執務室に鍵をかけたら 〜ある日の学長〜

インナケンチ

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100万ルブレの男

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 ブルーベリー200g、羊肉500g、惣菜コーナーのグリルチキン300g、そしてバケツサイズの容器に入ったカッテージチーズ———

 ベルトコンベアに乗って運ばれる商品をひとつひとつ手に取り、もたもたとバーコードを読み取りながら、プリコフ・K・コースチアは大きなあくびをした。
 そばを通りかかった中年男のマネージャーに睨まれ、咳払いでごまかす。

「2450ルブレ———袋は有料ですよ———はい、どうもありがとうございました」

 レジに並ぶ客が途切れ、プリコフは座ったまま背伸びした。キャスターつきの椅子を転がし、くるりと回りながら高い天井を仰ぐ。

 首都カミニから高速鉄道で5時間、ローカル線に乗り換えて1時間、そこからさらにバスで1時間もかかる片田舎。
 街で唯一のショッピングモール内のスーパーマーケットでプリコフは働いていた。
 働き口を世話してくれたのは、このスーパーを経営している叔父だった。

 金と女にだらしないがために軍から放り出され、無職でうろついていたところを金で買われて殺し屋になった。それも失敗して一度は逮捕されたが、早々に無罪放免となった。所属していた陸軍のつてで手に入れた銃や弾薬が実は仲間が密輸したものだと発覚し、軍がそれをもみ消したのだ。密輸した仲間たちも秘密裏に追放され、いまはそれぞれの地元へ帰っていた。

 運があるのかないのか。刑務所にぶち込まれなかったのはありがたいが、こんな安月給の退屈な仕事を一生続けるなんて地獄だ。叔父には悪いが、いずれ機会を見つけておさらばしよう。クジラへ行けば金になる仕事はごまんとある。今度こそ一発逆転のチャンスを掴んでやる。
 懲りもせず、プリコフは間違った方向へ希望を見出していた。

「お兄さん、レジ開いてる?」

 声をかけられ、プリコフはむっとした表情で振り返った。
 ベルトコンベアの向こう側に立っていたのは、ブロンドヘアの美しい人だった。
 プリコフはそのあまりの美貌に圧倒され、口をぽかんと開けたまま呆然とした。

「ねえ、聞いてる?」

 その人は手にしていたチョコレートバーを振り、にっこり笑った。
 プリコフは我に帰り、

「す、すみません、どうぞ———120ルブレです」
「ねえお兄さん、チョコレート好き?」
「は、はあ」
「じゃあこれあげる」

 そう言うと、その人はいま代金を支払ったチョコレートバーを差し出した。

「え、どうして?」
「お兄さん、素敵だなあと思って。ぼくとお友だちにならない?」

 ぼく……?

 プリコフは困惑した。

 男なのか?そう言われればそうとも見えるが、こんなに綺麗な男がこの世にいるのか?しかし声は男っぽいし、おっぱいもなさそうだ。大好物のおっぱいがないなんてありえない。でも……

 プリコフはレジから身を乗り出し、声をひそめた。
 その人もぐっと顔を寄せてくる。

「お友だちというのは、つまり……」
「ぼくが欲しいものをくれる人」
「欲しいもの?」
「そう」

 その人は唇の端を上げて魅惑的な笑みを見せると、チョコレートバーの袋を破って、ぺろりと舐めた。
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