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現世、前世、前前世(2)ストリートファイト
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まず、江長さんに憑いている霊が喋った。
「私の父は長崎の奉行所に勤める役人でした。真面目な性格でしたが、ある日、長崎奉行の抜け荷の罪を擦り付けられて、切腹となりました。
その長崎奉行こそが、この男!」
「ええー!?」
吉住さんが飛び上がる。
次は鎌田さんに憑いていた方の霊だ。
「私がお仕えしておりましたのは、戦国の世では小大名とは言え、さかのぼれば清和源氏につながる立派なお血筋の主でございます。織田に攻め入れられ、私共の力及ばず、殿は自害なされて果てました。
ここで再会したのは天のお導き。今度こそ、お守りいたす所存でございます」
吉住さんは声も無く、途方に暮れたような顔を僕達に向けて来た。
気持ちはわかる。
「江長さんは江戸時代かな。それで鎌田さんは戦国時代だな」
「言わば、前世と前前世かねえ」
「ずっと探してたのか?」
「気の長い話だよねえ」
僕と直が言うと、2人の霊はキッとこっちを見て、
「父の敵、どれほど経とうとも許せぬ!」
「殿を探し当てるまで幾年月かかろうとも!」
と言う。
面倒臭いが、仕方がない。
「お2人の言い分は十分わかりました。
しかし、今はもう、長い時間が経っています。この通り、生まれ変わって別人です。なので、もうそろそろ成仏されてはいかがかと」
それに、霊2人はクワッと目を見開いて文句を言った。
「何度生まれ変わろうとも、敵は敵!」
「殿は殿、姿形が変わろうとも、それに変わりはござらん!」
「でもですねえ」
「ええい、黙れ小童が!」
「手出し無用!」
「小童……。なかなか、実際には言われない言葉だな、直」
「うん。新鮮な気もするねえ」
霊2人は、実は仲がいいのではないかと思えて来る。
吉住さんはもう逃げ腰で、
「勘弁してくださいよ」
と泣きそうだ。
「今の時代は、敵討ちも禁止ですし、刀など許可書なく所持する事も使用する事も禁止しているんですよ。残念ながら、お二人には逝っていただくしかないですね」
「クッ。我は敵討ちせずに成仏などしないと誓い、三途の川の渡し賃も持っておらんわ!」
「ああ、無料でお手伝いしますから、ご心配なく」
「フッ。タダより高い物は無いという」
「そんなひねくれた事を言わないで欲しいねえ」
「何が何でも、そやつを斬り捨てる!!」
「何があろうとも殿にかすり傷ひとつ付けさせん!!」
霊2人はヒートアップし、吉住さんは益々怯えた。僕と直は溜め息を付き、巡査はオロオロとしている。
「まずは貴様をやってやる!!」
「上等だ!!」
そしてとうとう霊2人は、力任せに札を引きちぎり、睨み合った。
「ここ、交番だから!狭いから!」
「書類があ!」
巡査が慌てているのを尻目に、霊2人は外に出て行き、直が札で2人を囲った。まるで、デスマッチだ。
「ああ。やっぱり面倒臭い事になったなあ」
「前世に前前世かあ。肝心の、長崎奉行にして戦国の殿様は成仏してるんだけどねえ」
結界の檻の中で刀を向け合って睨み合う2人は、そんな声も入っていないらしい。真剣に、隙を窺ってグルグルとゆっくり回っていた。
「どうするかねえ?」
「僕が止めるから、直、札で拘束して」
「OKだよう」
突然歩道に現れた結界の檻と刀を構える侍2人に、通りかかった通行人は驚いて足を止めている。これ以上増えない内に、片付けるか。
僕は刀を出して、檻に近付いて行った。
「ストーップ。これ以上やるなら、僕が相手になる」
「……若造が」
「ならばまずは、貴様を片付けてからこやつを斬ってやる」
霊2人は、仲良く僕に刀を向けた。
