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ランナー(4)ゴール
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気配を、僕と直はずっと追っている。万が一何かあれば、すぐに手を打たないといけない。
並んで走れば万全だが、それは御免こうむる。
代わりと言っては何だが、アオが中継車よろしく、上空を飛んでくれていた。
「誰かな、誰が一番かな」
敬と康介も、姿を現すカーブの先を、ジッと見ている。
「お、来たぞ!」
沢井さんが声を上げ、皆、目を凝らす。
「これは……」
「3人ほぼ横並び!?」
「最後までわからない!」
実況よろしく声を上げるのは、黒井さん、春日さん、芦谷さんの、強面トリオだ。お互いに通じるものがあったらしい。
全員が、ゴール地点と必死の3人をチラチラと見て、誰がテープを切るのかと予測しようとしている。
桂さんは、何となく撮っていたビデオを、
「ビデオ判定になるかも知れん」
と大池さんに言われて、緊張しながら構えだした。
グングンと迫って来る。
「鼻先の差で大島さんか?」
「馬じゃないんだから、美保さん」
「現役の意地を見せろーっ!」
「何の、OBの意地だぞーっ、カゼ!」
「大島ーっ!負けたら当直!」
勝手な声援に包まれて、3人は必死だ。
何の邪気も無い、敬と康介の声援が、天の声のようだ。
「ラスト20メートル!!」
監督が、声を上げた。
重い足が、1歩、1歩と前に出る。腕が振られる。肺は苦しさでいっぱいだ。
それでも、どうしてこんなに走る事が好きなんだろう。また、走りたくなるんだろう。
根性で上体を前に押し出し、白いゴールテープを胸に絡ませた時、一陣の風が祝福するかのように体をふわりと取り巻いて吹いて行った。
ああ。この風が、好きなんだな。
風岡は笑った。
もう1度、走りたい。
ちゃんと、走りたい。
もっともっと、早く走りたい!
そして、風岡は、光になった。
白いテープが、はらりと地面に落ちた。
「……ああ……!」
「……カゼのやつ、本当に風になりやがった」
どこからか啜り泣く声がして、そして、敬と康介の声がした。
「おめでとう!皆凄いねえ!」
「光になったお兄ちゃん、もっと早くなって帰って来るんだよね!」
「そうしたら、このお兄ちゃん達も、練習しないとねえ」
「ぼくもやる!康君みたいに幼稚園に行ったら、ぼく、運動会で頑張る!」
それに、監督や学生達が、泣き笑いの顔を上げた。
「そうだ。俺達も、うかうかしていられないぞ。恥ずかしい所をさらすわけには行かないしな」
そして学生が笑って、
「ここにも、俺達を脅かす新人達がいるしなあ」
と敬と康介に手指をワキワキさせて言うと、2人は、笑って
「きゃあ!」
と走って逃げて、僕の後ろにくっついた。
「お疲れ様でした。ささやかながら打ち上げの準備をしていますので、打ち上げとビデオ観賞会をしましょう」
それで皆で手早く撤収作業を済ませ、会場を移した。
ロールキャベツのコンソメ煮込み、ミートボールと野菜のドミグラスソース煮込み、鳥ささみ天、カニクリームコロッケ、サバの竜田揚げ、春巻き、ゆで卵とブロッコリーとプチトマトのチーズグラタン、レタスとじゃが芋とりんごのサラダ、スパゲティナポリタン、エビピラフ、高野豆腐、肉豆腐、雑穀米、さつま汁。アルコールは抜きで、お茶を数種類。
ビュッフェスタイルである。
学生よりもむしろ警察官組の食欲が凄いと思うので、量は多い。
「では、駅伝交流会の成功と、風岡君の冥福を祈って。乾杯!」
監督の音頭で始める。
「流石は警察官ですね。社会人と言っても、現役学生並みですよね。今後も、お願いしたいくらいですよ」
「こちらこそ。いい刺激になりました」
徳川さん、兄、監督は、にこやかにそんな話をしているし、皆も各々、がっついている。
だが、流石に選手は違う。
「タンパク質がいっぱいあるぞ。鳥ささ身に、これは卵か!あ、チーズも入ってる」
などと、内容を見ていた。
下井さんは写真を撮っては味の感想などをメモしているらしく、何か、内容が恐ろしい。
「怜、美味しいね!ぼく、ミートボール好き!」
「ぼく、グラタンお代わりする!」
「敬も康介も熱いから気をつけて、いっぱい食べろよ」
僕は言って食べながら、料理の減りを時々チェックしていた。
「これが直君の言ってた、噂の」
「美味しいでしょ、千穂ちゃん」
「美味しい!」
ワイワイと食べ、適当にその辺の人と話し、ビデオを見ながらあああでもないこうでもないとフォームなどについて言い合い、交流会は終わった。
交流会ではなかったが、いつの間にか、交流会になっていたのだ。
「係長。ありがとうございました」
大島さんが、頭を下げる。
「いいんだよ。風岡さんもこれでスッキリしたみたいだし、楽しかったしな」
「こういうのもいいねえ」
「ああ。走る方は、アレだがな」
「そう言わずに、走りませんか?」
「いやあ……」
敬と康介は、皆に可愛がられて、すっかりアイドル化している。
「無事に、祓わずに成仏できて良かったよな」
「だよねえ。それが1番だもんねえ」
しみじみ言っていると、ポツンと下井さんが言った。
「今度はサッカー選手の霊とかが出て来て、また宴会にならないかなあ。ブラジル人とかイタリア人とかスペイン人とか」
