8 / 10
100万ルブレの男
2
しおりを挟む
ブルーベリー200g、羊肉500g、惣菜コーナーのグリルチキン300g、そしてバケツサイズの容器に入ったカッテージチーズ———
ベルトコンベアに乗って運ばれる商品をひとつひとつ手に取り、もたもたとバーコードを読み取りながら、プリコフ・K・コースチアは大きなあくびをした。
そばを通りかかった中年男のマネージャーに睨まれ、咳払いでごまかす。
「2450ルブレ———袋は有料ですよ———はい、どうもありがとうございました」
レジに並ぶ客が途切れ、プリコフは座ったまま背伸びした。キャスターつきの椅子を転がし、くるりと回りながら高い天井を仰ぐ。
首都カミニから高速鉄道で5時間、ローカル線に乗り換えて1時間、そこからさらにバスで1時間もかかる片田舎。
街で唯一のショッピングモール内のスーパーマーケットでプリコフは働いていた。
働き口を世話してくれたのは、このスーパーを経営している叔父だった。
金と女にだらしないがために軍から放り出され、無職でうろついていたところを金で買われて殺し屋になった。それも失敗して一度は逮捕されたが、早々に無罪放免となった。所属していた陸軍のつてで手に入れた銃や弾薬が実は仲間が密輸したものだと発覚し、軍がそれをもみ消したのだ。密輸した仲間たちも秘密裏に追放され、いまはそれぞれの地元へ帰っていた。
運があるのかないのか。刑務所にぶち込まれなかったのはありがたいが、こんな安月給の退屈な仕事を一生続けるなんて地獄だ。叔父には悪いが、いずれ機会を見つけておさらばしよう。クジラへ行けば金になる仕事はごまんとある。今度こそ一発逆転のチャンスを掴んでやる。
懲りもせず、プリコフは間違った方向へ希望を見出していた。
「お兄さん、レジ開いてる?」
声をかけられ、プリコフはむっとした表情で振り返った。
ベルトコンベアの向こう側に立っていたのは、ブロンドヘアの美しい人だった。
プリコフはそのあまりの美貌に圧倒され、口をぽかんと開けたまま呆然とした。
「ねえ、聞いてる?」
その人は手にしていたチョコレートバーを振り、にっこり笑った。
プリコフは我に帰り、
「す、すみません、どうぞ———120ルブレです」
「ねえお兄さん、チョコレート好き?」
「は、はあ」
「じゃあこれあげる」
そう言うと、その人はいま代金を支払ったチョコレートバーを差し出した。
「え、どうして?」
「お兄さん、素敵だなあと思って。ぼくとお友だちにならない?」
ぼく……?
プリコフは困惑した。
男なのか?そう言われればそうとも見えるが、こんなに綺麗な男がこの世にいるのか?しかし声は男っぽいし、おっぱいもなさそうだ。大好物のおっぱいがないなんてありえない。でも……
プリコフはレジから身を乗り出し、声をひそめた。
その人もぐっと顔を寄せてくる。
「お友だちというのは、つまり……」
「ぼくが欲しいものをくれる人」
「欲しいもの?」
「そう」
その人は唇の端を上げて魅惑的な笑みを見せると、チョコレートバーの袋を破って、ぺろりと舐めた。
ベルトコンベアに乗って運ばれる商品をひとつひとつ手に取り、もたもたとバーコードを読み取りながら、プリコフ・K・コースチアは大きなあくびをした。
そばを通りかかった中年男のマネージャーに睨まれ、咳払いでごまかす。
「2450ルブレ———袋は有料ですよ———はい、どうもありがとうございました」
レジに並ぶ客が途切れ、プリコフは座ったまま背伸びした。キャスターつきの椅子を転がし、くるりと回りながら高い天井を仰ぐ。
首都カミニから高速鉄道で5時間、ローカル線に乗り換えて1時間、そこからさらにバスで1時間もかかる片田舎。
街で唯一のショッピングモール内のスーパーマーケットでプリコフは働いていた。
働き口を世話してくれたのは、このスーパーを経営している叔父だった。
金と女にだらしないがために軍から放り出され、無職でうろついていたところを金で買われて殺し屋になった。それも失敗して一度は逮捕されたが、早々に無罪放免となった。所属していた陸軍のつてで手に入れた銃や弾薬が実は仲間が密輸したものだと発覚し、軍がそれをもみ消したのだ。密輸した仲間たちも秘密裏に追放され、いまはそれぞれの地元へ帰っていた。
運があるのかないのか。刑務所にぶち込まれなかったのはありがたいが、こんな安月給の退屈な仕事を一生続けるなんて地獄だ。叔父には悪いが、いずれ機会を見つけておさらばしよう。クジラへ行けば金になる仕事はごまんとある。今度こそ一発逆転のチャンスを掴んでやる。
懲りもせず、プリコフは間違った方向へ希望を見出していた。
「お兄さん、レジ開いてる?」
声をかけられ、プリコフはむっとした表情で振り返った。
ベルトコンベアの向こう側に立っていたのは、ブロンドヘアの美しい人だった。
プリコフはそのあまりの美貌に圧倒され、口をぽかんと開けたまま呆然とした。
「ねえ、聞いてる?」
その人は手にしていたチョコレートバーを振り、にっこり笑った。
プリコフは我に帰り、
「す、すみません、どうぞ———120ルブレです」
「ねえお兄さん、チョコレート好き?」
「は、はあ」
「じゃあこれあげる」
そう言うと、その人はいま代金を支払ったチョコレートバーを差し出した。
「え、どうして?」
「お兄さん、素敵だなあと思って。ぼくとお友だちにならない?」
ぼく……?
プリコフは困惑した。
男なのか?そう言われればそうとも見えるが、こんなに綺麗な男がこの世にいるのか?しかし声は男っぽいし、おっぱいもなさそうだ。大好物のおっぱいがないなんてありえない。でも……
プリコフはレジから身を乗り出し、声をひそめた。
その人もぐっと顔を寄せてくる。
「お友だちというのは、つまり……」
「ぼくが欲しいものをくれる人」
「欲しいもの?」
「そう」
その人は唇の端を上げて魅惑的な笑みを見せると、チョコレートバーの袋を破って、ぺろりと舐めた。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる