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化け猫騒動(5)御用!
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「というわけだった」
再び会った康次と三人で、情報のすりあわせをしているところだった。
「笹屋の大番頭がなあ。ただ人を驚かせて喜んでいたとも考えにくいよな」
康次はそう言い、与四郎と啓三郎も頷く。
「啓三郎の方はどうだった」
「おう。夜中に栄太の野郎、船を出してやがったぞ。それで船から降ろした木箱を、夜中にこっそりと運び出して笹屋の裏口に持って行きやがった」
啓三郎が報告すると、康次は難しい顔付きで唸った。
「間違いなく、密漁だな。それを笹屋に卸している」
「密漁をしているところを万が一にも見られないように、海がよく見える位置にある墓地で幽霊騒ぎを起こして、誰も海の方を見ないようにしていたんだな。
でも、証拠がないからな。次の新月の夜に現場を直接押さえないとな」
与四郎が言うのに、啓三郎が継ぐ。
「目付への報告は任せろ。知人にいるから、うまくやらせる」
「よし、頼むぜ」
らんらんと目を輝かせる啓三郎と康次だったが、与四郎はつまらなさそうに嘆息した。
「はあ。やっぱり幽霊を見物はできなかったな」
次の新月の夜が来た。天気は曇りで風も穏やかだ。
やはり笹屋の大番頭は棒と徳利をぶら下げてこそこそと出かけ、またこそこそと戻ってきた。そしてしばらくした頃、栄太がこそこそと笹屋の裏口へ訪れ、大番頭に潮の香りのする木箱を渡した。
それを確認して、捕り方が飛び出した。
「ご用である。神妙にいたせ」
何しろ現物はここにあるし、漁村に行って栄太を見張っていた人員も合流して、栄太が漁に出て船から降ろした木箱がそれだと証言している。逃げ場はない。
笹屋の主人と大番頭と漁師の栄太とで仕組んだ密漁は、こうして暴かれたのだった。
事件は解決し、墓地の化け猫騒ぎも収まり、また退屈な日々が戻ってきた。
与四郎も啓三郎も、本を読んだり剣術道場で汗を流したりして過ごしていた。
そのある日、顔を青ざめさせて父親が家へ戻ってきた。
「与四郎、殿が御前にとお呼びだそうで、明日の朝に登城させよと言われた。お前、何かしたのか」
与四郎の父は勘定役、それも頭などではない。殿に会ったこともなく、地味に真面目に仕事をしているただの小役人である。何かしでかしたのかと泡を食うのも当然だ。
「さあ。これと言って思い当たることもないのですが……。
まあ、午前に呼び出しなら悪い話ではないのが慣例でしょうから、笹屋の件で何か報償かもしれませんね」
だったらいいなと、言いながら思っていた。何せ家を継げない事が決まっている身だ。この際何でもありがたい。
啓三郎はどうかと訊きに行こうかとしたところで、啓三郎が来た。
やはり父親が同じ事を上司から言われたと泡を食って帰ってきたそうだ。
「笹屋の件かな」
「だと思うけどなあ」
「まさか仕事とか?」
「そう上手くはないだろう、あれだけで。せいぜい、お褒めの言葉と金一封じゃないかな」
「チッ。そう上手くいかねえか。でもそれで、どこかから養子とかの話が来たら上々だな」
「明日はかしこまって、せいぜい印象を良くしておこう」
与四郎と啓三郎はそう言い合い、翌日の登城に臨んだ。
見たことはあるが、入ったことなどない城は、想像以上に広く、きれいだった。しかしそうちらりと思ったのもつかの間、頭を下げろだの、上げて良いと言われても顔を見てはいけないだのとくどくどと注意を受け、畳に平伏して殿のおなりを待つこととなった。
「お成りぃ」
そう聞いて畳に平伏し、畳の目を数えて緊張を紛らわせながら、衣擦れの音で殿が座ったらしいと察する。
「面を上げい」
言われて、軽く上体を起こす。視線は、畳の目から指の先に変わったくらいだ。
しかし、どこかで聞いたような声だと、与四郎は思った。
「いいから顔を上げよ」
二度言われたので、上げてもいい。そこで与四郎と啓三郎は上体を起こし、殿の方へ顔を向けた。
「ゲッ」
啓三郎の口から失礼な声が出た。
