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それぞれの思惑
皇帝
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どこでそうなった、と誰かに問いただしたいと彼は切実に思った。
四夫人と、各派閥からすすめられた妃賓をめとっただけで十分ではないか。
そう思うのは、自分だけらしくて四夫人を始めだれも否定はしてくれない。
噂の出所はきっと彼女たちー四夫人が自分を慰労するために、珍しくお抱えの楽師ではなく王宮の女官をその場に読んだことだろう。
あのとき、退室間際にその女官を彼女たちが褒めるから同意したこと、ではないだろうかとは思う。
憶測ばかりなのは、どこから噂がたったのいか今一つはっきりしないこと。
そして、四夫人が肯定も否定もしないことが拍車をかけている。
噂になっている女官は知らず存ぜずを通しているらしいとも聞いている。
その点だけはくだんの女官を褒めてもいいと思う。
中には、これを機会とばかりに売り込んでくる人間だっているのに、彼女はそうではないようだ。
おかげで騒ぎが大きくなりぎなくて助かっているのだが。
これ幸いと、行かないでおけばいいと考えた矢先に、後宮で妃賓が死んだ。
普通の死ではない。
病死や、自然死ならしばらくのあいだ喪に服していればいい。
そのあとは、自然となにもなかったように日々がつづくはずなのだ。
しかし、
「皇帝が新しい妃賓を選ぶかもしれない」という噂が出ている中で、それほど位の高くない妃賓が死んだのだ。
そのうえその死は、どうやら他殺らしいという。
これでそのまま、後宮に足を運ばずにやりすごすわけにはいかない。
そうしたくても、重鎮たちが許さないだろうし、さすがに妻の死に訪れないとなれば母から非難がくるだろう。
「うだうだ考える前に、とりあえず皇太后陛下のところへ足を運んだらどうです?」
「うるさい」
つらつらと考え事をしながら、椅子に深く沈んでいると乳兄弟でもある側近がため息とともに言葉を投げてくる。
「誰も選らばねぇから、騒ぐんでしょう。だったら、愛妾をつくっちまえばいいんですよ」
「言葉づかい!」
乱暴な言葉でおもしろい助言をよこすもう一人の長なじみに、即座に指摘が入る。
「小言ばかりだから、お前はいつまでも嫁が来ないんだ」
「お前みたいに、妓楼の女ばかりなじみよりはよほどもましだ」
二人の言いあいは見ている分には、面白いのでもっとやれと思うが、今回は飛び火してきそうなのでしかたなく立ち上がった。
ふたりはすぐに、言いあいをやめてこちらを窺う。
「母上のもとへ行き、ついでに四夫人を訪ねる。供をしろ、志明(シメイ)。海亮(カイリョウ)」
「「はっ」」
ざっと礼をとるふたりを連れ、行きたくはないが後宮へ足を運ぶ。
運んでしまえば、母上にあいさつをし、そのあと四夫人を招き芳美人の葬儀に関しての打ち合わせをする。
さすがに後宮で亡くなったのに、そのまま実家へ送り返して終わりでは派閥関係なく非難が怒るだろう。
仕方ないとはいえ、めんどくさいことだ。
「そういや。芳美人の死因って毒殺らしいですけど。知ってました?」
海亮の言葉に、頷くと彼はふっと視線を芳美人が使っていた宮のほうへ向ける。
釣られてそちらを見れば、彼女が素でいたすこしさびしい宮と、その先に梅の庭園が見える。
「彼女の宮は、後宮出入りに近かったんですよ。そばを通るものは多くて、彼女の宮に寄ったものを選別するだけでも困難ですよ」
四夫人と、各派閥からすすめられた妃賓をめとっただけで十分ではないか。
そう思うのは、自分だけらしくて四夫人を始めだれも否定はしてくれない。
噂の出所はきっと彼女たちー四夫人が自分を慰労するために、珍しくお抱えの楽師ではなく王宮の女官をその場に読んだことだろう。
あのとき、退室間際にその女官を彼女たちが褒めるから同意したこと、ではないだろうかとは思う。
憶測ばかりなのは、どこから噂がたったのいか今一つはっきりしないこと。
そして、四夫人が肯定も否定もしないことが拍車をかけている。
噂になっている女官は知らず存ぜずを通しているらしいとも聞いている。
その点だけはくだんの女官を褒めてもいいと思う。
中には、これを機会とばかりに売り込んでくる人間だっているのに、彼女はそうではないようだ。
おかげで騒ぎが大きくなりぎなくて助かっているのだが。
これ幸いと、行かないでおけばいいと考えた矢先に、後宮で妃賓が死んだ。
普通の死ではない。
病死や、自然死ならしばらくのあいだ喪に服していればいい。
そのあとは、自然となにもなかったように日々がつづくはずなのだ。
しかし、
「皇帝が新しい妃賓を選ぶかもしれない」という噂が出ている中で、それほど位の高くない妃賓が死んだのだ。
そのうえその死は、どうやら他殺らしいという。
これでそのまま、後宮に足を運ばずにやりすごすわけにはいかない。
そうしたくても、重鎮たちが許さないだろうし、さすがに妻の死に訪れないとなれば母から非難がくるだろう。
「うだうだ考える前に、とりあえず皇太后陛下のところへ足を運んだらどうです?」
「うるさい」
つらつらと考え事をしながら、椅子に深く沈んでいると乳兄弟でもある側近がため息とともに言葉を投げてくる。
「誰も選らばねぇから、騒ぐんでしょう。だったら、愛妾をつくっちまえばいいんですよ」
「言葉づかい!」
乱暴な言葉でおもしろい助言をよこすもう一人の長なじみに、即座に指摘が入る。
「小言ばかりだから、お前はいつまでも嫁が来ないんだ」
「お前みたいに、妓楼の女ばかりなじみよりはよほどもましだ」
二人の言いあいは見ている分には、面白いのでもっとやれと思うが、今回は飛び火してきそうなのでしかたなく立ち上がった。
ふたりはすぐに、言いあいをやめてこちらを窺う。
「母上のもとへ行き、ついでに四夫人を訪ねる。供をしろ、志明(シメイ)。海亮(カイリョウ)」
「「はっ」」
ざっと礼をとるふたりを連れ、行きたくはないが後宮へ足を運ぶ。
運んでしまえば、母上にあいさつをし、そのあと四夫人を招き芳美人の葬儀に関しての打ち合わせをする。
さすがに後宮で亡くなったのに、そのまま実家へ送り返して終わりでは派閥関係なく非難が怒るだろう。
仕方ないとはいえ、めんどくさいことだ。
「そういや。芳美人の死因って毒殺らしいですけど。知ってました?」
海亮の言葉に、頷くと彼はふっと視線を芳美人が使っていた宮のほうへ向ける。
釣られてそちらを見れば、彼女が素でいたすこしさびしい宮と、その先に梅の庭園が見える。
「彼女の宮は、後宮出入りに近かったんですよ。そばを通るものは多くて、彼女の宮に寄ったものを選別するだけでも困難ですよ」
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