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第二章 綾なす姦計

第二話 爪はじき

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「うまそうだな」
「京に来て初めてですよ。こんなに親切にされたのは」
「横柄な新撰組に歯向かったんだ。尊王贔屓そんのうびいきの都人も、少しは気を良くしたんじゃねえのか?」
 
 と、ひとまず西瓜は手押し車の脇に置き、堤はのっそり立ちあがり、焼け残った柱の下から見つけた分厚い洋書を引き出した。
 中をくぐってみたものの、放水により、印字が滲んで読み取れない。
 溜息混じりに天を仰げば、骨組みだけになった屋根の向こうに青く澄んだ夏空が見える。


「千尋ん所で、ちょっくら包丁とまな板、借りて来いや」
 
 堤は、わざと軽妙に言いつけた。

 先程の佑輔の言葉ではないが、帝の御膝元で洋学塾などするような『国賊』のために、御上が動くはずもない。

 たとえ攘夷浪士の仕業でなくても、火付けの下手人があげられることはないだろう。
 千尋に口利きを頼めば、奉行所も躍起になって探すだろうが、千尋を手先にしたくない。

 泣き寝入りするしか他にないなら、いっそ笑い飛ばそうと、堤は大きく伸びをした。


「嫌です」
 
 しかし、佑輔は即答した。
 そのうえ当て擦るように背中を向けて瓦を拾い、荷台に乱暴に投げつける。

 
「いつまで、むくれてやがるんだ」
「別に……、むくれてなんていませんよ」
「幕府の通詞をしていたことを、お前に言わずにいたことも、千尋に考えがあってしたことだ。お前をないがしろにした訳じゃねえんだ。わかってやれ」


「ええ、今回のことでわかりましたよ。嫌というほど」
 
 佑輔は堤を見ようとしなかった。

「千尋さんに近ければ近い人ほど、千尋さんの立場や考えを、ご存じでいらっしゃる」

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