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第三章 争奪戦
第1話 レナへの気遣い
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公娼に、アルベルトが来館できない日の夜は、その旨を伝えるため、王宮から使者が来る。
レナを贔屓にするようになってからは、必ずだ。
来館したら、一晩レナを買い占める。
そのため、私用や公務で来館できない場合は、夜営業が始まる前に、アルベルトは使いを寄越す。
無駄にレナを待たせない気遣いだ。
だから、アルベルトは必ずしも、レナに興味も関心も全くない訳ではないはずだ。
レナの心境に配慮する気持ちを持っている。
少なくともサリオンは、そう感じている。
ミハエルがダビデ提督をフッた騒動の翌日の夕方、王宮からレナ宛てに、羊皮の巻き紙が届いた。
巻き紙は、公娼の来館者を出入り口で出迎える見番役が最初に受け取る。
そして、雑務をこなす廻しに渡され、レナの居室に届けられる。
日没とともに始まる夜営業の、準備を始めたレナにサリオンも付き添って、身支度を手伝っていたのだが、中庭に面したガラス窓から夕陽が射し込む頃合い、部屋のドアがノックされると、サリオンの顔もレナの顔も一瞬強ばる。
使いの者は見番役だ。
手渡されるのは、いつも夜営業の支度の前後に、王宮から届く巻き紙だ。
今夜もレナは、背もたれと肘掛けのある長椅子に座り、サリオンはレナの足元に、ひざまずく。
薄紅色の染料を、真珠のような光沢のあるレナの足の爪に、絵筆につけて塗っていた。
ヘンナという、花の汁に染料を混ぜた液体だ。
階級の高い男娼は、手足の無駄毛は脱毛ワックスで取り除き、蜂蜜と無味無臭の植物脂を調合した美容クリームでを塗り込んで艶を出す。
手足の爪にはヤスリをかけ、華やかな薄紅色に染めるのだ。
日常の公務を果たす二人の間に、会話はない。
静寂に包まれたレナの居室に、真鍮製のノッカーの、硬質な音が二回聞こえた。
すると、掌で支えていたレナの足先が、きゅっと萎縮するのがわかる。
「皇帝陛下から御預りしたレナ様への書簡を、お届けに上がりました」
「はい。すぐに参ります」
レナを贔屓にするようになってからは、必ずだ。
来館したら、一晩レナを買い占める。
そのため、私用や公務で来館できない場合は、夜営業が始まる前に、アルベルトは使いを寄越す。
無駄にレナを待たせない気遣いだ。
だから、アルベルトは必ずしも、レナに興味も関心も全くない訳ではないはずだ。
レナの心境に配慮する気持ちを持っている。
少なくともサリオンは、そう感じている。
ミハエルがダビデ提督をフッた騒動の翌日の夕方、王宮からレナ宛てに、羊皮の巻き紙が届いた。
巻き紙は、公娼の来館者を出入り口で出迎える見番役が最初に受け取る。
そして、雑務をこなす廻しに渡され、レナの居室に届けられる。
日没とともに始まる夜営業の、準備を始めたレナにサリオンも付き添って、身支度を手伝っていたのだが、中庭に面したガラス窓から夕陽が射し込む頃合い、部屋のドアがノックされると、サリオンの顔もレナの顔も一瞬強ばる。
使いの者は見番役だ。
手渡されるのは、いつも夜営業の支度の前後に、王宮から届く巻き紙だ。
今夜もレナは、背もたれと肘掛けのある長椅子に座り、サリオンはレナの足元に、ひざまずく。
薄紅色の染料を、真珠のような光沢のあるレナの足の爪に、絵筆につけて塗っていた。
ヘンナという、花の汁に染料を混ぜた液体だ。
階級の高い男娼は、手足の無駄毛は脱毛ワックスで取り除き、蜂蜜と無味無臭の植物脂を調合した美容クリームでを塗り込んで艶を出す。
手足の爪にはヤスリをかけ、華やかな薄紅色に染めるのだ。
日常の公務を果たす二人の間に、会話はない。
静寂に包まれたレナの居室に、真鍮製のノッカーの、硬質な音が二回聞こえた。
すると、掌で支えていたレナの足先が、きゅっと萎縮するのがわかる。
「皇帝陛下から御預りしたレナ様への書簡を、お届けに上がりました」
「はい。すぐに参ります」
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