924 / 1,046
クリスマス会(1)体育館に響く鈴
しおりを挟む
小学校から相談が来たのは、クリスマスを前に、皆が浮かれている最中だった。
「誰もいない体育館から、鈴の音がしたりするらしい。それで児童が怖がって、体育館に近付けない子はまだましで、学校に登校できない子が続出だそうだ」
徳川さんがそう言う。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「何か事故でもあったんですか?」
僕は訊いてみた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「創立3年。何もこれと言って事故もなかったそうだよ」
それに直も、苦笑を浮かべた。
「創立3年でも、七不思議とかできるもんだよねえ。それが不思議だよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
それで思わず3人で笑ってから、
「じゃあ、頼むね。冬休み前に何とかしてもらいたいって事だから」
と徳川さんが言った。
「新学期から登校拒否する児童続出になると困るもんな」
「何だろうねえ。体育館なら、跳ねるボールとかじゃないのかねえ?」
「変だよなあ。まあ、行って視よう」
僕と直はそう言って、早速その案件に取り掛かった。
小学校へは、電車で20分ほどだ。
向かう途中に見える町は、もうすぐ来るクリスマス一色だ。
「優維ちゃんのところの幼稚園、クリスマス会があるんだよな」
「そうだよう。クラス毎に合唱をする程度らしいけど、毎日家でも練習してるよう。それで累も、一緒にねえ」
にこにこと直が言う。
長女の優維ちゃんは近所の幼稚園に通っているのだが、募集時期と引っ越しの時期が合わず、たんぽぽ幼稚園ではなく、私立のミッション系の幼稚園だ。
ここは、クリスマスには子供達の合唱と教師たちのキリスト誕生の部分の劇を毎年クリスマス会として行い、父兄も見学できるようになっているのだ。
「ビデオで撮っておかないとな。
当日は何も起きないで、ちゃんと休めることを祈ろう」
「うん。本当にそうだよう」
「少々は大丈夫。僕が何とかするから」
「頼むねえ」
何だかんだと話しているうちに、僕達はその小学校に着いた。
創立3年だけあり、まだ新しい。
正門に詰めているガードマンに取り次いでもらって待つ間にも、グラウンドで体育の授業をする児童の声や、リコーダーの音、教科書を音読する声が聞こえる。
少し待つと、壮年の男性が現れた。
「お待たせしました。校長の松山です」
人の良さそうなおじさん、といった感じで、「校長先生、校長先生」と慕われていそうだと一目でわかる。
「陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田と申しますぅ」
「よろしくお願いいたします。児童が怯えてしまって……。
さあ、どうぞ」
顔を曇らせた校長の先導で、僕達は校内に足を踏み入れた。
「誰もいない体育館から、鈴の音がしたりするらしい。それで児童が怖がって、体育館に近付けない子はまだましで、学校に登校できない子が続出だそうだ」
徳川さんがそう言う。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「何か事故でもあったんですか?」
僕は訊いてみた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「創立3年。何もこれと言って事故もなかったそうだよ」
それに直も、苦笑を浮かべた。
「創立3年でも、七不思議とかできるもんだよねえ。それが不思議だよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
それで思わず3人で笑ってから、
「じゃあ、頼むね。冬休み前に何とかしてもらいたいって事だから」
と徳川さんが言った。
「新学期から登校拒否する児童続出になると困るもんな」
「何だろうねえ。体育館なら、跳ねるボールとかじゃないのかねえ?」
「変だよなあ。まあ、行って視よう」
僕と直はそう言って、早速その案件に取り掛かった。
小学校へは、電車で20分ほどだ。
向かう途中に見える町は、もうすぐ来るクリスマス一色だ。
「優維ちゃんのところの幼稚園、クリスマス会があるんだよな」
「そうだよう。クラス毎に合唱をする程度らしいけど、毎日家でも練習してるよう。それで累も、一緒にねえ」
にこにこと直が言う。
長女の優維ちゃんは近所の幼稚園に通っているのだが、募集時期と引っ越しの時期が合わず、たんぽぽ幼稚園ではなく、私立のミッション系の幼稚園だ。
ここは、クリスマスには子供達の合唱と教師たちのキリスト誕生の部分の劇を毎年クリスマス会として行い、父兄も見学できるようになっているのだ。
「ビデオで撮っておかないとな。
当日は何も起きないで、ちゃんと休めることを祈ろう」
「うん。本当にそうだよう」
「少々は大丈夫。僕が何とかするから」
「頼むねえ」
何だかんだと話しているうちに、僕達はその小学校に着いた。
創立3年だけあり、まだ新しい。
正門に詰めているガードマンに取り次いでもらって待つ間にも、グラウンドで体育の授業をする児童の声や、リコーダーの音、教科書を音読する声が聞こえる。
少し待つと、壮年の男性が現れた。
「お待たせしました。校長の松山です」
人の良さそうなおじさん、といった感じで、「校長先生、校長先生」と慕われていそうだと一目でわかる。
「陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田と申しますぅ」
「よろしくお願いいたします。児童が怯えてしまって……。
さあ、どうぞ」
顔を曇らせた校長の先導で、僕達は校内に足を踏み入れた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
200
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる