責任とって婿にします!

薄影メガネ

文字の大きさ
45 / 47
本編

43、感情の答え

しおりを挟む
 照れたように笑うリリヤを前にしても。オルグレンにはまだリリヤの告白が信じられなかったようだ。

「それは……俺の魔力に支配された思考から出た言葉ではないのか?」

 散々嫌いと言われてきた手前、リリヤの想いを素直に受け止められないオルグレンの反応はもっともだ。

「……オルグレン様に愛を告白してしまえばいずれは全てを話さなくてはならなくなる。だから私は愛しているとは言えなかったのです。全てを話してしまった今となっては過ぎた話しですが……と言ってもオルグレン様が私を疑われるのは当然だと思います……」

「貴女は俺の魔力と命を抱えたまま生きるつもりなのか?」

「それこそ愚問ぐもんですね。元より私の命はオルグレン様のものです。オルグレン様の命を奪ったその日から……」

 オルグレンに半ば支配されたリリヤは、オルグレンに従いたいという思いを抑えるのに必死で、いつも本心とは真逆のことばかりを言ってしまった。オルグレンを好きだという気持ちは常に持ち続けていたが、それをひた隠しにすることで何とか冷静な自分を保とうとしていたのだ。

「──では、そろそろわたくしも話に参加してよろしいかしら?」

 それまでリリヤ達のやり取りを静かに見守っていた黒の魔女が、リリヤ達が乗るベッドに腰掛けながら、手にした杖で床をトントンと叩いている。

「ええ、大丈夫です。もう十分話すべきことは話しましたから」

 リリヤは告白の返事を待たずに話しを打ち切ろうとした。が、そうは問屋とんやおろさなかった。

「あらちょっとお待ちなさいな。先程支配下に置かれそうになったと言っておりましたけれど……オルグレンは下僕ではなく貴女を花嫁にしたかったのではないかとわたくしは推察しているのですが」

 話しを引き継いだ黒の魔女が言う下僕という単語にリリヤは苦笑しつつ。先程からずっと酷い疑心暗鬼ぎしんあんきに陥っている──といっても手はしっかりリリヤの腰元に回したまま離そうとしない、オルグレンの頭をいとおしそうに撫でた。

「黒の魔女……もう少し言い方というものがあるのではないですか?」

「他に言うなら奴隷かはたまた召使いか……さて、白の魔女のお好みはどれかしら?」

 どれも嫌ですと喉まで出かけた言葉をみ込んで、リリヤはオルグレンの頭を撫で続けている。そうして二人の魔女の間に挟まれながら、リリヤに子供扱いされているオルグレンはというと。リリヤから触れてくれたことに気をよくして、大人しくされるがままに頭を差し出している。といってもどうにも納得いかないような、複雑な顔をしているのはいなめないが。

「でもまだ赤ちゃんだったオルグレン様が初めて見た魔女を花嫁にしようなんて思うでしょうか……?」

「それをいうなら下僕にしようとも思うかしら?」

「「…………」」

 確かにそうだ。オルグレンが何を思ってリリヤを支配下に置こうとしたのか。黙り込んだ白の魔女と黒の魔女がそろってオルグレンに微妙な視線を送る。

「……お二人とも、そのような目で見られても俺は覚えていない」

「そうですよね……」

「そのようですね……」

 オルグレンにきっぱり言い切られて何故だか残念そうにする魔女二人。

 つまらない顔をされたオルグレンは、先程、自分は魔力を持って生まれた子供だったと、そうと知らされたばかりだというのに。心に傷を負うような事態にはならなかった。
 それというのもオルグレンを守っていたのが、最強とそれに次ぐ力を持った魔女二人であったことと。リリヤにこれほど深く愛されていたことに気付かされたからなのかもしれない。
 
「でもどうしても一つ分からないことがあるんです」

 オルグレンの頭を撫でる手を止めて。リリヤが首をかしげた。

「何を気にしているのですか?」

「どうしてオルグレン様の心が読めなくなったのかなって……」

「それはあれでしょう」

「え?」

「オルグレンのリリヤに対する欲望が強すぎて。けして読ませたくないとオルグレン自身が強く願ったからではないのかとわたくしは思うのだけれど。どうかしらオルグレン?」

「母上、止めて下さい……」

 そんな話題を本人の前で聞くな。そう困ったようにオルグレンが眉根まゆねを寄せている。

 確かにオルグレンには強い魔力耐性がある。そう以前にもリリヤが説明していた。それはリリヤに読まれたくないとオルグレンが思った部分に関しては特に強く働くようだが。
 先程の黒の魔女の説明では、オルグレンが普段からリリヤに読まれたくないような思考を持っているから、触れても読めなくなった。ということになる。
 オルグレンがリリヤの反応を気にして目を向けると、
 
「欲望……オルグレン様が私に…………」

 いや、でもオルグレン様はまだその、子供ですし……と言いながらも。リリヤは顔を真っ赤にさせてうつむいた。オルグレンからそろそろと離れようとしていたリリヤの腰を、オルグレンはグイッと引き寄せた。

「まったく……くだらないことを考える人達だな……」

「オルグレン様、……あの、はっ離してくださ……っ」

「それはお断りする」

 いうなり、オルグレンは寝ている合間もリリヤを気遣って、はめたままだった手袋を外した。そしてじかにリリヤの頬に触れてきた。

「オルグレン様……?」

 そうして触れられても、やはりオルグレンの感情はさっぱり読めない。触れ合いには大分だいぶ慣れてきたとはいえ、若干じゃっかんびくついたリリヤの耳元にオルグレンは穏やかな声でささやいた。

「これが先程の……貴女の告白の答えにはならないか?」

「私にオルグレン様の感情を読めとおっしゃるのですか? でもこうして直接触れていても最近はオルグレン様の感情はあまり読めな……」

「確か俺が読ませたくないと思っているから読むことができないのだと言っていたな。ということは俺が読まれることを強く望んでいる感情ならば貴女にも読むことができるのではないか?」

「え?」

「これが貴女への感情の答えだ」

 そうして優しく壊れ物でも扱うように口づけられた。唇から伝わってくるのはリリヤに対する一途な愛──あふれんばかりの温かい感情に呑み込まれそうになる。
 間違いなくオルグレンはリリヤに恋していた。そしてもちろん、オルグレンからは黒の魔女が言うような欲望といった、それらの感情を読み取ることはできなかった。が、

「オルグレン様あっあの……ちょっと熱くてその、めまいが……」 

 オルグレンのリリヤに対する想いの強さに。リリヤはオルグレンの胸元で耳まで真っ赤にしながら、ドキドキと高鳴る心臓を押さえた。

「大丈夫か?」

「はい、あ、あのっまっ」

「悪いが待たない」

 くすくす笑いながらオルグレンはリリヤの顎をとらえて、ついばむようなキスを繰り返す。それからゆっくりと唇をリリヤから離したオルグレンが、情熱的な色に染まった瞳を一心いっしんにリリヤへと向けている。

「……俺は貴女を愛している」

 どうやら黒の魔女の言う通りらしい。
 感情が乱れっぱなしのリリヤを心配しながらも、何故だかとても楽しそうにしているオルグレンの顔を。リリヤはまともに見ることができなくなってしまった。欲望についてはオルグレンが読まれないよう意識したのか、何も読み取れなかったというのに。どうしようもなくオルグレンが男だということを意識させられてしまって。リリヤは焦った。
 リリヤが黒の魔女に助けを求めても、当然、それは無視された。

「息子の人生を丸ごと引き受けて守ってくれたのだから。今度は貴女の人生を息子に丸ごと守らせるのが筋というものだろう?」

 黒の魔女に勝ち誇った笑みで告げられて、オルグレンの胸元にガッチリと捕らわれながら。リリヤはこの親子に降伏こうふくすることを余儀よぎなくされた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。

ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。 ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

処理中です...