皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第五章 皇帝の寵姫として

第44話 良くも悪くも

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 食べ残した軽食を下男に頼んで片付けてもらい、ベッドに入ったサリオンは、今夜はアルベルトと二人で夕食を取るのだと決めていた。
 それからどのぐらい時間が経ったのだろう。
 ベッドから起き出して居室に入ると、高い窓から明々とした夕暮の日差しがさしている。
 そんなに眠り込んでしまうだなんて驚いた。

 公娼にいた頃は男娼たちも起き出して、風呂につかり、客を迎える化粧や支度を始める。
 公娼がいちばん慌ただしくなる夕暮れまで、寝入ってしまった自分に驚く。
 一晩中公娼を駆け回る廻しの下男は、男娼たちが床入りし、営業時間も済んだあと、翌朝まで仮眠をとる。
 そして、これまでならレナの部屋に赴いて、支度を手伝う頃合いだ。

 廻しとしては大幅な遅刻だ。
 それなのに。

 窓辺に設えられたソファに座り、今夜はアルベルトと二人でゆっくり食事をしようと心に決めたその時だ。
 両開け扉がノックされ、「俺だ」という声がした。
 
「はい」

 やはり夕食の誘いに来たのだろう。
 サリオンは務めて明るい声を出す。
 すると、両開け扉を警護の兵士が大きく開いた。
 そして威風堂々皇帝が入室してきたが、一人ではない。

「レナ……」

 レナは薄絹で丈の短い貫頭衣だ。
 今夜の務めの支度を終えて、そのままここへ来たといった風情を醸して立っている。

「やはりサリオンにはレナがいないと良くも悪くも落ち着かないのかもしれない。俺がレナに頼んで後宮入りを納得してもらってきた」
「アルベルトが?」

 あれほどレナから自立しろと教鞭を述べ続けてきたアルベルトが自ら身請けに行くなんて。
 
「レナが視界に入っていないと、サリオン自身が落ち着かない。心に不安を抱えたままでは、ここにいても幸せだとは言えないだろう」

 お前のためだと言われても腑に落ちない。

 アルベルト自身、レナに会う建前がなくなったことを惜しんでいるのか。
 または、レナが望まない妊娠をすることを回避させるためなのか。

 何にしろこちらの気鬱を晴らすためにはレナがどうしても必要なのだと、アルベルトの方から折れてきた。

「レナ」

 サリオンはレナに駆け寄った。

「夕べは? 客は取ったのか?」
「クリストファーから指名があったけど。そんな気分になれないからって断った」

「断ることはできたのか?」
「だから、そう言ってるだろ」
「サリオン。レナは後宮の最高位として今後は俺に仕えてもらう。とはいっても、後宮で生活してもらいながら、レナにとって最良の伴侶が見つかるように、俺が探す。だからといって俺の皇妃はサリオンだ。だからレナとは閨をともにすることはできない。それだけはこちらからの条件として提示している」
「それをレナは」
「受け入れてくれたからこそ、ここにいいる」

 レナはアルベルトの腕にしなだれかかるようにして、唇をつんと突き出した。
 納得している顔ではない。

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