「そんなに次々と出てたまるか!面倒臭い!」
それで皆、一斉に爆笑したのだった。
並んで走れば万全だが、それは御免こうむる。
代わりと言っては何だが、アオが中継車よろしく、上空を飛んでくれていた。
「誰かな、誰が一番かな」
敬と康介も、姿を現すカーブの先を、ジッと見ている。
「お、来たぞ!」
沢井さんが声を上げ、皆、目を凝らす。
「これは……」
「3人ほぼ横並び!?」
「最後までわからない!」
実況よろしく声を上げるのは、黒井さん、春日さん、芦谷さんの、強面トリオだ。お互いに通じるものがあったらしい。
全員が、ゴール地点と必死の3人をチラチラと見て、誰がテープを切るのかと予測しようとしている。
桂さんは、何となく撮っていたビデオを、
「ビデオ判定になるかも知れん」
と大池さんに言われて、緊張しながら構えだした。
グングンと迫って来る。
「鼻先の差で大島さんか?」
「馬じゃないんだから、美保さん」
「現役の意地を見せろーっ!」
「何の、OBの意地だぞーっ、カゼ!」
「大島ーっ!負けたら当直!」
勝手な声援に包まれて、3人は必死だ。
何の邪気も無い、敬と康介の声援が、天の声のようだ。
「ラスト20メートル!!」
監督が、声を上げた。
重い足が、1歩、1歩と前に出る。腕が振られる。肺は苦しさでいっぱいだ。
それでも、どうしてこんなに走る事が好きなんだろう。また、走りたくなるんだろう。
根性で上体を前に押し出し、白いゴールテープを胸に絡ませた時、一陣の風が祝福するかのように体をふわりと取り巻いて吹いて行った。
ああ。この風が、好きなんだな。
風岡は笑った。
もう1度、走りたい。
ちゃんと、走りたい。
もっともっと、早く走りたい!
そして、風岡は、光になった。
白いテープが、はらりと地面に落ちた。
「……ああ……!」
「……カゼのやつ、本当に風になりやがった」
どこからか啜り泣く声がして、そして、敬と康介の声がした。
「おめでとう!皆凄いねえ!」
「光になったお兄ちゃん、もっと早くなって帰って来るんだよね!」
「そうしたら、このお兄ちゃん達も、練習しないとねえ」
「ぼくもやる!康君みたいに幼稚園に行ったら、ぼく、運動会で頑張る!」
それに、監督や学生達が、泣き笑いの顔を上げた。
「そうだ。俺達も、うかうかしていられないぞ。恥ずかしい所をさらすわけには行かないしな」
そして学生が笑って、
「ここにも、俺達を脅かす新人達がいるしなあ」
と敬と康介に手指をワキワキさせて言うと、2人は、笑って
「きゃあ!」
と走って逃げて、僕の後ろにくっついた。
「お疲れ様でした。ささやかながら打ち上げの準備をしていますので、打ち上げとビデオ観賞会をしましょう」
それで皆で手早く撤収作業を済ませ、会場を移した。
ロールキャベツのコンソメ煮込み、ミートボールと野菜のドミグラスソース煮込み、鳥ささみ天、カニクリームコロッケ、サバの竜田揚げ、春巻き、ゆで卵とブロッコリーとプチトマトのチーズグラタン、レタスとじゃが芋とりんごのサラダ、スパゲティナポリタン、エビピラフ、高野豆腐、肉豆腐、雑穀米、さつま汁。アルコールは抜きで、お茶を数種類。
ビュッフェスタイルである。
学生よりもむしろ警察官組の食欲が凄いと思うので、量は多い。
「では、駅伝交流会の成功と、風岡君の冥福を祈って。乾杯!」
監督の音頭で始める。
「流石は警察官ですね。社会人と言っても、現役学生並みですよね。今後も、お願いしたいくらいですよ」
「こちらこそ。いい刺激になりました」
徳川さん、兄、監督は、にこやかにそんな話をしているし、皆も各々、がっついている。
だが、流石に選手は違う。
「タンパク質がいっぱいあるぞ。鳥ささ身に、これは卵か!あ、チーズも入ってる」
などと、内容を見ていた。
下井さんは写真を撮っては味の感想などをメモしているらしく、何か、内容が恐ろしい。
「怜、美味しいね!ぼく、ミートボール好き!」
「ぼく、グラタンお代わりする!」
「敬も康介も熱いから気をつけて、いっぱい食べろよ」
僕は言って食べながら、料理の減りを時々チェックしていた。
「これが直君の言ってた、噂の」
「美味しいでしょ、千穂ちゃん」
「美味しい!」
ワイワイと食べ、適当にその辺の人と話し、ビデオを見ながらあああでもないこうでもないとフォームなどについて言い合い、交流会は終わった。
交流会ではなかったが、いつの間にか、交流会になっていたのだ。
「係長。ありがとうございました」
大島さんが、頭を下げる。
「いいんだよ。風岡さんもこれでスッキリしたみたいだし、楽しかったしな」
「こういうのもいいねえ」
「ああ。走る方は、アレだがな」
「そう言わずに、走りませんか?」
「いやあ……」
敬と康介は、皆に可愛がられて、すっかりアイドル化している。
「無事に、祓わずに成仏できて良かったよな」
「だよねえ。それが1番だもんねえ」
しみじみ言っていると、ポツンと下井さんが言った。
「今度はサッカー選手の霊とかが出て来て、また宴会にならないかなあ。ブラジル人とかイタリア人とかスペイン人とか」
「そんなに次々と出てたまるか!面倒臭い!」
それで皆、一斉に爆笑したのだった。
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