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さまよえる廃屋(1)グリーンハウス
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肝試し。何度危ないと言われようが、廃れないものだ。怖いもの見たさというものがヒトに備わっている限り、無くなる事は無いのかもしれない。
というわけで、夏は特に、肝試しによる事故、犯罪、事件が多発するのだ。
「もう、お化け屋敷でいいじゃないか」
僕は遠い目をしてそう言った。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「そうだよねえ。だって、怖い思いはしたいけど、本当に何かあったら困るんだもんねえ」
直もそう言って、虚ろに笑った。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
そんな直を元気付けるように、アオが髪をくわえて引っ張っている。
「でも、霊が近くにいると涼しい場合もあるな」
真剣に活用法を考えだすと、徳川さんが釘を刺して来た。
「携帯クーラー代わりにするんじゃないよ、2人とも」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「いい考えだと思ったのになあ」
「ねえ」
徳川さんは苦笑して、冷たい麦茶を飲んだ。
「で、その相談なんだけど」
ある若者グループが、見るからに怪しい廃屋を見付けた。
そこはよく通る場所なのに、そんな廃屋が目に付いた事などこれまでなかった。
「何だろう、ここ。こんな建物、あったら気付いてたのに」
建物は二階建ての木造建築で、壁も屋根も傷み、ドアは完全に無くなっていた。その壁には蔦が這い、緑色の建物に見える。
そしてその建物を取り囲むように庭があり、雑草と砂地に覆われていた。
「入ってみようぜ」
「何かいるかも」
彼らはウキウキしながら、中に足を踏み入れた。
建物の中は、当然電気が通ってはおらず、真っ暗だ。スマホの灯りを頼りに見てみると、入った所はホールになっていて、2階に上がる階段と奥へ続く廊下があった。
奥へ進む事にして、埃と砂が積もった廊下を歩く。
「お、うぐいす張りか?」
「いや、ぼろくなってるだけだろ」
歩くたびに軋んで音を立てる廊下を進みながら、左右の部屋を覗く。板張りの大広間のような所に木の座卓が6つ並んでいる部屋、祭壇のようなものがある畳敷きの大広間、土の地面が剥き出しのただ広い部屋。
「なんだろうな、ここは」
「家の中に庭?これが本当の中庭だな」
笑いながら、その部屋へ入って、周囲を見た。
と、背後に灯りを向けて、人が立っていたので腰を抜かしそうな程に驚いた。
「うわああっ!?」
「ギャッ!?」
「何!?」
いつの間にかそこに立っていたのは、高校生か大学生くらいの女子2人だった。
「び、びっくりした。
君達も肝試し?」
1人がそう言ったが、その女子2人は無表情のまま彼らの顔をじっくりと眺めていたが、
「違う」
と短く言った。
訊き返そうとした時、誰かが言った。
「何で音がしなかったんだ?廊下、あんなにうるさかったのに」
彼らは一気に黙り込み、その言葉の意味を考えた。
「皆、違う」
女子2人がそう言った時、全員、額に痛みを感じた。
そしてそれをきっかけにして、表に向かって走り出した。
廊下は来た時同様、騒がしく音を立てる。
最後の1人が外に出て振り返ると、ドアの横に看板が置いてあるのが見えた。最初は吊り下げてあったのだろうが、落ちたらしい。
「緑会?聞いた事あるような……」
「いいから、逃げるぞ!」
彼らは庭の外へ走り出た。
徳川さんは、
「走って離れた時、互いの顔を見たら、浅い傷で額に大きくバツ印がついていたそうだ。
それで翌日にもう一度確かめに行ったら、どこにもそんな廃屋は無かったとか」
と締めくくって、麦茶を飲んだ。
「さ迷う廃屋か。まずは探し当てないと調査もできないのか。面倒臭いな」
「でも、気になるよねえ」
確かに。
僕と直は、早速この話を調べる事にした。
というわけで、夏は特に、肝試しによる事故、犯罪、事件が多発するのだ。
「もう、お化け屋敷でいいじゃないか」
僕は遠い目をしてそう言った。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「そうだよねえ。だって、怖い思いはしたいけど、本当に何かあったら困るんだもんねえ」
直もそう言って、虚ろに笑った。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
そんな直を元気付けるように、アオが髪をくわえて引っ張っている。
「でも、霊が近くにいると涼しい場合もあるな」
真剣に活用法を考えだすと、徳川さんが釘を刺して来た。
「携帯クーラー代わりにするんじゃないよ、2人とも」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「いい考えだと思ったのになあ」
「ねえ」
徳川さんは苦笑して、冷たい麦茶を飲んだ。
「で、その相談なんだけど」
ある若者グループが、見るからに怪しい廃屋を見付けた。
そこはよく通る場所なのに、そんな廃屋が目に付いた事などこれまでなかった。
「何だろう、ここ。こんな建物、あったら気付いてたのに」
建物は二階建ての木造建築で、壁も屋根も傷み、ドアは完全に無くなっていた。その壁には蔦が這い、緑色の建物に見える。
そしてその建物を取り囲むように庭があり、雑草と砂地に覆われていた。
「入ってみようぜ」
「何かいるかも」
彼らはウキウキしながら、中に足を踏み入れた。
建物の中は、当然電気が通ってはおらず、真っ暗だ。スマホの灯りを頼りに見てみると、入った所はホールになっていて、2階に上がる階段と奥へ続く廊下があった。
奥へ進む事にして、埃と砂が積もった廊下を歩く。
「お、うぐいす張りか?」
「いや、ぼろくなってるだけだろ」
歩くたびに軋んで音を立てる廊下を進みながら、左右の部屋を覗く。板張りの大広間のような所に木の座卓が6つ並んでいる部屋、祭壇のようなものがある畳敷きの大広間、土の地面が剥き出しのただ広い部屋。
「なんだろうな、ここは」
「家の中に庭?これが本当の中庭だな」
笑いながら、その部屋へ入って、周囲を見た。
と、背後に灯りを向けて、人が立っていたので腰を抜かしそうな程に驚いた。
「うわああっ!?」
「ギャッ!?」
「何!?」
いつの間にかそこに立っていたのは、高校生か大学生くらいの女子2人だった。
「び、びっくりした。
君達も肝試し?」
1人がそう言ったが、その女子2人は無表情のまま彼らの顔をじっくりと眺めていたが、
「違う」
と短く言った。
訊き返そうとした時、誰かが言った。
「何で音がしなかったんだ?廊下、あんなにうるさかったのに」
彼らは一気に黙り込み、その言葉の意味を考えた。
「皆、違う」
女子2人がそう言った時、全員、額に痛みを感じた。
そしてそれをきっかけにして、表に向かって走り出した。
廊下は来た時同様、騒がしく音を立てる。
最後の1人が外に出て振り返ると、ドアの横に看板が置いてあるのが見えた。最初は吊り下げてあったのだろうが、落ちたらしい。
「緑会?聞いた事あるような……」
「いいから、逃げるぞ!」
彼らは庭の外へ走り出た。
徳川さんは、
「走って離れた時、互いの顔を見たら、浅い傷で額に大きくバツ印がついていたそうだ。
それで翌日にもう一度確かめに行ったら、どこにもそんな廃屋は無かったとか」
と締めくくって、麦茶を飲んだ。
「さ迷う廃屋か。まずは探し当てないと調査もできないのか。面倒臭いな」
「でも、気になるよねえ」
確かに。
僕と直は、早速この話を調べる事にした。
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