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本編
27、刹那の光
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オルグレンが自分の上に覆い被さっているのを。ベッドの上でひっくり返ったまま眺めること数分。
「謝る気になったか?」
「……?」
ふわふわのベッドが心地よいのか。
こんな体勢で迫られているというのに、緊張感の欠片もなくリリヤが無意識に毛布をポンポン叩きながら。何か悪いことをしただろうかとしきりに可愛く首を傾げている。
「貴女という人は……」
オルグレンよりも別のことに気を取られている。
その無邪気さに力の抜けたオルグレンが。リリヤの胸元に頭を乗せるような格好でリリヤの上に体を重ねた。
「オルグレン様……重いです」
「直接触れてはいない」
「そうですが……」
だいぶオルグレンの話し方や、綺麗な顔に慣れてきたとはいえ。乗っかられるのは少し緊張する。
「オルグレン様?」
リリヤからの再三の呼び掛けに仕方なしに応えて。体を半ば起こしながら、オルグレンがその綺麗な顔をリリヤに近付けると。
「そういえばオルグレン様に初めてお会いしたときはこんなに小さな赤ちゃんだったのに……大きくなりましたね」
しみじみと言うリリヤに。オルグレンが驚きに目を見張ったのはほんの一瞬のこと。
(それにしてもまあ……随分と色っぽく育ったわね)
オルグレンの黒髪黒い瞳の美しい容貌を、リリヤは羨ましく思っていた。
「白髪の赤い瞳……この容姿で魔女なんて。奉仕活動でもしていなかったら誰も近寄ろうとは思わないのに婚約者にするなんて。オルグレン様は少し変わってますね」
独りぼっちは寂しい。怖い。だから人間を助けた。他人のためではなく保身のために。
「……貴女の髪も瞳も綺麗だ」
遠い昔の記憶を辿るように、過去に思いを馳せるリリヤに。オルグレンは一貫して態度を崩さない。
本当にリリヤのことをオルグレンが想っているように見えてしまうのは。
リリヤがどんなに無礼な態度をとっても。拒絶して心を固く閉ざしても。オルグレンは怒るどころかずっと傍にいて。離れようとしないからだ。
「オルグレン様。そんな気を使っていただかなくても……無理をしなくてもいいんですよ? 私は自分がどう見られているかくらい分かっていますから」
今更、そんなことで傷付いたりしない。そう言いかけたところで、オルグレンの責めるような紫暗の瞳が向けられていることに気付いた。
「リリヤ、俺は嘘は言っていない」
こんなときに名前で呼ぶなんてズルい。
責めているのではなく、それはリリヤを心配してのことだと。ここ数週間の地下牢生活を経てリリヤはよく分かっていた。
(……この子やっぱり良い子なのよね)
オルグレンは基本、よっぽどの緊急事態や必要に迫られない限り。相手が自分の意に反した行動をしても、怒りでコントロールしようとはしない。
権力にものをいわせて相手を屈服させるようなことはしないのだ。
では代わりにどうするかというと……
「貴女は一時黒の魔女と並び称された癒し手。偉業を成し得た稀有なる魔力を持つ魔女だと……そう言われていた貴女が小さな子供のように無断外出──脱獄を繰り返す姿は正直、見るに忍びないものがあるのだが……」
その女よりも綺麗な顔で。ただ淡々と思ったことを正直に述べるのみにとどめるのだ。が、これが意外と応える。
相手の期待に応えられなかった自分への失望と。オルグレンのリリヤを憐れむような台詞を真に受けて。リリヤは自身の不甲斐なさにちょっと落ち込んでいた。
正論は時に強く心に突き刺さるのだ。
「申し訳ありません……」
またも恒例の説教ならぬお小言が始まってしまい。萎縮するリリヤは。きっと子犬だったら耳が垂れ下がっている。
反省してしょんぼりと落ち込んで、すっかり弱った様子のリリヤに。オルグレンがらしくもなく軽く舌打ちした。
「まったく困った人だな……」
今の舌打ちは多分、自分に向けてのものだ。
リリヤの予測不可能で自由奔放過ぎる行動を、上手く制御できないことへの苛立ちを。オルグレンはきっと自分の力不足だと思っている。何かミスを犯したのだと。
(……いくら並の大人よりもしっかりしてるっていっても、やっぱり若いのよね)
物凄く大人びた子供だと思っていたが、今のオルグレンの言動は年相応の少年に見えて、微笑ましく思えた。
「……汚名を返上したいとは思わないのか?」
オルグレンは平時から言葉は終始丁寧だし。今もあまり表情に変化はない。
けれども少しだけ。
いつもより声を圧し殺して話すオルグレンが。何故だかリリヤには自分のことを励ましているようにも聞こえて。思わずからかうような言葉を返してしまった。
「……残念ながら少しも思わない。そう言ったらオルグレン様はそこを退きますか?」
こんなことを言ったらオルグレンは自分を軽蔑するだろうか。
心の中に仕舞い込んで。幾重にも蓋をして。押し隠した。
