手出しさせてやろうじゃないの! ~公爵令嬢の幼なじみは王子様~

薄影メガネ

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本編

38.明かされる魔の手

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 少し早い誓いの口づけを交わし終わった後、天使の顔に悪魔が表れた──

「さてと、それでじゃあ僕も聞くけど。リーは彼奴あいつに何を言われたの? もう教えてくれるよね? というか答えてくれるまで僕はリーをこのまま離すつもりないんだけどね」

 ジュードはそう言ってニッコリと笑っているが冗談ではなく本気だ。それも腰に回された手には相当な力が込められていて、痛くはないけれど逃げ出すことも出来ない。先程までの甘い雰囲気は何処へ行ったのやら。エルフリーデはまたもジュードに追い詰められていた。

「あのぉ~、えっと、そのぉ……ジュード、そのことまだ覚えてたの?」 
「覚えてたのって……そんなこと忘れようがないんだけど」

 そのこととは、以前王城でジュードが女の人と会って話をしている現場に偶然居合わせたエルフリーデの従兄弟が、去り際にこっそりエルフリーデに耳打ちしていったそのことだ。

「で、でもっ! そんなたいしたことじゃないし……」
「さっき怪我の話をしてたときもリーはそう言ってたけど、リーのたいしたことないはどうやらあまり当てにならないみたいだね?」
「なっ!? なによぅっ! 何でそんな意地悪なこというのよ!」
「意地悪? そうかな? 僕はリーに意地悪されてる気分なんだけど」
「えっ?」
「答えをらされて、どうでもいいって思ってる奴に嫉妬しなきゃいけない僕の身にもなってくれって言えばリーには伝わるのかな?」
「あの、わたしそんな焦らしてなんか……」
 
 今、従兄弟のことをどうでもいい奴って言った? とエルフリーデは何やら物騒な物言いになってきているジュードを警戒して声を落としてそわそわと落ち着かなく視線を漂わせた。けれどやっぱりちょっとだけ気になって、チラッとジュードの様子を盗み見ようとして失敗した。青緑のんだ海を思わせる瞳とバッチリ目線が合ってしまった。
 エルフリーデと目線が合うとジュードはふっと微笑みを浮かべた。透明感のある綺麗過ぎる容貌に、まるで慈愛の天使そのものの甘い微笑みをたたえている。が、そのジュードの瞳の奥に暗い影がうごめいたような気がして。一瞬、場の空気が凍り付く。そして再び魔王のような底知れぬ黒い迫力をジュードから感じ始めてエルフリーデは寒気を覚えた。

「あ、あの……ジュード?」

 怖がり始めたエルフリーデの様子に、ジュードがやれやれと表情を緩めた。

「冗談だよ。ごめん……といっても半ばは本気なんだけどね」
「……ジュード嫉妬してるの?」
「うん」
「そんなに知りたいの?」
「うん、まぁ無理にとは言わないけど。僕はリーに関わることなら何でも知りたいよ?」

 ジュードは知りたいと言いつつもそれ以上追求するのを諦めていた。エルフリーデをあまり怖がらせたくないとジュードは思っているようで。困ったと、眉尻を下げて弱々しく笑っている。エルフリーデに怖いと思わせてしまうくらいなら仕方が無い。そう思って追求を断念しているのが分かって、そのエルフリーデを思うジュードの優しさにエルフリーデの心は折れた。

「……ぃ……き……って言われたの」
「えっ? リーごめん、よく聞こえなかったんだけど……」

 もう一度言ってくれる? とエルフリーデを見つめるジュードの優しい瞳の色に魅せられて。エルフリーデはジュードの耳元に口を寄せると従兄弟に言われた言葉をそのまま反芻はんすうした。



『……彼奴あいつ、エルフリーデの事しか見えてないみたいだから気を付けろよ?』



「って言われたの……」
「…………」
「あのぉ? ジュード? どうしてだまって──」
「は、はははははははは!」
「……じゅっ、ジュードぉ……?」
「くくっ、確かにそうだね。彼奴あいつもよく分かってるじゃないかっ!」

 ジュードらしからぬ豪快な笑い声と、楽しそうに目に涙を浮かべながら笑っている表情にエルフリーデは目を丸くした。

「まったく、リーにあんなトラウマ植え付けた奴はたいがい叩きのめしたつもりだったんだけど、彼奴あいつまだリーに近寄ってくるなんてちょっと足りなかったかな?」
「あ、あの……?」
「やっぱりもっと痛め付けておけばよかったか」
「……はっ? ジュード今なんて?」
「ああ、ごめん。リー、なんでもないよ」
「そ、そう? ……あっあのね、そのことなんだけど……」
「ん? 何? どうしたの?」
「えっとね、そのぉわたし、……てっきりわたしって男の子に嫌われやすいんだってずっとそう思ってたのよ? 昔からジュード以外の他の男の子はみんなわたしに近づこうとしないし、それにああいうこともあったから……でもあの人がその、……それは違うって教えてくれたの。それとジュードがわたしのことずっと守ってくれてたってことも」

 嫌われていると、幼い頃からずっとそう思っていたのに。まさか男の子達がエルフリーデに近づかなかったのは(近づけなかったのは)、陰でジュードがずっと守っていてくれていたからだ何てこと知らなかった。従兄弟にその話を聞くまでは。

「そんなことまで彼奴あいつはリーに話したのか……」
「う、うん」
「だけどリー、それはリーの思い違いだよ」
「思い違い?」
「リーは昔からすごく可愛くて皆に好かれていたからね。誰にもリーを取られないように僕が隠したんだ。僕だけのものにしたくて、優しい檻の中にリーを囲って僕はずっとそうしてリーに嘘を付いてた。僕は優しいって嘘をね」
「嘘?」
「リーを欲しいって思ってる他の奴らと寸分すんぶん変わらず同じことを僕も考えてるのに。それを隠してリーに僕は安全だって思わせて逃がさないようにしてた。だからそういうこともキス以上はリーに何も教えないできたのに、それがまさかこんな結果になるとはね」

 何もかもあらいざらいを吐き出して。そう言って苦笑しているジュードの表情は、そのつむぐ言葉に反して爽やかで、とてもスッキリした顔でエルフリーデに向き合っていた。
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