ様は、女性、いえ全国民の憧れですもの。ましてや、たとえわずかにしろ魔術に関わる者なら、崇拝の対象です」
ルルシャがどこか危ない目付きで言い、ユーリ、カイ、ジンはやや後ろに下がって小声でかわした。
「この人大丈夫か?」
「色んな人が世の中にはいるんだよ、カイ」
「暖かく見守ってあげようね、ボクらに被害がないなら」
するとルルシャは、突然真顔になって、言い出した。
「イリーナ教の信者である私です。関係する事は調べ上げました」
「この人イリーナ教って言ったぜ。信者って認めたぜ」
「お腹のお子の父親は誰なのか」
カイの言葉を無視してルルシャが言うと、ミリアが息を詰めた。
「イリーナ様の子お子はどこへ行ってしまったのか。そして、イリーナ様は本当に心臓発作だったのか」
ニキータのカップを持つ手に力が入った。
「当時、父親の予想としましては、同僚、団長、辺境伯の息子などが上がっておりましたが、皇帝陛下というのがございました。
だからイリーナ様は、おいそれと父親の名を明かさなかったのではないか。私もそう思います。
そうなると、イリーナ様は皇妃の誰かの命を受けた者に殺された可能性がありますし、お子も殺されたのかも知れない――いえ、皇帝陛下のお血を引かれるなら、殺すのはためらわれる。そうなれば、ご落胤です。不文律に従い、このセレムで遊妓として過ごすように、送られたのかも知れません」
誰もが、言葉もなく聞いていた。
セレムという、まさにここの話だ。そしてその通りなら、
「現在は18歳かな」
「いえ、命日が過ぎたので、19歳でしょう」
ニキータとミリアは言葉を発する事無く、無表情を保っていた。その横で、ユーリ達はああだこうだと考える。
「ユーリ、該当するやつっているのか?」
カイが勢い込んで聞けばルルシャも身を乗り出すようにして返事を待つ。
「18や19と言えば、俺と同じくらいだからなあ。銀花楼だとジルラ、フルイエ。ほかの見世に、ナナセとゲイリーがいるな」
ユーリが思い出しながら言うと、ジンがううんと唸る。
「フルイエは目の色が陛下と同じ緑だね。ジルラは、言われてみれば鼻と口許がイリーナに似てるかな?」
「そんなにじっくりと、比べる気になって見た事ないからなあ」
ユーリも当惑気に言うと、ミリアが笑いながら割って入った。
「はいはい。そうと決まったわけじゃないし、もしそうなら、ご落胤が誰か詮索するのはまずいんじゃないの?」
それで全員が、
(そうだった。隠すためにセレムにやるのに、探してどうするんだ)
と思い至った。
ルルシャは咳払いをして、切り替えた。
「それはそうと、ニキータさんは皇都でも名高い武具職人だったのに、どうしてセレムへ?」
「セレムは迷宮に一番近い街だからな。皇都よりもここの方が何かといんじゃないかと思ったんだ。私自身の向上のためにも」
「そうなんですか」
柔らかくニキータがそう言って返すと、ルルシャは笑い返して、
「やっぱり、魔物の最前線って感じですか」
と言う。
「俺達としても、ニキータさんが近くにいてくれるのは、凄くありがたいよな」
ユーリが言い、カイとジンが頷く。
「ああ。研ぎひとつにしても、違うからな」
「このトゥヤルザ帝国の最前線と言えば迷宮と魔の森だけど、ニキータさんがセレムに来てくれたのはラッキーだったよね」
「ははは。だからって、無茶な戦い方をするんじゃないぞ。武具は修理できても、人間はそうはいかないんだからな」
ニキータに笑って言われ、ユーリ達は素直に
「はあい」
と返事した。
そしてそろそろとユーリ達とルルシャが一緒に帰って行くと、ニキータとミリアはそれを見送り、見えなくなったところで微笑みを陰らせた。
「あのルルシャって子、悪い子ではないんでしょうけど……」
「ああ。でも、要注意だな」
この平穏が続く事。それだけをニキータとミリアは祈った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
ほんの少しの仕返し
turarin
恋愛
公爵夫人のアリーは気づいてしまった。夫のイディオンが、離婚して戻ってきた従姉妹フリンと恋をしていることを。
アリーの実家クレバー侯爵家は、王国一の商会を経営している。その財力を頼られての政略結婚であった。
アリーは皇太子マークと幼なじみであり、マークには皇太子妃にと求められていたが、クレバー侯爵家の影響力が大きくなることを恐れた国王が認めなかった。
皇太子妃教育まで終えている、優秀なアリーは、陰に日向にイディオンを支えてきたが、真実を知って、怒りに震えた。侯爵家からの離縁は難しい。
ならば、周りから、離縁を勧めてもらいましょう。日々、ちょっとずつ、仕返ししていけばいいのです。
もうすぐです。
さようなら、イディオン
たくさんのお気に入りや♥ありがとうございます。感激しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる