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第一章 必ず勝てる賭け

第17話 いびつな街

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「……わかったよ」

「サリオン」

「こんな騒ぎになった後の一人歩きは、俺も恐い」



 悔しげに項垂れたサリオンの肩を、今度はそっと抱き寄せて、アルベルトは厳粛な面持ちで歩き出す。サリオンも促されるまま表通りに足を向けた。

 アルベルトに借りを作るようで不本意だったが、仕方がない。

 通りの路肩に停められた馬車に、アルベルトと護衛の兵士二人と四人で乗り込んで、アルベルトの 斜向はすむかいに腰かけた。


 絹の布張りの椅子といい、窓枠にほどこされた金箔の装飾といい、ただの金持ちのベータやアルファが乗る馬車とは、やはり一線を かくしている。そして、他にも数名の兵士等が、騎馬で馬車の前後左右を固めている。



 表通りの路地とはいえ、所詮は貧民窟の一角だ。

 この仰々しい一行だけで狭い道は塞がれてしまい、すれ違う街娼や酔っ払いは、レンガ造りの家の壁に貼りついて、馬車や騎馬を避けている。

 ぎこちない沈黙に覆われた室内で、サリオンは鉄の車輪が立てる音を、聞くともなしに聞いていた。


 市街地に近づくにつれ、崩壊寸前の高層集合住宅に占拠された景観は、徐々に姿を変え始める。
 道幅もどんどん広くなる。
 車道の左右に、一段高い歩道を設ける余裕が生じるようにななっている。


 歩道に面して、外壁に囲われた一戸建ての邸宅が建ち並び、家々の庭の豊かな樹木が月明かりに照らし出され、歩道に葉陰を落としている。

 平和で静かな夜の街だ。

 サリオンは高価なガラスがはめ込まれた窓の外を眺めて思う。


 でこぼこした石畳みの狭い路地を、人々が昼夜を問わず押し合い、へし合いしている貧民窟は、この国の七割を占めている。
 残りの三割の広大な敷地を、上流階層の人間が独占しているいびつな街並み。
 不条理な国の皇帝と、どうして自分は同じ馬車に乗り合わせ、同じ景色を見ているのだろう。

 市街地の小高い丘の上には、竜の背のように延々と続く堅牢な城壁に囲まれた宮殿が、そびえ建っている。
 その宮殿の山麓に位置する、堅牢な外壁に囲まれた公娼も、同時に視界に入りつつある。

「着いたな」

 と、アルベルトは名残惜しげに呟いた。

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