「やっぱり仲いいんじゃないか?」
言うと、2人が示し合わせたかのようにかかって来た。
「私の父は長崎の奉行所に勤める役人でした。真面目な性格でしたが、ある日、長崎奉行の抜け荷の罪を擦り付けられて、切腹となりました。
その長崎奉行こそが、この男!」
「ええー!?」
吉住さんが飛び上がる。
次は鎌田さんに憑いていた方の霊だ。
「私がお仕えしておりましたのは、戦国の世では小大名とは言え、さかのぼれば清和源氏につながる立派なお血筋の主でございます。織田に攻め入れられ、私共の力及ばず、殿は自害なされて果てました。
ここで再会したのは天のお導き。今度こそ、お守りいたす所存でございます」
吉住さんは声も無く、途方に暮れたような顔を僕達に向けて来た。
気持ちはわかる。
「江長さんは江戸時代かな。それで鎌田さんは戦国時代だな」
「言わば、前世と前前世かねえ」
「ずっと探してたのか?」
「気の長い話だよねえ」
僕と直が言うと、2人の霊はキッとこっちを見て、
「父の敵、どれほど経とうとも許せぬ!」
「殿を探し当てるまで幾年月かかろうとも!」
と言う。
面倒臭いが、仕方がない。
「お2人の言い分は十分わかりました。
しかし、今はもう、長い時間が経っています。この通り、生まれ変わって別人です。なので、もうそろそろ成仏されてはいかがかと」
それに、霊2人はクワッと目を見開いて文句を言った。
「何度生まれ変わろうとも、敵は敵!」
「殿は殿、姿形が変わろうとも、それに変わりはござらん!」
「でもですねえ」
「ええい、黙れ小童が!」
「手出し無用!」
「小童……。なかなか、実際には言われない言葉だな、直」
「うん。新鮮な気もするねえ」
霊2人は、実は仲がいいのではないかと思えて来る。
吉住さんはもう逃げ腰で、
「勘弁してくださいよ」
と泣きそうだ。
「今の時代は、敵討ちも禁止ですし、刀など許可書なく所持する事も使用する事も禁止しているんですよ。残念ながら、お二人には逝っていただくしかないですね」
「クッ。我は敵討ちせずに成仏などしないと誓い、三途の川の渡し賃も持っておらんわ!」
「ああ、無料でお手伝いしますから、ご心配なく」
「フッ。タダより高い物は無いという」
「そんなひねくれた事を言わないで欲しいねえ」
「何が何でも、そやつを斬り捨てる!!」
「何があろうとも殿にかすり傷ひとつ付けさせん!!」
霊2人はヒートアップし、吉住さんは益々怯えた。僕と直は溜め息を付き、巡査はオロオロとしている。
「まずは貴様をやってやる!!」
「上等だ!!」
そしてとうとう霊2人は、力任せに札を引きちぎり、睨み合った。
「ここ、交番だから!狭いから!」
「書類があ!」
巡査が慌てているのを尻目に、霊2人は外に出て行き、直が札で2人を囲った。まるで、デスマッチだ。
「ああ。やっぱり面倒臭い事になったなあ」
「前世に前前世かあ。肝心の、長崎奉行にして戦国の殿様は成仏してるんだけどねえ」
結界の檻の中で刀を向け合って睨み合う2人は、そんな声も入っていないらしい。真剣に、隙を窺ってグルグルとゆっくり回っていた。
「どうするかねえ?」
「僕が止めるから、直、札で拘束して」
「OKだよう」
突然歩道に現れた結界の檻と刀を構える侍2人に、通りかかった通行人は驚いて足を止めている。これ以上増えない内に、片付けるか。
僕は刀を出して、檻に近付いて行った。
「ストーップ。これ以上やるなら、僕が相手になる」
「……若造が」
「ならばまずは、貴様を片付けてからこやつを斬ってやる」
霊2人は、仲良く僕に刀を向けた。
「やっぱり仲いいんじゃないか?」
言うと、2人が示し合わせたかのようにかかって来た。
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