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第三章 LOSE-LOSE
第七話 背中合わせ
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日差しの強さは相変わらずでも、吹き渡る風に秋の気配が漂っている。
庭のよしずに這わせた朝顔の種を摘む花村のところへ、佑輔が重い足を引きずるように濡れ縁から降りてきた。
紫紺色の長襦袢。
藤紫の単衣仕立ての薄物に、長襦袢と同色の角帯を締め、櫛けづられた黒髪を真新しい元結で束ねている。
花村は、いつ何時だろうと、身形をきちんと整える。
早朝でも深夜でも、一縷の隙なく着つくろう。
育ちというより、それが性分なのだろう。
「おはようございます。昨夜はよくお休みになれましたか?」
「無理ですよ」
首の裏を掻きつつ佑輔は苦笑する。
自分で蚊帳に招いたくせに、手足を縮めて居竦まる、千尋の葛藤が切なくて、眠ったふりを決め込んだ。
いつから自分は千尋の脅威になったのか。
一体いつから、背中合わせになったのか。
その意図をどんな風に受け止めて、解釈すればいいのかすらもわからない。
「昨夜は少し蒸しましたからね。寝苦しかったです?」
「そうですね」
寝苦しさの意味合いは違ったが、佑輔は顔に作り笑いを貼りつける。
枯れた朝顔の根を引き抜く花村の傍らで、雀が姦しく群れている。
毎朝、花村が粟やヒエなど、雑穀を撒いてやっているからだ。
飛び立つ一羽を目で追って、上天気の空を見上げた佑輔は、考えたところで致し方ない想念から、自分自身を引き剥がす。
「旦那様は、まだお休みでしたか?」
「私が着替えを済ませた時は、寝てました」
「このところ、何かの理由で東奔西走されていらしたようですから。疲れが溜まっているんでしょう」
「千尋さんは疲れると、寝相が悪くなるんです。昨夜も蹴られたり押されたりで、寝られたもんじゃなかったんです」
「そうなんですか?」
庭のよしずに這わせた朝顔の種を摘む花村のところへ、佑輔が重い足を引きずるように濡れ縁から降りてきた。
紫紺色の長襦袢。
藤紫の単衣仕立ての薄物に、長襦袢と同色の角帯を締め、櫛けづられた黒髪を真新しい元結で束ねている。
花村は、いつ何時だろうと、身形をきちんと整える。
早朝でも深夜でも、一縷の隙なく着つくろう。
育ちというより、それが性分なのだろう。
「おはようございます。昨夜はよくお休みになれましたか?」
「無理ですよ」
首の裏を掻きつつ佑輔は苦笑する。
自分で蚊帳に招いたくせに、手足を縮めて居竦まる、千尋の葛藤が切なくて、眠ったふりを決め込んだ。
いつから自分は千尋の脅威になったのか。
一体いつから、背中合わせになったのか。
その意図をどんな風に受け止めて、解釈すればいいのかすらもわからない。
「昨夜は少し蒸しましたからね。寝苦しかったです?」
「そうですね」
寝苦しさの意味合いは違ったが、佑輔は顔に作り笑いを貼りつける。
枯れた朝顔の根を引き抜く花村の傍らで、雀が姦しく群れている。
毎朝、花村が粟やヒエなど、雑穀を撒いてやっているからだ。
飛び立つ一羽を目で追って、上天気の空を見上げた佑輔は、考えたところで致し方ない想念から、自分自身を引き剥がす。
「旦那様は、まだお休みでしたか?」
「私が着替えを済ませた時は、寝てました」
「このところ、何かの理由で東奔西走されていらしたようですから。疲れが溜まっているんでしょう」
「千尋さんは疲れると、寝相が悪くなるんです。昨夜も蹴られたり押されたりで、寝られたもんじゃなかったんです」
「そうなんですか?」
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