払暁の風

JUN

文字の大きさ
14 / 28

継嗣決定(2)問い合わせ

しおりを挟む
 昌平坂学問所を出て、慶仁は急ぎ足で家へ帰った。どうにも気になる事があるのだ。
「ムササビ型で飛ぶなら、下から風が吹いていなくては無理そうだ。でも、鳥みたいに羽ばたいたら飛べるのではないだろうか。
 あれ?じゃあ、何でにわとりは飛べないのかな?」
 それで、にわとりとすずめを比べようと思い立ったのだ。
「ただいま帰りましたぁ!」
 言うや、縁側に荷物を置き、にわとりを求めて踵を返す。
 その背中に、佐倉の声がかかった。
「ああ、慶仁様。お帰りなさいませ」
「あ、じい。ただいま」
「またなにかをなさるおつもりですか?」
「にわとりとすずめの違いは何かなあと思って」
「ふむ。大きさですかな」
「大きいから重くて飛べないのかな。でも、鷲や鷹も大きいけどな。
 あ、体の重さと羽の大きさとの釣り合いか?だとしたら、人間だと──」
「人間!?まさか!なりませんよ!?」
「しまった」
「慶仁様。さあ、お上がりください。さあ」
「……はい」
 観察と実験はまた今度だ。慶仁は、大人しく家へ上がった。
「今日はおかしなことはありませんでしたか」
「ん?別になかったよ」
「実は、問い合わせがございまして。早紀様とおっしゃる方を知らないか、と」
 佐倉はそう言って、慶仁の顔を見た。
「さき様。ああ、茜屋の主人は咲さんだよ」
「……そうでございましたな。はは。
 ああ、お茶でもお持ちしましょうか。ささ」
「ありがとう、じい」
 何か変な感じはしたが、学問所の事などを訊かれて答えているうちに、違和感は薄れてしまった。

 祐磨は帰って来ると、佐倉から、早紀についての問い合わせがあった事を聞かされた。
「それで、『当家の早苗様がまだいらっしゃった頃に、何度かいらした方がもしや』とうろ覚えの振りをしておきました」
「そうか。それで問い合わせて来たのは誰だ?」
「岩代の岡村様とおっしゃる方で、同郷の方に頼まれて探していると」
「ふん。そいつも後南朝派だろうな」
「恐らくは」
「幕府も、一橋派と南紀派とで、きな臭い。この上後南朝まで暗躍するとなると、敵わんな。
 慶仁にはしばらく、外出の時は青山を付けよう。そうでないなら、外出禁止だ」
「ははっ」
「慶仁は、早紀殿の事は全くまだ知らないようだな」
「どうしたもんでしょうなあ。いっそこのまま、知らさなくともよろしいのでは」
「そうだなあ。よく考えてみよう」
 祐磨は、お目付け役が貼り付いてはやんちゃができなくなると言い出す慶仁を想像して、さてどう言いくるめようかと考えたのだった。

 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...