体質が変わったので

JUN

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求む!事故物件?(3)模擬テストの点数は

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 机に向かう優磨の集中力は、悪くない。自殺してしまったのがつくづく惜しい。何を言っても手遅れでしかないが。
 それにしても、合格通知ではなく、模擬テストでの合格ラインを目標にしてくれていたのは助かる。上手く行けば今夜で片が付くからだ。
「おお、いいねえ。呑み込んできたねえ」
 褒められて、祐磨は嬉しそうだ。
 廊下からそっと見ている母親も、嬉しそうだ。
「ケアレスミスさえしなければ、いけるんじゃないか」
「だねえ」
「よし。国語、英語はいけてるし、社会は得意な地理で受験すれば、点数がかせげるな。これでどうだろう」
「そろそろ、やってみるかねえ。合格ラインに届くかどうか」
「はい!」
 意気込む優磨は、模擬テストに、挑戦する事になった。

 5教科のテストが終わったのは、未明の事だった。直と採点して行くのを、優磨と母親は固唾を呑んでじっと見ていた。
 ここまでの4教科は採点済みで、83点から98点に届いた教科もある。これが80点を少々割ったとしても、総合得点ではOKラインだというのは、僕と直はもうわかっていた。
 しかし、こうなると、気になって気になって仕方が無い。教え子が、何点くらいとれるか。
 最初、最悪の場合は、こっそりと点数を水増ししてやろうかと思っていたが、本当にいけそうだ。
「できたぞ」
 ごくりと、優磨が唾を呑む。
「物理、84点だねえ」
「やったあ!!」
 優磨が万歳をし、母親が涙を拭う。
「これ、合格ライン突破どころか、多分A判定じゃないかねえ」
「おめでとう」
「ありがとうございます!合格ラインを超えられて、本当に良かった」
 ホッとしたような顔をし、優磨がきらきらと光る砂のようになって消えて行く。
 それを見届けて、母親も同様に、頭を下げながら成仏して行った。
「ああ。逝ったな」
「良かったねえ」
「本番じゃなくて、更に良かった」
「だよねえ。目の前にある模擬テストに執着してくれていて。本番だったら、あと1年かかるところだったねえ」
 しみじみと頷き合った。
 霊がきれいに成仏し、マンションは本来の空き家になった。
 そこを改めて見る。
「いいところだなあ。キッチンも広いしコンロは3つあるしな。コンセントもこれだけあれば、冷蔵庫とかのいつも使うコンセント以外に、電動泡立て器やフードプロセッサーとかを使うにも困らないと思うしな」
 直は、
「そういう目線、やっぱり怜に見てもらって良かったよぉ」
と笑う。
「千穂さんに、一応言うのか?ここが事故物件だった事。気にしないタイプか?」
「家賃の安さでわかるしねえ。怜と2人がかりでキッチリとクリーンにしたと言ったら、大丈夫なんじゃないかねえ?」
「だったら、ここはお得物件だな」
「だと思うよねえ?」
「真先輩に感謝だなあ。
 あ。でも、家賃が下がるのは1年だけだろ?」
「それがねえ、下げても下げても誰も入らなかった所だったから、もういいって。本来はここって賃貸じゃなくて分譲だったのが、ここだけ賃貸だったのも、売れないからで、もし買取りなら、相場の半額で売るって言ってたねえ」
「良さそうだったら、買ってしまった方が得じゃないか?ローン組んでも、相場の半額なら大した負担にならないだろ?」
「そうだよねえ。ここなら、千穂ちゃんさえ気に入ったら、かなりの優良物件だと思うんだよねえ」
「まあ、千穂さんって公道レーサーも平気だったし、いけそうだな」
「だねえ。
 ああ。車かあ……」
 思い出して、2人で胃を押さえた。
「まあそこは相談だな」
 ベランダやバスルームもチェックして、もう何も憑いていない事を再確認し、外へ出る。
「見栄なんて詰まらないのになあ」
「優しすぎ、真面目過ぎだったんだねえ」
 もうすぐ始発電車が動き出す。道路は空いていて、どこか車にも余裕があるように見える。
「風が随分と温かくなったなあ」
「もう春だねえ」
「本当に、おめでとうな、直」
「うん。ありがとうねえ、怜」
「ところで、アオは平気か?やきもち焼かなかったか?」
「……焼いたねえ」
「焼いたのか……」
 直の眷属であるインコのアオは、気風のいい姐さんではあるが、直が大好きで、なかなかのやきもち焼きだ。
「クッキーとキャベツと小松菜と、関西から送ってもらったカールで機嫌を取ったんだよねえ。関西にしかない、特別なお菓子だよって」
「それで機嫌を直してくれて良かったな」
「うん。千穂ちゃんにもお菓子をわけてあげて、認めてくれたよ」
 嬉しそうに言うが、インコの話だよな、本当に、と知らない人は確認してきそうだ。
「あの親子が前に進んだように、僕達も前に進まないとな」
「そうだねえ。来月は、また大学に戻って補習だしねえ」
「皆元気かな」
 言いながら、駅に向かう。
 明けの明星が、輝いていた。


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