10 / 16
花が蝶々か蝶々が花か さてはちらほら迷わせる
しおりを挟む
「あっ……、ジョギングの邪魔ですか?」
くぐもった低い声で訊ねられ、はっとして左右に首を振る。
「ああ、いいの。そうだよね。今週はずっと天気も良さそうだし、去年より観光客も多いんじゃないかって、保存会の会長さんも喜んでたよ。中心街の八尾近くの旅館やホテルも、祭の間は満室状態らしいから」
「それ聞くと……、なんか緊張しますよね」
渉がぼそぼそ話すので、千華は神社の前から、鳥居の前の石段に移動した。
石段は既に掃き清められていた。
千華が離れた路面は無舗装で、でこぼこだ。
自転車に乗った高校生の男の子が、タイヤが石で弾かれないよう、いかめしい顔で行き過ぎる。
「折谷君でも緊張するの? だって毎年踊ってるじゃない」
「そりゃあ、毎年緊張しますよ」
苦笑いを浮かべた渉が、ホウキの音をざっと立てた。彼の足元には落ち葉の山が出来ていた。
「岩崎さんは、本当に今年で止めちゃうんですか? 踊るのは」
どこか不本意そうに呟かれ、思わず渉を仰ぎ見た。
石段を半ばまで上った千華の足が居すくまる。ホウキを動かす渉を無言で目で追った。
「……うん。そのつもりだけど」
かろうじて千華は答えたが、単語だけしか出てこない。
なんだかこれではいつもと逆だ。
今朝に限って渉は妙に饒舌で、どうしたのかと戸惑った。
集めた落ち葉はチリ取りで、ビニール袋に入れてまとめ、境内の隅の焼却炉へと持って行き、ホウキもチリ取りも社務所の倉庫に入れている。
朝の日課の掃除も終えたようだった。
そんな渉を、ただ待っていた千華の元に、渉は早足で戻って来た。
「ジョギング。止めさせちゃって、すみません」
軽く息を弾ませ、鳥居をくぐり、渉も石段を下り始める。
そんな渉を、どうして待っていたのだろう。
渉に一言挨拶して、ジョギングを再開させる意識がまったく頭になかった。
千華は渉が石段を下りて来て、そんな自分に気がついた。
「あんなに上手なのに、もったいないな」
「……えっ?」
「今年は僕から頼んだんです。保存会の会長さんに、今年は僕と混合踊り、躍らせて欲しいって。岩崎さんが最後なら」
渉は頭に巻いた手拭いを外して手に下げ、汗濡れた黒髪をくしゃくしゃと掻き混ぜる。
それを、ぽかんと見つめていた。
渉は千華がいる石段まで来て足を止め、乱れた前髪の隙間から、千華をまっすぐ射抜いている。
くぐもった低い声で訊ねられ、はっとして左右に首を振る。
「ああ、いいの。そうだよね。今週はずっと天気も良さそうだし、去年より観光客も多いんじゃないかって、保存会の会長さんも喜んでたよ。中心街の八尾近くの旅館やホテルも、祭の間は満室状態らしいから」
「それ聞くと……、なんか緊張しますよね」
渉がぼそぼそ話すので、千華は神社の前から、鳥居の前の石段に移動した。
石段は既に掃き清められていた。
千華が離れた路面は無舗装で、でこぼこだ。
自転車に乗った高校生の男の子が、タイヤが石で弾かれないよう、いかめしい顔で行き過ぎる。
「折谷君でも緊張するの? だって毎年踊ってるじゃない」
「そりゃあ、毎年緊張しますよ」
苦笑いを浮かべた渉が、ホウキの音をざっと立てた。彼の足元には落ち葉の山が出来ていた。
「岩崎さんは、本当に今年で止めちゃうんですか? 踊るのは」
どこか不本意そうに呟かれ、思わず渉を仰ぎ見た。
石段を半ばまで上った千華の足が居すくまる。ホウキを動かす渉を無言で目で追った。
「……うん。そのつもりだけど」
かろうじて千華は答えたが、単語だけしか出てこない。
なんだかこれではいつもと逆だ。
今朝に限って渉は妙に饒舌で、どうしたのかと戸惑った。
集めた落ち葉はチリ取りで、ビニール袋に入れてまとめ、境内の隅の焼却炉へと持って行き、ホウキもチリ取りも社務所の倉庫に入れている。
朝の日課の掃除も終えたようだった。
そんな渉を、ただ待っていた千華の元に、渉は早足で戻って来た。
「ジョギング。止めさせちゃって、すみません」
軽く息を弾ませ、鳥居をくぐり、渉も石段を下り始める。
そんな渉を、どうして待っていたのだろう。
渉に一言挨拶して、ジョギングを再開させる意識がまったく頭になかった。
千華は渉が石段を下りて来て、そんな自分に気がついた。
「あんなに上手なのに、もったいないな」
「……えっ?」
「今年は僕から頼んだんです。保存会の会長さんに、今年は僕と混合踊り、躍らせて欲しいって。岩崎さんが最後なら」
渉は頭に巻いた手拭いを外して手に下げ、汗濡れた黒髪をくしゃくしゃと掻き混ぜる。
それを、ぽかんと見つめていた。
渉は千華がいる石段まで来て足を止め、乱れた前髪の隙間から、千華をまっすぐ射抜いている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる