殿様の隠密

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化け猫騒動(4)探索

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 栄太を見張りだして、二日経った。
 漁から戻り、魚の入ったかごを検漁所に持って行くと、若い漁村の子供たちが船に登って掃除を始め、女たちは漁具を洗い始めた。
 検漁所では役人が規定の魚をピックアップして帳面に記載し、それ以外の小物や外道と呼ばれる安い魚を漁師に返す。
 栄太はそれを受け取って戻っていくと、うろこを引いて内臓を出して開いたものを干したり、残りのものを待っていた魚屋に見せて値段の交渉をする。
 怪しいところはない。どの漁師も同じ事をしている。
 それでも我慢比べだと思って見張っていると、栄太は漁具の手入れや雑用を終え、どこかへ出かける様子を見せた。
「お。今日はどこかへ出かけるみたいだぜ」
「真っ昼間だし、博打はないな」
 啓三郎と与四郎は頷きあい、そっと栄太の後をつけ始めた。
 栄太は足早に歩いて行き、笹屋の勝手口に近寄った。
 すぐに勝手口に女中が現れて奥に引っ込んだら、しばらくして今度は大番頭が出てきた。そして何か短く言い交わすと、頷きあってぱっとお互いに踵を返した。
「何かあるぜ、与四郎。どっちを見張る?」
「両方だ、啓三郎」
「よし。じゃあ俺は栄太をつけるぜ」
 啓三郎はすぐにそこから歩き出していた栄太を追い、与四郎はその場で引き続き店を見張ることになった。

 何も起こらないまま、時が過ぎる。
 今宵は月が無く、辺りは真っ暗だ。木戸の閉まる時間も近づいてきた。
 その時店の裏口が開いて、与四郎ははっと身を固くした。
 見ていると、出てきたのは大番頭なのだが、辺りをきょろきょろと窺い、人目がないことを確認してから出てきた。
 その手には長い棒と徳利のようなものが抱えられている。
 そしてせかせかとした足取りで歩きはじめ、与四郎もその後を、気付かれないようについて行った。
 やがて大番頭は、そこにたどり着いた。与四郎の予想通り、墓地である。
 真ん中辺りに何かを置くと、大番頭は木々の生い茂る方へと進み、闇と木々の間に姿を潜める。
 与四郎がそこから離れた場所で身を潜めていると、その大番頭が置いた物の周りに猫が集まりだしたのか声がした。
「にゃああおお」
「みゃあああ」
 またたびに酔ったらしい。
 続いて、今度は人の声がする。
「うわあ。お使いから帰るのが遅くなっちゃったよう」
 商家の小僧だ。夕刻になってから、どこかに遣いに出されるのをそう言えば見たと、与四郎は思いだした。
 墓地の横を、墓地の中を見ないようにして通り過ぎようとするのが見える。
 が、その小僧の足が止まって、震えるような声がした。
「ば、化け猫……本当にいた!?」
 またたびに酔った猫の声がうるさいほど聞こえる。
 次いで、
「ひっ!?」
と小僧は声を上げ、よろよろと後ずさった。
 与四郎が大番頭の潜んだ木々の方を見ると、ぼうっとした火の玉のようなものが浮かんで揺れているのが見える。
「お化けが出たあ!」
 小僧は絞め殺されたような声を上げて、脱兎の如く駆け出した。
 与四郎はそれを
(なんと足の速い)
と感心しながら見送った。
 と、木々の影から人影が出てくる。大番頭だ。長い棒を手にしており、その先には火の玉がぶら下がって揺れていた。
 それを確認すると、与四郎は心の中で小さく唸った。



 

 
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