普通なら咎められるに違いないが、この場合では大丈夫だった。なぜなら、「いたずら成功」といわんばかりにニヤニヤした殿は、よく知った人物だったからである。
再び会った康次と三人で、情報のすりあわせをしているところだった。
「笹屋の大番頭がなあ。ただ人を驚かせて喜んでいたとも考えにくいよな」
康次はそう言い、与四郎と啓三郎も頷く。
「啓三郎の方はどうだった」
「おう。夜中に栄太の野郎、船を出してやがったぞ。それで船から降ろした木箱を、夜中にこっそりと運び出して笹屋の裏口に持って行きやがった」
啓三郎が報告すると、康次は難しい顔付きで唸った。
「間違いなく、密漁だな。それを笹屋に卸している」
「密漁をしているところを万が一にも見られないように、海がよく見える位置にある墓地で幽霊騒ぎを起こして、誰も海の方を見ないようにしていたんだな。
でも、証拠がないからな。次の新月の夜に現場を直接押さえないとな」
与四郎が言うのに、啓三郎が継ぐ。
「目付への報告は任せろ。知人にいるから、うまくやらせる」
「よし、頼むぜ」
らんらんと目を輝かせる啓三郎と康次だったが、与四郎はつまらなさそうに嘆息した。
「はあ。やっぱり幽霊を見物はできなかったな」
次の新月の夜が来た。天気は曇りで風も穏やかだ。
やはり笹屋の大番頭は棒と徳利をぶら下げてこそこそと出かけ、またこそこそと戻ってきた。そしてしばらくした頃、栄太がこそこそと笹屋の裏口へ訪れ、大番頭に潮の香りのする木箱を渡した。
それを確認して、捕り方が飛び出した。
「ご用である。神妙にいたせ」
何しろ現物はここにあるし、漁村に行って栄太を見張っていた人員も合流して、栄太が漁に出て船から降ろした木箱がそれだと証言している。逃げ場はない。
笹屋の主人と大番頭と漁師の栄太とで仕組んだ密漁は、こうして暴かれたのだった。
事件は解決し、墓地の化け猫騒ぎも収まり、また退屈な日々が戻ってきた。
与四郎も啓三郎も、本を読んだり剣術道場で汗を流したりして過ごしていた。
そのある日、顔を青ざめさせて父親が家へ戻ってきた。
「与四郎、殿が御前にとお呼びだそうで、明日の朝に登城させよと言われた。お前、何かしたのか」
与四郎の父は勘定役、それも頭などではない。殿に会ったこともなく、地味に真面目に仕事をしているただの小役人である。何かしでかしたのかと泡を食うのも当然だ。
「さあ。これと言って思い当たることもないのですが……。
まあ、午前に呼び出しなら悪い話ではないのが慣例でしょうから、笹屋の件で何か報償かもしれませんね」
だったらいいなと、言いながら思っていた。何せ家を継げない事が決まっている身だ。この際何でもありがたい。
啓三郎はどうかと訊きに行こうかとしたところで、啓三郎が来た。
やはり父親が同じ事を上司から言われたと泡を食って帰ってきたそうだ。
「笹屋の件かな」
「だと思うけどなあ」
「まさか仕事とか?」
「そう上手くはないだろう、あれだけで。せいぜい、お褒めの言葉と金一封じゃないかな」
「チッ。そう上手くいかねえか。でもそれで、どこかから養子とかの話が来たら上々だな」
「明日はかしこまって、せいぜい印象を良くしておこう」
与四郎と啓三郎はそう言い合い、翌日の登城に臨んだ。
見たことはあるが、入ったことなどない城は、想像以上に広く、きれいだった。しかしそうちらりと思ったのもつかの間、頭を下げろだの、上げて良いと言われても顔を見てはいけないだのとくどくどと注意を受け、畳に平伏して殿のおなりを待つこととなった。
「お成りぃ」
そう聞いて畳に平伏し、畳の目を数えて緊張を紛らわせながら、衣擦れの音で殿が座ったらしいと察する。
「面を上げい」
言われて、軽く上体を起こす。視線は、畳の目から指の先に変わったくらいだ。
しかし、どこかで聞いたような声だと、与四郎は思った。
「いいから顔を上げよ」
二度言われたので、上げてもいい。そこで与四郎と啓三郎は上体を起こし、殿の方へ顔を向けた。
「ゲッ」
啓三郎の口から失礼な声が出た。
普通なら咎められるに違いないが、この場合では大丈夫だった。なぜなら、「いたずら成功」といわんばかりにニヤニヤした殿は、よく知った人物だったからである。
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