体質が変わったので

JUN

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クリスマス会(2)まちぼうけ

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 授業中の廊下を通って、敷地内の奥にある体育館に向かう。
「お話では、無人の体育館から鈴の音が聞こえたとか」
 やんわりと訊くと、校長は頷いた。
「はい、そうです。児童も教員も聞いています」
「鈴というのは?神社にあるようなあんなのですかねえ?」
「そうですねえ。まあ、鈴ひとつではないし、あれなのかな?」
 校長が思い出すように言い、僕達も、幾つかの鈴が同時に鳴っているのを想像した。
 神社関係か?元は田んぼだったとかいうし、そちら関係で祀られていた何かだろうか。
 児童が刺繍した布製のペンケースを展示した家庭科室の前を通り、体育館に近付く。
「いるな。いるけど、これは……」
「うん。弱いねえ」
 まあそれでも、注意は必要だ。
 校長は扉の前で待っていてもらう事にして、僕と直で、扉を開け、中へ入った。

     シャンシャンシャララア シャンシャンシャララア

 赤いワンピースを着た児童が、リズムを取りながら鈴を振っていた。音楽で使うリングベルだ。
「鈴だな」
「鈴だねえ」
 それでその子は顔を上げてこちらを見たが、ガッカリとしたような顔をして下を向いた。
「こんにちは。僕は御崎といいます」
「ボクは町田ですぅ」
「あなたの名前は?」
 女の子は警戒するように、半歩下がった。
「ボク達は警察官、おまわりさんだよう」
 直がニコニコとして言い、それで僕達はバッジを出した。
 それで信用してはくれたのだろうか。その子は、

     4年3組、陣川千陽じんかわちはるです

と言った。
 うん。僕も子供の扱いは昔より慣れたとはいえ、人見知りしている子に喋らせるのは無理だな。直に任せよう。
「ここで何をしているのかねえ?」
 アイコンタクトで、直が質問にまわる。

     待っているのよ
     今日はパパが必ず来てくれるって言ったもん

「今日は、何の日だったかねえ?」

     クリスマス会だよ

「ああ、そうかぁ」

     パパ、遅いなあ
     今日も仕事かなあ
     来るって言ったのに……

 千陽は俯いて口を尖らせ、そして、消えて行った。
 僕達は校長を振り返った。
 校長は彼女の姿を見えず、声も聞こえていなかったらしい。ただ、鈴の音だけが聞こえたのだろう。
「鈴の音が、今、これですよ、これ」
 ビクビクとしていた。
「校長。4年3組の陣川千陽という女子児童は、こちらに在籍していましたか」
 訊くと、校長は驚いたような顔になり、次いで、悲しそうな顔をした。
「陣川千陽ですか。ええ。去年まではおりました。ちょうど今頃、事故で死んでしまったんですが」
 僕と直は顔を合わせ、小さく頷いた。

 校長室に場所を移し、陣川千陽ちゃんについて訊いた。
 それによると、千陽ちゃんは一人っ子で、大人しくて寂しがりな子だったらしい。
 1年生の時に母親が妊娠し、弟か妹ができると喜んでいたが、2年生の始めに胎盤剥離で母子共々死亡。父子家庭になったそうだ。
 父親は子供をかわいがっていたが、仕事が忙しく、参観日や学校行事に参加する事はできなかったらしい。それでも千陽ちゃんは我慢していたが、4年生の時、クリスマス会には参加できそうだと父親が言ったので、とても楽しみにしていたそうだ。
 その日に出張から帰って来るパパが、ブローチをお土産に買って来てくれるから、それをつけて、学校のクリスマス会に出る、と。
 しかし急いで学校へ向かう父親の乗るタクシーが多重事故に巻き込まれて父親は死亡。
 まだそれを知らずに待ち続けていた千陽ちゃんは、
「パパの嘘つき!」
と叫んで表に飛び出し、足を滑らせて近くの用水路に転落。そのまま死亡した。
「はあ」
 溜め息が3つ重なった。
「陣川千陽ちゃんが待っていると言うなら、今でも父親が来るのを待っているんですよ」
 校長は沈鬱な表情で言い、冷めたお茶を啜った。
「父親の死を知らず、か。
 父親の方はどうなってるんだろうな」
 直がスンと鼻を啜って答えた。
「その事故なら、現場はわかるよう」
「いるかどうかわからないが、行ってみるか」
 僕と直は、事故現場に向かう事にした。




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