そうして抱えているものの重さに。微笑みながらもリリヤの顔に刹那の光が混じるのを。オルグレンは見逃さなかった。
「謝る気になったか?」
「……?」
ふわふわのベッドが心地よいのか。
こんな体勢で迫られているというのに、緊張感の欠片もなくリリヤが無意識に毛布をポンポン叩きながら。何か悪いことをしただろうかとしきりに可愛く首を傾げている。
「貴女という人は……」
オルグレンよりも別のことに気を取られている。
その無邪気さに力の抜けたオルグレンが。リリヤの胸元に頭を乗せるような格好でリリヤの上に体を重ねた。
「オルグレン様……重いです」
「直接触れてはいない」
「そうですが……」
だいぶオルグレンの話し方や、綺麗な顔に慣れてきたとはいえ。乗っかられるのは少し緊張する。
「オルグレン様?」
リリヤからの再三の呼び掛けに仕方なしに応えて。体を半ば起こしながら、オルグレンがその綺麗な顔をリリヤに近付けると。
「そういえばオルグレン様に初めてお会いしたときはこんなに小さな赤ちゃんだったのに……大きくなりましたね」
しみじみと言うリリヤに。オルグレンが驚きに目を見張ったのはほんの一瞬のこと。
(それにしてもまあ……随分と色っぽく育ったわね)
オルグレンの黒髪黒い瞳の美しい容貌を、リリヤは羨ましく思っていた。
「白髪の赤い瞳……この容姿で魔女なんて。奉仕活動でもしていなかったら誰も近寄ろうとは思わないのに婚約者にするなんて。オルグレン様は少し変わってますね」
独りぼっちは寂しい。怖い。だから人間を助けた。他人のためではなく保身のために。
「……貴女の髪も瞳も綺麗だ」
遠い昔の記憶を辿るように、過去に思いを馳せるリリヤに。オルグレンは一貫して態度を崩さない。
本当にリリヤのことをオルグレンが想っているように見えてしまうのは。
リリヤがどんなに無礼な態度をとっても。拒絶して心を固く閉ざしても。オルグレンは怒るどころかずっと傍にいて。離れようとしないからだ。
「オルグレン様。そんな気を使っていただかなくても……無理をしなくてもいいんですよ? 私は自分がどう見られているかくらい分かっていますから」
今更、そんなことで傷付いたりしない。そう言いかけたところで、オルグレンの責めるような紫暗の瞳が向けられていることに気付いた。
「リリヤ、俺は嘘は言っていない」
こんなときに名前で呼ぶなんてズルい。
責めているのではなく、それはリリヤを心配してのことだと。ここ数週間の地下牢生活を経てリリヤはよく分かっていた。
(……この子やっぱり良い子なのよね)
オルグレンは基本、よっぽどの緊急事態や必要に迫られない限り。相手が自分の意に反した行動をしても、怒りでコントロールしようとはしない。
権力にものをいわせて相手を屈服させるようなことはしないのだ。
では代わりにどうするかというと……
「貴女は一時黒の魔女と並び称された癒し手。偉業を成し得た稀有なる魔力を持つ魔女だと……そう言われていた貴女が小さな子供のように無断外出──脱獄を繰り返す姿は正直、見るに忍びないものがあるのだが……」
その女よりも綺麗な顔で。ただ淡々と思ったことを正直に述べるのみにとどめるのだ。が、これが意外と応える。
相手の期待に応えられなかった自分への失望と。オルグレンのリリヤを憐れむような台詞を真に受けて。リリヤは自身の不甲斐なさにちょっと落ち込んでいた。
正論は時に強く心に突き刺さるのだ。
「申し訳ありません……」
またも恒例の説教ならぬお小言が始まってしまい。萎縮するリリヤは。きっと子犬だったら耳が垂れ下がっている。
反省してしょんぼりと落ち込んで、すっかり弱った様子のリリヤに。オルグレンがらしくもなく軽く舌打ちした。
「まったく困った人だな……」
今の舌打ちは多分、自分に向けてのものだ。
リリヤの予測不可能で自由奔放過ぎる行動を、上手く制御できないことへの苛立ちを。オルグレンはきっと自分の力不足だと思っている。何かミスを犯したのだと。
(……いくら並の大人よりもしっかりしてるっていっても、やっぱり若いのよね)
物凄く大人びた子供だと思っていたが、今のオルグレンの言動は年相応の少年に見えて、微笑ましく思えた。
「……汚名を返上したいとは思わないのか?」
オルグレンは平時から言葉は終始丁寧だし。今もあまり表情に変化はない。
けれども少しだけ。
いつもより声を圧し殺して話すオルグレンが。何故だかリリヤには自分のことを励ましているようにも聞こえて。思わずからかうような言葉を返してしまった。
「……残念ながら少しも思わない。そう言ったらオルグレン様はそこを退きますか?」
こんなことを言ったらオルグレンは自分を軽蔑するだろうか。
心の中に仕舞い込んで。幾重にも蓋をして。押し隠した。
そうして抱えているものの重さに。微笑みながらもリリヤの顔に刹那の光が混じるのを。オルグレンは見逃さなかった。
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