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本編
43、感情の答え
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照れたように笑うリリヤを前にしても。オルグレンにはまだリリヤの告白が信じられなかったようだ。
「それは……俺の魔力に支配された思考から出た言葉ではないのか?」
散々嫌いと言われてきた手前、リリヤの想いを素直に受け止められないオルグレンの反応はもっともだ。
「……オルグレン様に愛を告白してしまえばいずれは全てを話さなくてはならなくなる。だから私は愛しているとは言えなかったのです。全てを話してしまった今となっては過ぎた話しですが……と言ってもオルグレン様が私を疑われるのは当然だと思います……」
「貴女は俺の魔力と命を抱えたまま生きるつもりなのか?」
「それこそ愚問ですね。元より私の命はオルグレン様のものです。オルグレン様の命を奪ったその日から……」
オルグレンに半ば支配されたリリヤは、オルグレンに従いたいという思いを抑えるのに必死で、いつも本心とは真逆のことばかりを言ってしまった。オルグレンを好きだという気持ちは常に持ち続けていたが、それを直隠しにすることで何とか冷静な自分を保とうとしていたのだ。
「──では、そろそろわたくしも話に参加してよろしいかしら?」
それまでリリヤ達のやり取りを静かに見守っていた黒の魔女が、リリヤ達が乗るベッドに腰掛けながら、手にした杖で床をトントンと叩いている。
「ええ、大丈夫です。もう十分話すべきことは話しましたから」
リリヤは告白の返事を待たずに話しを打ち切ろうとした。が、そうは問屋が卸さなかった。
「あらちょっとお待ちなさいな。先程支配下に置かれそうになったと言っておりましたけれど……オルグレンは下僕ではなく貴女を花嫁にしたかったのではないかとわたくしは推察しているのですが」
話しを引き継いだ黒の魔女が言う下僕という単語にリリヤは苦笑しつつ。先程からずっと酷い疑心暗鬼に陥っている──といっても手はしっかりリリヤの腰元に回したまま離そうとしない、オルグレンの頭を愛おしそうに撫でた。
「黒の魔女……もう少し言い方というものがあるのではないですか?」
「他に言うなら奴隷かはたまた召使いか……さて、白の魔女のお好みはどれかしら?」
どれも嫌ですと喉まで出かけた言葉を呑み込んで、リリヤはオルグレンの頭を撫で続けている。そうして二人の魔女の間に挟まれながら、リリヤに子供扱いされているオルグレンはというと。リリヤから触れてくれたことに気をよくして、大人しくされるがままに頭を差し出している。といってもどうにも納得いかないような、複雑な顔をしているのは否めないが。
「でもまだ赤ちゃんだったオルグレン様が初めて見た魔女を花嫁にしようなんて思うでしょうか……?」
「それをいうなら下僕にしようとも思うかしら?」
「「…………」」
確かにそうだ。オルグレンが何を思ってリリヤを支配下に置こうとしたのか。黙り込んだ白の魔女と黒の魔女が揃ってオルグレンに微妙な視線を送る。
「……お二人とも、そのような目で見られても俺は覚えていない」
「そうですよね……」
「そのようですね……」
オルグレンにきっぱり言い切られて何故だか残念そうにする魔女二人。
つまらない顔をされたオルグレンは、先程、自分は魔力を持って生まれた子供だったと、そうと知らされたばかりだというのに。心に傷を負うような事態にはならなかった。
それというのもオルグレンを守っていたのが、最強とそれに次ぐ力を持った魔女二人であったことと。リリヤにこれほど深く愛されていたことに気付かされたからなのかもしれない。
「でもどうしても一つ分からないことがあるんです」
オルグレンの頭を撫でる手を止めて。リリヤが首を傾げた。
「何を気にしているのですか?」
「どうしてオルグレン様の心が読めなくなったのかなって……」
「それはあれでしょう」
「え?」
「オルグレンのリリヤに対する欲望が強すぎて。けして読ませたくないとオルグレン自身が強く願ったからではないのかとわたくしは思うのだけれど。どうかしらオルグレン?」
「母上、止めて下さい……」
そんな話題を本人の前で聞くな。そう困ったようにオルグレンが眉根を寄せている。
確かにオルグレンには強い魔力耐性がある。そう以前にもリリヤが説明していた。それはリリヤに読まれたくないとオルグレンが思った部分に関しては特に強く働くようだが。
先程の黒の魔女の説明では、オルグレンが普段からリリヤに読まれたくないような思考を持っているから、触れても読めなくなった。ということになる。
オルグレンがリリヤの反応を気にして目を向けると、
「欲望……オルグレン様が私に…………」
いや、でもオルグレン様はまだその、子供ですし……と言いながらも。リリヤは顔を真っ赤にさせて俯いた。オルグレンからそろそろと離れようとしていたリリヤの腰を、オルグレンはグイッと引き寄せた。
