28 / 47
本編
26、恋い焦がれるように
しおりを挟む
「邪念……え? オルグレン様が私にですか?」
ビックリして思わず座っていた丸椅子ごと倒れそうになった。
目をぱちくりさせたリリヤの反応に。ベッドで横になっているオルグレンが、拗ねたようにそっぽを向いた。
「貴女にそういう感情を抱いてはいけないのか?」
「ですがオルグレン様は以前にも私に触れてきたではありませんか……」
すると、オルグレンが反論するため逸らしていた顔を戻した。
「あのとき貴女の唇を奪ったのは咄嗟だったからだ。そうでもしなければ貴女は魔力を使い果たしていた。それに、貴女を思う感情に嘘はないと証明するためならと。出会ったばかりで邪念を抱いている余裕もなかったからな」
「な、な……」
リリヤがあからさまに戸惑うのを確かめると、オルグレンは一人納得したようにクスリと笑った。
(何だかものすごく手慣れてるというか自然体というか……というよりも……私が完全に子供扱いされてるだけなのかしら……)
何とも思っていない相手にキスしたり。
抱き締めたり。
仮の婚約者にしたり。
事情があるとはいえ、こんな軽々しく触れることができるなんて。そうして自然に感情を表現できるのは。自己肯定感の強い。とても恵まれた環境で愛されて育った人間の特長だ。
息するように愛情や信愛を伝える行為は、リリヤにはとても難しいことだった。
(きっと私が命を奪ったから……だから仕方なくなんだわ……)
でなければ説明がつかない。
それに、こういうことはよくあることなのだろう。命が関わる分、扱いが慎重になっているだけで。
男女の色恋沙汰に縁のないリリヤと違って。オルグレンなら若いのに経験豊富そうだ。きっとリリヤのことなど人生における軽い障害、躓いた石ころ程度にしか思っていないにきまっている。
「逆に貴女が俺をどう思っているのか知りたいところだが…………やはり答えてはくれないようだからな」
途端、ぎくりと身を固くしたリリヤの反応に苦笑して、オルグレンは軽く息を付くと。改まった口調で穏やかに告げてきた。
「幼い頃はただ訳も分からず貴女に会いたいと。ずっと思っていた」
「それでは会ってさぞかし失望したでしょうね……」
「失望……?」
何故? とオルグレンが首を傾げた。
「だって……」
「恋い焦がれるように貴女に会いたいと願っていたというのに?」
「恋ですか?」
他人事のように呟いて。何の冗談だと言い切る前に。オルグレンがリリヤの長いプラチナブロンドの髪を指に絡めて軽く引っ張った。
「オルグレン様……?」
リリヤの髪を愛でるオルグレンの仕草が、じゃれつく子猫のように見えた。
「あ……だからかしら。私がオルグレン様とこうして間近で話をしていても嫌だと思わないのは」
「何の話だ?」
「オルグレン様が子供だから私はオルグレン様に触れても嫌な気持ちにならないのかもと思って」
正確に読めたり読めなかったり。正直、オルグレンの感情はよく分からない。
「オルグレン様って大人びてるけど、やっぱり子供だから純粋なのかしら……」
リリヤが不思議と目を瞬かせていたら。オルグレンが徐に上半身を起こした。
「駄目ですっ! まだ起きあがらな……ぃ……っ!」
おでことおでこがくっつきそうなくらい近くまで顔を寄せて、オルグレンがリリヤの赤い瞳を覗いてきた。
「あ、あの…………」
互いの唇が触れ合いそうな距離感で髪を掴まれていては。逃げたくても逃げられない。
「子供に見られたくらいで貴女は赤くなるのか?」
「……もしかしてオルグレン様怒っていらっしゃいますか?」
「どうしてもというのなら。以前にも触れたように唇になら触れてもいい。俺は貴女にとっては子供のようだから平気だろう? お休みのキスと同じだと思えばいい」
「すればオルグレン様は大人しく寝てくださるのでしょうか?」
診察できてその上、手間もかからず眠りについてくれるなら……まあいいかも。などと安易な考えが一瞬過った。
「まさか……本気で言っていないだろうな?」
「…………」
やっぱりダメかとリリヤが残念そうにしていたら。何故だかオルグレンが凄く落ち込んだように見えた。
「あの、診療ですし。以前にも手袋越しに触れたとき。オルグレン様が安全なのは分かっていますから。だからその、他の人よりは平気かなと思っただけで……」
「……安全?」
オルグレンの行動は素早かった。言うなり、オルグレンは自身が横たわるベッドの上にリリヤを軽々と放り投げた。
「きゃあっ!?」
リリヤの重みで軋むベッドの音が静かな牢獄に響き渡る。
いったいどうやったのか、あまりにも早すぎて把握できなかった。
ひっくり返った小動物のように驚きに大きく目を開いて。リリヤはベッドの上で放心して動けなくなっていた。
「謝罪なら受け入れよう」
にこやかに笑っているオルグレンの声は低い。
リリヤの上に覆い被さるオルグレンの影にすっぽりと体を包まれて。リリヤは見下ろしてくるオルグレンを茫然と見つめ返していた。
ビックリして思わず座っていた丸椅子ごと倒れそうになった。
目をぱちくりさせたリリヤの反応に。ベッドで横になっているオルグレンが、拗ねたようにそっぽを向いた。
「貴女にそういう感情を抱いてはいけないのか?」
「ですがオルグレン様は以前にも私に触れてきたではありませんか……」
すると、オルグレンが反論するため逸らしていた顔を戻した。
「あのとき貴女の唇を奪ったのは咄嗟だったからだ。そうでもしなければ貴女は魔力を使い果たしていた。それに、貴女を思う感情に嘘はないと証明するためならと。出会ったばかりで邪念を抱いている余裕もなかったからな」
「な、な……」
リリヤがあからさまに戸惑うのを確かめると、オルグレンは一人納得したようにクスリと笑った。
(何だかものすごく手慣れてるというか自然体というか……というよりも……私が完全に子供扱いされてるだけなのかしら……)
何とも思っていない相手にキスしたり。
抱き締めたり。
仮の婚約者にしたり。
事情があるとはいえ、こんな軽々しく触れることができるなんて。そうして自然に感情を表現できるのは。自己肯定感の強い。とても恵まれた環境で愛されて育った人間の特長だ。
息するように愛情や信愛を伝える行為は、リリヤにはとても難しいことだった。
(きっと私が命を奪ったから……だから仕方なくなんだわ……)
でなければ説明がつかない。
それに、こういうことはよくあることなのだろう。命が関わる分、扱いが慎重になっているだけで。
男女の色恋沙汰に縁のないリリヤと違って。オルグレンなら若いのに経験豊富そうだ。きっとリリヤのことなど人生における軽い障害、躓いた石ころ程度にしか思っていないにきまっている。
「逆に貴女が俺をどう思っているのか知りたいところだが…………やはり答えてはくれないようだからな」
途端、ぎくりと身を固くしたリリヤの反応に苦笑して、オルグレンは軽く息を付くと。改まった口調で穏やかに告げてきた。
「幼い頃はただ訳も分からず貴女に会いたいと。ずっと思っていた」
「それでは会ってさぞかし失望したでしょうね……」
「失望……?」
何故? とオルグレンが首を傾げた。
「だって……」
「恋い焦がれるように貴女に会いたいと願っていたというのに?」
「恋ですか?」
他人事のように呟いて。何の冗談だと言い切る前に。オルグレンがリリヤの長いプラチナブロンドの髪を指に絡めて軽く引っ張った。
「オルグレン様……?」
リリヤの髪を愛でるオルグレンの仕草が、じゃれつく子猫のように見えた。
「あ……だからかしら。私がオルグレン様とこうして間近で話をしていても嫌だと思わないのは」
「何の話だ?」
「オルグレン様が子供だから私はオルグレン様に触れても嫌な気持ちにならないのかもと思って」
正確に読めたり読めなかったり。正直、オルグレンの感情はよく分からない。
「オルグレン様って大人びてるけど、やっぱり子供だから純粋なのかしら……」
リリヤが不思議と目を瞬かせていたら。オルグレンが徐に上半身を起こした。
「駄目ですっ! まだ起きあがらな……ぃ……っ!」
おでことおでこがくっつきそうなくらい近くまで顔を寄せて、オルグレンがリリヤの赤い瞳を覗いてきた。
「あ、あの…………」
互いの唇が触れ合いそうな距離感で髪を掴まれていては。逃げたくても逃げられない。
「子供に見られたくらいで貴女は赤くなるのか?」
「……もしかしてオルグレン様怒っていらっしゃいますか?」
「どうしてもというのなら。以前にも触れたように唇になら触れてもいい。俺は貴女にとっては子供のようだから平気だろう? お休みのキスと同じだと思えばいい」
「すればオルグレン様は大人しく寝てくださるのでしょうか?」
診察できてその上、手間もかからず眠りについてくれるなら……まあいいかも。などと安易な考えが一瞬過った。
「まさか……本気で言っていないだろうな?」
「…………」
やっぱりダメかとリリヤが残念そうにしていたら。何故だかオルグレンが凄く落ち込んだように見えた。
「あの、診療ですし。以前にも手袋越しに触れたとき。オルグレン様が安全なのは分かっていますから。だからその、他の人よりは平気かなと思っただけで……」
「……安全?」
オルグレンの行動は素早かった。言うなり、オルグレンは自身が横たわるベッドの上にリリヤを軽々と放り投げた。
「きゃあっ!?」
リリヤの重みで軋むベッドの音が静かな牢獄に響き渡る。
いったいどうやったのか、あまりにも早すぎて把握できなかった。
ひっくり返った小動物のように驚きに大きく目を開いて。リリヤはベッドの上で放心して動けなくなっていた。
「謝罪なら受け入れよう」
にこやかに笑っているオルグレンの声は低い。
リリヤの上に覆い被さるオルグレンの影にすっぽりと体を包まれて。リリヤは見下ろしてくるオルグレンを茫然と見つめ返していた。
0
あなたにおすすめの小説
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。
ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。
ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる