ぬしに会わねば真の闇

手塚エマ

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花が蝶々か蝶々が花か さてはちらほら迷わせる

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「あっ……、ジョギングの邪魔ですか?」

 くぐもった低い声で訊ねられ、はっとして左右に首を振る。

「ああ、いいの。そうだよね。今週はずっと天気も良さそうだし、去年より観光客も多いんじゃないかって、保存会の会長さんも喜んでたよ。中心街の八尾やつお近くの旅館やホテルも、祭の間は満室状態らしいから」
「それ聞くと……、なんか緊張しますよね」

 渉がぼそぼそ話すので、千華は神社の前から、鳥居の前の石段に移動した。

 石段は既に掃き清められていた。
 千華が離れた路面は無舗装で、でこぼこだ。
 自転車に乗った高校生の男の子が、タイヤが石で弾かれないよう、いかめしい顔で行き過ぎる。

「折谷君でも緊張するの? だって毎年踊ってるじゃない」
「そりゃあ、毎年緊張しますよ」

 苦笑いを浮かべた渉が、ホウキの音をざっと立てた。彼の足元には落ち葉の山が出来ていた。

「岩崎さんは、本当に今年で止めちゃうんですか? 踊るのは」

 どこか不本意そうに呟かれ、思わず渉を仰ぎ見た。
 石段を半ばまで上った千華の足が居すくまる。ホウキを動かす渉を無言で目で追った。

「……うん。そのつもりだけど」

 かろうじて千華は答えたが、単語だけしか出てこない。

 なんだかこれではいつもと逆だ。
 今朝に限って渉は妙に饒舌じょうぜつで、どうしたのかと戸惑った。

 集めた落ち葉はチリ取りで、ビニール袋に入れてまとめ、境内の隅の焼却炉へと持って行き、ホウキもチリ取りも社務所の倉庫に入れている。
 朝の日課の掃除も終えたようだった。
 そんな渉を、ただ待っていた千華の元に、渉は早足で戻って来た。

「ジョギング。止めさせちゃって、すみません」

 軽く息を弾ませ、鳥居をくぐり、渉も石段を下り始める。
 そんな渉を、どうして待っていたのだろう。

 渉に一言挨拶して、ジョギングを再開させる意識がまったく頭になかった。
 千華は渉が石段を下りて来て、そんな自分に気がついた。

「あんなに上手なのに、もったいないな」
「……えっ?」
「今年は僕から頼んだんです。保存会の会長さんに、今年は僕と混合踊り、躍らせて欲しいって。岩崎さんが最後なら」

 渉は頭に巻いた手拭いを外して手に下げ、汗濡れた黒髪をくしゃくしゃと掻き混ぜる。
 それを、ぽかんと見つめていた。
 渉は千華がいる石段まで来て足を止め、乱れた前髪の隙間から、千華をまっすぐ射抜いている。

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