「まったく……くだらないことを考える人達だな……」
「オルグレン様、……あの、はっ離してくださ……っ」
「それはお断りする」
いうなり、オルグレンは寝ている合間もリリヤを気遣って、はめたままだった手袋を外した。そして直にリリヤの頬に触れてきた。
「オルグレン様……?」
そうして触れられても、やはりオルグレンの感情はさっぱり読めない。触れ合いには大分慣れてきたとはいえ、若干びくついたリリヤの耳元にオルグレンは穏やかな声で囁いた。
「これが先程の……貴女の告白の答えにはならないか?」
「私にオルグレン様の感情を読めとおっしゃるのですか? でもこうして直接触れていても最近はオルグレン様の感情はあまり読めな……」
「確か俺が読ませたくないと思っているから読むことができないのだと言っていたな。ということは俺が読まれることを強く望んでいる感情ならば貴女にも読むことができるのではないか?」
「え?」
「これが貴女への感情の答えだ」
そうして優しく壊れ物でも扱うように口づけられた。唇から伝わってくるのはリリヤに対する一途な愛──溢れんばかりの温かい感情に呑み込まれそうになる。
間違いなくオルグレンはリリヤに恋していた。そしてもちろん、オルグレンからは黒の魔女が言うような欲望といった、それらの感情を読み取ることはできなかった。が、
「オルグレン様あっあの……ちょっと熱くてその、めまいが……」
オルグレンのリリヤに対する想いの強さに。リリヤはオルグレンの胸元で耳まで真っ赤にしながら、ドキドキと高鳴る心臓を押さえた。
「大丈夫か?」
「はい、あ、あのっまっ」
「悪いが待たない」
くすくす笑いながらオルグレンはリリヤの顎をとらえて、啄むようなキスを繰り返す。それからゆっくりと唇をリリヤから離したオルグレンが、情熱的な色に染まった瞳を一心にリリヤへと向けている。
「……俺は貴女を愛している」
どうやら黒の魔女の言う通りらしい。
感情が乱れっぱなしのリリヤを心配しながらも、何故だかとても楽しそうにしているオルグレンの顔を。リリヤはまともに見ることができなくなってしまった。欲望についてはオルグレンが読まれないよう意識したのか、何も読み取れなかったというのに。どうしようもなくオルグレンが男だということを意識させられてしまって。リリヤは焦った。
リリヤが黒の魔女に助けを求めても、当然、それは無視された。
「息子の人生を丸ごと引き受けて守ってくれたのだから。今度は貴女の人生を息子に丸ごと守らせるのが筋というものだろう?」
黒の魔女に勝ち誇った笑みで告げられて、オルグレンの胸元にガッチリと捕らわれながら。リリヤはこの親子に降伏することを余儀なくされた。
「それは……俺の魔力に支配された思考から出た言葉ではないのか?」
散々嫌いと言われてきた手前、リリヤの想いを素直に受け止められないオルグレンの反応はもっともだ。
「……オルグレン様に愛を告白してしまえばいずれは全てを話さなくてはならなくなる。だから私は愛しているとは言えなかったのです。全てを話してしまった今となっては過ぎた話しですが……と言ってもオルグレン様が私を疑われるのは当然だと思います……」
「貴女は俺の魔力と命を抱えたまま生きるつもりなのか?」
「それこそ愚問ですね。元より私の命はオルグレン様のものです。オルグレン様の命を奪ったその日から……」
オルグレンに半ば支配されたリリヤは、オルグレンに従いたいという思いを抑えるのに必死で、いつも本心とは真逆のことばかりを言ってしまった。オルグレンを好きだという気持ちは常に持ち続けていたが、それを直隠しにすることで何とか冷静な自分を保とうとしていたのだ。
「──では、そろそろわたくしも話に参加してよろしいかしら?」
それまでリリヤ達のやり取りを静かに見守っていた黒の魔女が、リリヤ達が乗るベッドに腰掛けながら、手にした杖で床をトントンと叩いている。
「ええ、大丈夫です。もう十分話すべきことは話しましたから」
リリヤは告白の返事を待たずに話しを打ち切ろうとした。が、そうは問屋が卸さなかった。
「あらちょっとお待ちなさいな。先程支配下に置かれそうになったと言っておりましたけれど……オルグレンは下僕ではなく貴女を花嫁にしたかったのではないかとわたくしは推察しているのですが」
話しを引き継いだ黒の魔女が言う下僕という単語にリリヤは苦笑しつつ。先程からずっと酷い疑心暗鬼に陥っている──といっても手はしっかりリリヤの腰元に回したまま離そうとしない、オルグレンの頭を愛おしそうに撫でた。
「黒の魔女……もう少し言い方というものがあるのではないですか?」
「他に言うなら奴隷かはたまた召使いか……さて、白の魔女のお好みはどれかしら?」
どれも嫌ですと喉まで出かけた言葉を呑み込んで、リリヤはオルグレンの頭を撫で続けている。そうして二人の魔女の間に挟まれながら、リリヤに子供扱いされているオルグレンはというと。リリヤから触れてくれたことに気をよくして、大人しくされるがままに頭を差し出している。といってもどうにも納得いかないような、複雑な顔をしているのは否めないが。
「でもまだ赤ちゃんだったオルグレン様が初めて見た魔女を花嫁にしようなんて思うでしょうか……?」
「それをいうなら下僕にしようとも思うかしら?」
「「…………」」
確かにそうだ。オルグレンが何を思ってリリヤを支配下に置こうとしたのか。黙り込んだ白の魔女と黒の魔女が揃ってオルグレンに微妙な視線を送る。
「……お二人とも、そのような目で見られても俺は覚えていない」
「そうですよね……」
「そのようですね……」
オルグレンにきっぱり言い切られて何故だか残念そうにする魔女二人。
つまらない顔をされたオルグレンは、先程、自分は魔力を持って生まれた子供だったと、そうと知らされたばかりだというのに。心に傷を負うような事態にはならなかった。
それというのもオルグレンを守っていたのが、最強とそれに次ぐ力を持った魔女二人であったことと。リリヤにこれほど深く愛されていたことに気付かされたからなのかもしれない。
「でもどうしても一つ分からないことがあるんです」
オルグレンの頭を撫でる手を止めて。リリヤが首を傾げた。
「何を気にしているのですか?」
「どうしてオルグレン様の心が読めなくなったのかなって……」
「それはあれでしょう」
「え?」
「オルグレンのリリヤに対する欲望が強すぎて。けして読ませたくないとオルグレン自身が強く願ったからではないのかとわたくしは思うのだけれど。どうかしらオルグレン?」
「母上、止めて下さい……」
そんな話題を本人の前で聞くな。そう困ったようにオルグレンが眉根を寄せている。
確かにオルグレンには強い魔力耐性がある。そう以前にもリリヤが説明していた。それはリリヤに読まれたくないとオルグレンが思った部分に関しては特に強く働くようだが。
先程の黒の魔女の説明では、オルグレンが普段からリリヤに読まれたくないような思考を持っているから、触れても読めなくなった。ということになる。
オルグレンがリリヤの反応を気にして目を向けると、
「欲望……オルグレン様が私に…………」
いや、でもオルグレン様はまだその、子供ですし……と言いながらも。リリヤは顔を真っ赤にさせて俯いた。オルグレンからそろそろと離れようとしていたリリヤの腰を、オルグレンはグイッと引き寄せた。
「まったく……くだらないことを考える人達だな……」
「オルグレン様、……あの、はっ離してくださ……っ」
「それはお断りする」
いうなり、オルグレンは寝ている合間もリリヤを気遣って、はめたままだった手袋を外した。そして直にリリヤの頬に触れてきた。
「オルグレン様……?」
そうして触れられても、やはりオルグレンの感情はさっぱり読めない。触れ合いには大分慣れてきたとはいえ、若干びくついたリリヤの耳元にオルグレンは穏やかな声で囁いた。
「これが先程の……貴女の告白の答えにはならないか?」
「私にオルグレン様の感情を読めとおっしゃるのですか? でもこうして直接触れていても最近はオルグレン様の感情はあまり読めな……」
「確か俺が読ませたくないと思っているから読むことができないのだと言っていたな。ということは俺が読まれることを強く望んでいる感情ならば貴女にも読むことができるのではないか?」
「え?」
「これが貴女への感情の答えだ」
そうして優しく壊れ物でも扱うように口づけられた。唇から伝わってくるのはリリヤに対する一途な愛──溢れんばかりの温かい感情に呑み込まれそうになる。
間違いなくオルグレンはリリヤに恋していた。そしてもちろん、オルグレンからは黒の魔女が言うような欲望といった、それらの感情を読み取ることはできなかった。が、
「オルグレン様あっあの……ちょっと熱くてその、めまいが……」
オルグレンのリリヤに対する想いの強さに。リリヤはオルグレンの胸元で耳まで真っ赤にしながら、ドキドキと高鳴る心臓を押さえた。
「大丈夫か?」
「はい、あ、あのっまっ」
「悪いが待たない」
くすくす笑いながらオルグレンはリリヤの顎をとらえて、啄むようなキスを繰り返す。それからゆっくりと唇をリリヤから離したオルグレンが、情熱的な色に染まった瞳を一心にリリヤへと向けている。
「……俺は貴女を愛している」
どうやら黒の魔女の言う通りらしい。
感情が乱れっぱなしのリリヤを心配しながらも、何故だかとても楽しそうにしているオルグレンの顔を。リリヤはまともに見ることができなくなってしまった。欲望についてはオルグレンが読まれないよう意識したのか、何も読み取れなかったというのに。どうしようもなくオルグレンが男だということを意識させられてしまって。リリヤは焦った。
リリヤが黒の魔女に助けを求めても、当然、それは無視された。
「息子の人生を丸ごと引き受けて守ってくれたのだから。今度は貴女の人生を息子に丸ごと守らせるのが筋というものだろう?」
黒の魔女に勝ち誇った笑みで告げられて、オルグレンの胸元にガッチリと捕らわれながら。リリヤはこの親子に降伏することを余儀なくされた。
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