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友来る
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キリーはドキドキするのを押し隠して平静を装っていたが、そんなキリーに次々と笑顔と声が向けられる。
「お茶をどうぞ」
「このタルトは迷宮産のフルーツと、牛の魔物のミルクを使って作っていますのよ」
「暑かったでしょう。まだ発売前の扇風機もありますよ」
きれいな男や女が、にこにことしてキリーにサービスしてくれる。
「ど、どうも恐れ入ります」
キリーが言うと、目の前にいた美女が、おっとりと上品に笑った。
「まあ、楽になさって」
銀花楼の女太夫の頂点であるラライエを前にして、こういう所に免疫のない初心者に緊張するなというのは難しい。
「そうだよ。ユーリの友達なんだし、僕達は、お兄ちゃんお姉ちゃんだと思ってくれていいよ」
男太夫の頂点を務めるレイリがにっこりとして言うが、同じ男ですら見ほれる美形だ。そうあっさりとお兄ちゃんとは呼べない。
「はい、その、ありがとうございます」
キリーは固い笑顔を浮べ、
(早く帰って来い!)
と念じた。
そこに、能天気そうな声がした。
「ただいまあ」
「今日は殺人蜂の駆除をして来たから、はちみつが採れたんだよ。お土産」
「はあ、冷たい水が生き返るぜ。ありがとう、フルイエちゃん」
ユーリ、ジン、カイの声に、キリーは立ち上がった。
「おい!」
それに、ユーリ達がキリーの方を見た。
「あ、キリー。久しぶりだねえ」
「給料でぱあっと遊びに来たのかよ。もしかして、初めてだったり?」
キリーのこめかみに青筋が浮かんだ。
「冗談だよ、キリー。
えっと、もう経験済み、なのかな?」
「お前らそこに座れ!正座!」
ユーリ、カイ、ジンに向かって、キリーは怒鳴り声を張り上げた。
キリーはドラゴンの卵持ち込み未遂事件について調べており、その為にここに来たのである。
「冗談だって。嫌だなあ」
ジンは笑って、キリーに花の香りのするお茶のお代わりを注いだ。
どうにかユーリ達はキリーの怒りを解き、銀月の離れに来ていた。
「調べた結果だ。
まず、あの場に居合わせた避難民は、その時の事を喋らないようにと、口止めされていた。スレードとモルドの家、それにナジムの名前で脅しをかけられればな。口を閉ざさざるを得ないだろうな。
魔術団の団員達は、あの場で見聞きしたことをオフレコでは教えてくれたが、喋るなという団長やナジム達の命令には逆らえないそうだ。まあ、この先の事を考えると怖いだろうな」
キリーが言うと、わかってはいたが、カイもジンも落胆した。
「なんだよお。使えねえな」
「はあ?何と言った、貴様」
「まあまあ。予測通りだけど悔しいよね」
「まあな。諦めはつくけど、愉快ではないな」
キリーは唇を引き上げるようにして笑った。
「フン。これだけなら、直後と状況は同じだろうが。それでわざわざ、私が来ると思ってるのか?
ナジム達は紋章の付いていない馬車を使って山の中腹までいったらしいが、乗り降りするところを見た者や、途中で休憩することろを見た者がいた。『殿下』『流石はナジム殿下』と、何度も言っているのを覚えていたよ。
後、お前ら、イノシシを鼻歌を歌いながら仕留めて、しりとりをしながら解体してたそうだな」
それに、ユーリ、カイ、ジンが少し考え、ああ、と手を打った。
「そうだった、そうだった」
「それを、見たやつが見付かった」
それにバッと食いついた。
「え!?どうやって!?そもそも何であんな所に!?」
勢い込んで訊くのに、キリーが答える。
「家出しようとして、そこに居合わせたらしい。探索者になりたいというのを反対されていたそうだよ。
で、お前らのしている事を見て、『やっぱり無理』と思って家出を断念したらしい。大人しく家に帰って、恥ずかしいから誰にも言えずにいたとか」
それを聞いて、ジンは申し訳なさそうな顔をしたが、カイは大喜びし、ユーリはふと気付いた。
「その子はどうしてそれを話してくれたんだ?」
「ああ。その子は探索者でなく料理人になろうと思い直して皇都のレストランに就職。歓迎会に居合わせたんだけど、酔って、志望動機を聞かれて、喋ったんだよ。
いやあ、変わった杖といい、お前らが呼び合ってた名前も覚えていてくれて、助かったな」
ユーリ達は手を取り合って喜んだ。
「よっし!」
「ナジムの野郎達にギャフンと言わせてやれるぜ!」
「やっぱり神はいるんだね!」
「キリー、ありがとうな」
「なあに」
キリーは照れて咳払いをすると、ユーリ制作の収納バッグから封筒を取り出した。
「で、改めて事件について吟味される事になったので、召喚状を預かって来た。
前回はナジムに都合のいい一部の人間でバタバタと決めたが、本来は大事件だ。皇帝陛下や大臣も列席する本格的なものになるし、欠席は許されない」
そこで皆の目はその封筒に向けられたが、ユーリはボソリと言った。
「何か、面倒臭いな」
「お茶をどうぞ」
「このタルトは迷宮産のフルーツと、牛の魔物のミルクを使って作っていますのよ」
「暑かったでしょう。まだ発売前の扇風機もありますよ」
きれいな男や女が、にこにことしてキリーにサービスしてくれる。
「ど、どうも恐れ入ります」
キリーが言うと、目の前にいた美女が、おっとりと上品に笑った。
「まあ、楽になさって」
銀花楼の女太夫の頂点であるラライエを前にして、こういう所に免疫のない初心者に緊張するなというのは難しい。
「そうだよ。ユーリの友達なんだし、僕達は、お兄ちゃんお姉ちゃんだと思ってくれていいよ」
男太夫の頂点を務めるレイリがにっこりとして言うが、同じ男ですら見ほれる美形だ。そうあっさりとお兄ちゃんとは呼べない。
「はい、その、ありがとうございます」
キリーは固い笑顔を浮べ、
(早く帰って来い!)
と念じた。
そこに、能天気そうな声がした。
「ただいまあ」
「今日は殺人蜂の駆除をして来たから、はちみつが採れたんだよ。お土産」
「はあ、冷たい水が生き返るぜ。ありがとう、フルイエちゃん」
ユーリ、ジン、カイの声に、キリーは立ち上がった。
「おい!」
それに、ユーリ達がキリーの方を見た。
「あ、キリー。久しぶりだねえ」
「給料でぱあっと遊びに来たのかよ。もしかして、初めてだったり?」
キリーのこめかみに青筋が浮かんだ。
「冗談だよ、キリー。
えっと、もう経験済み、なのかな?」
「お前らそこに座れ!正座!」
ユーリ、カイ、ジンに向かって、キリーは怒鳴り声を張り上げた。
キリーはドラゴンの卵持ち込み未遂事件について調べており、その為にここに来たのである。
「冗談だって。嫌だなあ」
ジンは笑って、キリーに花の香りのするお茶のお代わりを注いだ。
どうにかユーリ達はキリーの怒りを解き、銀月の離れに来ていた。
「調べた結果だ。
まず、あの場に居合わせた避難民は、その時の事を喋らないようにと、口止めされていた。スレードとモルドの家、それにナジムの名前で脅しをかけられればな。口を閉ざさざるを得ないだろうな。
魔術団の団員達は、あの場で見聞きしたことをオフレコでは教えてくれたが、喋るなという団長やナジム達の命令には逆らえないそうだ。まあ、この先の事を考えると怖いだろうな」
キリーが言うと、わかってはいたが、カイもジンも落胆した。
「なんだよお。使えねえな」
「はあ?何と言った、貴様」
「まあまあ。予測通りだけど悔しいよね」
「まあな。諦めはつくけど、愉快ではないな」
キリーは唇を引き上げるようにして笑った。
「フン。これだけなら、直後と状況は同じだろうが。それでわざわざ、私が来ると思ってるのか?
ナジム達は紋章の付いていない馬車を使って山の中腹までいったらしいが、乗り降りするところを見た者や、途中で休憩することろを見た者がいた。『殿下』『流石はナジム殿下』と、何度も言っているのを覚えていたよ。
後、お前ら、イノシシを鼻歌を歌いながら仕留めて、しりとりをしながら解体してたそうだな」
それに、ユーリ、カイ、ジンが少し考え、ああ、と手を打った。
「そうだった、そうだった」
「それを、見たやつが見付かった」
それにバッと食いついた。
「え!?どうやって!?そもそも何であんな所に!?」
勢い込んで訊くのに、キリーが答える。
「家出しようとして、そこに居合わせたらしい。探索者になりたいというのを反対されていたそうだよ。
で、お前らのしている事を見て、『やっぱり無理』と思って家出を断念したらしい。大人しく家に帰って、恥ずかしいから誰にも言えずにいたとか」
それを聞いて、ジンは申し訳なさそうな顔をしたが、カイは大喜びし、ユーリはふと気付いた。
「その子はどうしてそれを話してくれたんだ?」
「ああ。その子は探索者でなく料理人になろうと思い直して皇都のレストランに就職。歓迎会に居合わせたんだけど、酔って、志望動機を聞かれて、喋ったんだよ。
いやあ、変わった杖といい、お前らが呼び合ってた名前も覚えていてくれて、助かったな」
ユーリ達は手を取り合って喜んだ。
「よっし!」
「ナジムの野郎達にギャフンと言わせてやれるぜ!」
「やっぱり神はいるんだね!」
「キリー、ありがとうな」
「なあに」
キリーは照れて咳払いをすると、ユーリ制作の収納バッグから封筒を取り出した。
「で、改めて事件について吟味される事になったので、召喚状を預かって来た。
前回はナジムに都合のいい一部の人間でバタバタと決めたが、本来は大事件だ。皇帝陛下や大臣も列席する本格的なものになるし、欠席は許されない」
そこで皆の目はその封筒に向けられたが、ユーリはボソリと言った。
「何か、面倒臭いな」
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